第14話 スペースなスイーツ

「それにな、味もそこそこ拘ってみたんだ。水分補給の手段としても使えると思うんだ。たくさん余ってるから、シラナミアマネにもひとつ飲んでみてほしいんだっ」

 

 え。こわ……。

 

「それって……地球人が飲んでも大丈夫なやつ……?」

「大丈夫。害は無い…………」

「……」

「…………はずだ(ぼそり)」

 

 小さく、余計な一言が足されたような……。

 

「や、やっぱりボクは遠慮──」

「りんご味、なんだけどな……?(上目遣い)」

 

 りんご……。それって、地球りんご? 宇宙りんご?

 

「感想、聞かせてほしいんだ。ぜひ君に飲んでみてほしいんだ、シラナミアマネっ」

 

 手渡された。飲むしかないんですかね……。

 

 仕方ない。害は無いって信じよう。りんごなら、美味しいはずだし。

 ぱきょ。キャップを回して、開封。

 


「……ずずず、ずずごごごごっ。……ごくん」

「っ……(どきどき)」

 


 これは……。

 


「……………………マズイ……」

「がーん! そんなバカなっ!?」


 

 飲めなくはないけど……。未知なグロめの味がする。少なくとも、私の知ってるりんご味じゃない……。

 

「何味って言ってたっけ……」

燐獄りんご味だ! ワタシの星ではとてもポピュラーな果実なんだぞ!?」

「地球の林檎はそんな禍々しい漢字を充てがわないんだよ……!」

 

 口つけちゃったから、一応ぜんぶ飲み干す。うええー、謎味。

 


「くっ、このまま引き下がるわけにはいかないっ! ええと……これならどうだ!? 食べてみてくれ!」

 

 おかわり来ちゃったよ。

 


「……これは?」

「本来の用途としては、肉体を活性強化させるために噛むモノだ。噛んでいると、成分が無くなるまでのあいだ筋力をいくらか増強してくれるというモノなんだ。だがこれも、せっかくだからと美味しく感じられるよう作った……! 美味しいはずだ、今度こそっ!」

 

 今度は、直方体にパッケージされた手のひらサイズのものを手渡された。

 これ……たぶん、板ガムだ。なんか噛むものらしいし。そういえば、最近このタイプのガムあんま見かけないかも。

 


「名付けて、『ドーピンガム』だ!」

「そう……」

 

 気が進まないなぁ。

 


「いちご味だ」

 

 絶対私の知ってるいちごじゃない。

 どうせ『忌血獄いちご』とか書くに決まってる。


 

「じぃー……(そわそわ)」

 

 くっ。期待されてる。そんな目で見ないで。


 

「…………それじゃ、まあ、ちょっとだけね……」

 

 ぺりぺり。開封。

 10枚くらい入ってる。にしてもさっきのゼリーといい、なんで地球で普通に売ってるもののデザインとクリソツなんだろう。

 1枚だけ引き抜いて、包装を剥がす。

 ……やっぱりガムだ。板ガムだ。見た目だけなら。

 

「……っ(ぱくり)」

「!」


 噛む。噛む。……うん、ガムだ。そして、味は……。

 

「えー、と……」

「どっ、どうだ? これは美味しいよな? なっ……?」

 

 正直、微妙……。

 丁度いい例えは浮かばないけど、まあ……とりあえず、燐獄りんごよりはマシ。

 

「…………さ、さっきのよりは……美味しい、と思う」

 

 なぜか若干気を遣った感じのコメントに。

 

「! フ、フフフッ! よかった、汚名返上だな! 胃治護いちごはな、ワタシの大好きな味なんだ!」

 

 宇宙のいちご、そう書くんだ。漢字の組み合わせが胃薬みたいだね。


 

「……あ。ワタシ、味のことばかり気にしてしまっていたけど……本来の機能である、筋力増強の効果が出ているかもしれないな。ワタシと地球人とには、同じような効果がもたらされるはずなんだ」

「筋力増強……よくわかんないけど」

 

 見た目には……変化なし。特に筋肉がモリモリしたりとかはしてない。

 

「このガムは正直なところ、固く閉まってるビンのフタを開ける時くらいしか使い所のないものだからな。別段、りんごを握りつぶせるほどの怪力を得られるわけでもないんだ。割と持て余してしまってる発明品だ」

「宇宙燐獄りんごの硬さなんて知らないけど……うーん」

 

 手のひらをグーパー、グーパー。……わからない。

 足に力を込めて、ジャンプしてみる。


 

 ずだっ!


 

「うわっ!?」

「なっ!?」

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