第12話 どんなもんだい
「うん、似合ってる。これで一安心」
買ってあげたシンプルなサンダルとワンピースで、グッと普通の女の子らしくなったイリアちゃんを見て、ようやく肩の力が抜ける。
少し薄着過ぎる気もするけど、イリアちゃん本人としては別に寒くもないらしいのでこれでよしとする。
「ワタシのために、すまないな。ありがとうだ、シラナミアマネ」
「気にしなくていいよ。買ったの、ほぼボクの為みたいなものだし……」
セール品のすんごい安かったやつだし。
着心地を確かめるように、動いてみたり回ってみたりするイリアちゃん。その間に、私は貸してたジャージを回収。
「あっ……」
「はー、寒かった。上にもう一枚くらい着てくるんだったよ」
そういえば、潰れた家からはいろいろ回収する必要あるな……。着替えとか。破れてダメになってたりしてないといいけど。
「じぃーー……」
「……え? なに……?」
「……それ、暖かかったな」
「そう……? あっ、もしかしてやっぱり寒いの? 上着もう一枚あったほうがいい?」
「……大丈夫だ。別に……平気だ」
なんだかイリアちゃん、表情がもにょもにょしてる。
……見てるのは、私のジャージ? もしかして、気に入ってたのかな……。
微妙にしょんもりしている気がするイリアちゃんを連れて、スーパーを出て再び外を歩きだす。
長くて綺麗な白銀の髪がまだ幾らか人目を引くけれど、今度はせいぜいチラ見される程度で済んでる。
「ん……これにしておくか、忘れないうちに撮っておこう。少し時間をくれないか、シラナミアマネ」
「? うん、いいよ」
ごくありふれた一軒家の前で立ち止まったイリアちゃんは、出会った時から肩にかけて提げてた小さな鞄に手を突っ込んで……。
ゴツめのカメラを取り出した。
え……? 結構、でかくない?
「この家を全方位から撮って、UFOの擬態素材として使わせてもらうんだ。そうして、ワタシたちの目からすらもただ家が建っているようにしか見えないようにするんだ」
「あ、そうなんだ……それは、えと、すごいね?」
カメラのサイズ、鞄より若干大きい気がするんだけど……気のせいかなあ。頑張って詰め込んだのかな。
イリアちゃんはテキパキパシャパシャと他所様のおうちを撮ってゆく。……勝手に。
あれ? これって、いいのかな。バレたら怒られたりするやつじゃないよね……?
「よし! これで大丈夫だ。上からの角度の素材は……あとで適当に作ってしまおう。待たせたな、シラナミアマネ」
そう言ってイリアちゃんは、カメラをスポリと鞄に戻してしまう。
……いや、やっぱりスポリと戻せるのはおかしくない?
「イリアちゃん、その鞄ってさ……」
「んむ? これか?」
「ええと……さっきのカメラ、よく入るなぁって。見た感じ、かなり小さいのに……」
言ったとたん。
「すごいか!? すごいだろう!」
「うおう」
思わず私が仰け反っちゃうくらいの勢いで返された。なんだなんだ、目がキラッキラ輝いてるぞ。
「この鞄はな、中に入れたモノの存在次元を分解し圧縮し整理したまま留めることができるんだ! ワタシが登録したモノのみに限るが、見た目の体積の何千万倍もの収納スペースがあると考えてくれていい! 様々な道具を入れては取り出せる、とても便利なものなんだ!」
な、なるほど。ただの鞄じゃなかったってことか。
にしても、なんかイリアちゃんの勢いがすごい。
「しかもだな、これを発明したのはな……! ワタシが5歳の時なんだ!」
「えっ?」
発明? ワタシが?
「イリアちゃんが……作ったの?」
「そうだ! ワタシが構想し、ワタシが創作したモノだ! 正真正銘、ワタシの手がけた発明品だっ!」
「え、すご! しかも、5歳!?」
説明聞いただけでも凄そうな感じはよくわかってたから、ノータイムで称賛の言葉が飛び出した。
それを受けてイリアちゃんの口角は、プルプルプルと上がってゆく。なんとも可愛らしいドヤ顔に。
「フフッ、フフフッ! ニフフフフフッ! これはな! ワタシの発明したモノの中でも特にお気に入りなんだ! 今のところ一点物なんだ! この地球で、ずっと大切に使い続けていくんだ! 空き容量にもまだまだ余裕があるんだ! 愛着もわいて、名前を付けてしまったくらいだ!」
めっちゃ早口で言ってる。
褒められるのが嬉しいのか、自慢できるのが嬉しいのか……やたらと饒舌になるなぁ。
あっ。そういえば、何度か似たような反応を見た気がする……。もしかして。
「ワタシはこれを……『異次元ポシェット』と呼んでいるんだ!」
◯ラえもん?
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