第11話 ひとの温度

「って、んん?」

 

 気付けば人通りも多くなっていて、歩を進めるたび見知らぬ誰かともすれ違うように。ただ、それはいいんだけども……。

 

(見られてる……? 注目されてる? なんで……)

 

 まだニフニフ呟きながらニヤついてる本人は気づいてないみたいだけど、明らかにイリアちゃんが視線を集めてる。

 

「……あっ! そっか、服ぅっ!」

 

 次から次へと常識外れに浸りすぎて、当たり前なことに気づけてなかった! イリアちゃんの格好、お腹丸出しの下着みたいなインナー姿だし! よく見たら足とか、裸足だし!

 加えてこんな髪の色だ。少しでも外を歩けば、目立たないはずないのに……!

 

「ちょ、イリアちゃん……!(ひそり)」

「んむ?」

 

 声をひそめて、耳打ちしつつ。着ていたジャージの上を脱ぐ。

 

「とっ、とりあえずはコレを着て……! 靴とっ、服買いにいこう!」

「ああ、ワタシの心配をしてくれているのかな。でもな、安心してほしい。ワタシの服はこう見えてもな、体温を常にベストな状態に保つ機能が──」

「ちがうから……! 目立ってるから! 見られてるからっ!(小声)」

「……? おおっ、おおおっ!? いつのまに!? こんなにも……見渡す限りの、地球人!(大声)」

 

 今は宇宙チックな発言を、なるたけなんぼか控えてほしい……! たぶん痛い子としか思われないだろうけども!

 


「とにかく上だけ! ちゃんと着ておいてっ」

 

 お初にお目にかかる私以外の大勢地球人を見て、ふんすふんすと鼻息を荒くするイリアちゃんの肩に、着ていたジャージをばさりとかける。

 

「ん……。だからワタシは、別に寒くは」

「ほら袖、ちゃんと通して。チャックも、上まで閉めて」

「う、うん……」

 

 背の高い私のジャージのサイズは、イリアちゃんにはブカブカだ。でもまあ、下のインナーしっかり隠れてさっきより目立たないはず……。

 


「……」

「これでヨシ、まずは目指せ靴屋さん。サンダルとかでいいから……って、うううっ!? やっぱりこの時期、まだっ、冷えるなぁ……!」

 

 ジャージをパージした現在の私の装備は、下に着てた学校指定の体操服(半袖)。ぴゅうと腕を撫でてく風はもう、突き刺すみたいに冷たく痛い。早いトコお店に入ってしまおう……!

 


「て、あれ……? あの、イリアちゃん?」

 

 ついてきてない。イリアちゃん、足を止めてる。

 私が着せたジャージの、だぼだぼに余ってる袖をジッと見つめて。

 それを顔に、そっと、ゆっくり、近づけて……。

 


「……くん、くん」

 

「嗅がないでぇ!?!?」

 


 何してるのこの子! ……ていうか、く、くさかったのかな……! 力仕事してきてそのままだったし、やっぱり……!? うああ、恥ずかしいぃ……っっ。

 

「すっ、すまないシラナミアマネ。つい……」

 

 つい、とは……?

 

「いや、まあ、こちらこそ……なんていうか、ゴメンね……。きっ、汚いかもしれないけどさ、もう少し我慢して着ててくれると……」

「違うんだ、汚いなんて思ってないんだ。大丈夫、暖かい。ありがとうだ、シラナミアマネ」

「そ、そう……?」

 


 そこからイリアちゃんは、大人しくついてきてくれた。大きなスーパーが近いから、そこを目指すことにしよう。靴も服も揃うはず。ただ……お金、大丈夫かなあ。

 


「暖かいな。なあ、暖かいんだ、シラナミアマネ。フフフ」

「ううう……わたっ、ボクは、寒いんだけどね……っ。だのに、やっぱりまだ目立ってるしぃ……ぶるるっ! さむ!」

 

 お店に着くまで、少なくないはずの周りの視線を集め続けたイリアちゃんは。私の隣……よりも少し後ろを歩きながら。余った袖を擦り合わせたり、襟元に顔をうずめたりして。

 


「すん、すん。……はふ。ニフフっ」

 


 なんだかずっと、楽しそうだった。

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