第9話 はじまり
「そっ、そうか……。男性だったんだな。それなら、仕方ないな……(しょんぼり)」
「ゴメンネ。デモ、シカタナイヨネ。ボク、オトコ。シカタナイ(棒読み)」
私の女としてのプライドが、宇宙の彼方まで飛んでった瞬間だった。
「いいんだ、謝らないでほしい。本当にどうか、気にしないでほしい。ところで、突然一人称が変わった気がするけど気のせいかな。確か、さっきまでは……?」
「イヤー、ソレモマタ、シカタナイヨネー(棒読み)」
「そ、そう、なのかな……? でも、そうだな。うん、仕方ない。君と子を成すのは、残念ながら……諦めるしか、なさそうだな」
勢いでウソついちゃったけど、多分これ正解を引いたと思う。おかげで、私が女児を妊娠させるとかいう犯罪的な展開からは逃れることができそう。男相手だと爆発するとかなんとか言ってたし……。
まあ実際のとこ、私は女で相手が宇宙人なら犯罪もへったくれもあったもんじゃないけど。
たださ、この歳で子持ちになるなんてさ。いやー、無理でしょ。少なくとも、責任取れる自信ないもん。
「でもな、ワタシは君に償わなければならないんだ。潰してしまった、家のこと」
「あぁ、それは……うん」
気にしないで、と言ってあげたいところだけど。家が無いのは本当に困る。両親もいないし、頼れるアテは多くない。友達の家とかに入り浸って家出少女みたいな真似を続けていくわけにもいかないだろうし……。
「それにな。やっぱり、地球人の協力者は欲しいんだ。ワタシのことを理解して、助けてくれる地球人が。いつか孕ませてくれる地球人の伴侶を見つけるまで、帰るつもりはないからな」
さっきからこの子、孕ませ孕ませ言い過ぎぃ……。外でこんなん聞かれたら、私が通報されて捕まりそう。
「だから……改めてお願いだ。地球の、男性の日本人。ワタシが女性の伴侶を見つけるまで、いや、君の家を建て直す目処が立つまでで構わないから……! それまでは、ワタシと共に居てくれないかな……?」
「うぇええ、うぅ〜〜〜〜ん……それは……」
生活面で面倒を見て欲しいってことだよね……? でも、どう考えても厄介ごとの類だしなぁ……! ていうかぶっちゃけ、実は女だってバレちゃう前にサヨナラしたいんですけど……!
「それに君も宿無しでは困るだろう? 代わりにワタシのUFOを使えば良い! 元の家と比べたら快適とまではいかないかもしれないけど、君のための個室も用意するから……!」
「ここを……? 家の、代わりに……」
なるほど。確かに雨風しのげるし、それは助かる……のかな。見た感じは下手な安ホテルより広そうで、窮屈だとは思わない。
どうやっても今すぐに家が戻ってこないのなら、ありがたい提案なのかも……?
「だめ、かな。困るかな。迷惑、かな……?」
「う……」
その幼い外見らしからぬ、理知的な顔付きではあったけど。露骨にあざとくない分、より切実さを感じさせる上目遣い。
──私は……。
「……まあ、そうだね。潰れた家が、なんとかなるまで……ここにお邪魔、させてもらおうかな」
「っ!」
そう答えたのは……懸命な様子に絆されたのか、ウソついて騙しちゃってる罪悪感のせいなのか、宿を得る為の打算によるものなのか、わからないけど。
家が突然なくなって、宇宙人と出会ったんだ。これが全部現実なら、もうなんていうか、今更だ。子供(?)ひとりの面倒みるくらい、きっと大して変わらない。……よね?
ま、もう何でもいいや。なるようになる。だ。
「いいのかな……! ワタシを助けて、くれるのかな。一緒に居ても、いいのかなっ」
「うん。大丈夫。力になれるかは、正直な所わからないけど……」
「なるとも! なれるともっ! 本当に……! ありがとうだっ!」
がしっ。
「わ……」
感謝の言葉も言い切らないうちに、机に身を乗り出してきて。
私の左手、ちっちゃな両手に包まれた。手、あつい。体温、高いなー。ぷにぷにだし。
「やっぱりだ……! 聞いていた通りだ。地球の日本人は、すごく親切で優しいんだ。来れて、良かったっ!」
「う、うん。そっか」
幼女、にっこにこ。めちゃくちゃ嬉しそう……。
そうまで喜ばれると、まあ、私も悪い気はしない。
にしても、これから一体どうなるのやら……。今のこの状況を、なにもかも飲み込めたとは……まだちょっと、言えそうにないし。
けれども、うん。
まずは〝これ〟から、始めよう。受け入れるための、いちばん最初。とりあえずは、だ。ひとまずは──。
「わた……ボクは、あまね。
自己紹介から、始めよう。
「ワタシはイリアだ! イリア・ノウン・ア・グリザイユだ! よろしくだ、シラナミアマネ!」
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