第2話 旅館の部屋で
車を敷地に乗り入れる前から、その大きな旅館の入り口では女将や番頭を初めとした従業員が、2人を待ち受けていた。
「よくいらっしゃいました」
「いらっしゃいませ、お疲れでしょう」
荷物をすぐさま引き受けられ、足元を気遣われ、まるで大臣のような歓待を受ける。後ろについていた他の客にも同様のもてなしをしていたので、これが通常なのだろう。
古い大きな和風旅館だった。
上り框を上がった板張りののロビーには、真ん中に大きな火鉢がある。暖房もぬくぬくと気持ちよく、スリッパのない素足でも十分暖かかった。
革張りのソファへ案内され、その場で記帳する。ウェルカムドリンクは温かい番茶に和菓子だった。
まずは部屋でゆっくりとお過ごしください、と部屋へ通される。
二間続きの和室に縁側つきだった。庭には小さな露天風呂までついている。
一方の和室へは低めのベッドが誂えてあり、もう一方にはこたつが置かれていた。
居心地の良い部屋だった。
「良い部屋じゃないか」
藤崎が喜んで、早速と上着を脱ぎ露天を見ようと縁側へ回る。
「先輩……」
一方新也はぞくぞくした感覚を覚えていた。
いる。
何か……この旅館には、いる。
いや、『いた』気配がする。
とても温かくくつろげる空気が漂っているのに、どこからか水の冷たい香りがした。
「失礼します」
そこに女将が現れた。取材の時間だ。人が増えたことにホッとして、新也は藤崎とともに女将を迎え入れた。
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