現代百物語 第14話 訊ねてくる
河野章
第1話 旅立ち
「なあ」
「嫌です」
「何も言ってないだろうが」
「それでも嫌です、どうせ碌でもない事でしょう」
「禄でもないかどうかは聞いてみないと分からないだろう」
「それでも嫌です」
「……温泉旅行」
「え」
「K県の、D温泉。1泊2食付き温泉三昧、山海の幸食べ放題、でも?」
「うっ……」
「取材は女将の話を聞く1時間のみ、お前は横でメモを取ってくれるだけで良いって言っても?」
「……」
「日当もつけよう」
「い、……行きます……」
これで、藤崎柊輔の取材旅行に、谷本新也(アラヤ)が同行することが決まった。
「それで、何の取材なんです?今回は」
季節は2月も終わり。
雪の残る目的地へ向かうレンタカーの車中で、新也は改めて旅の目的を訊ねた。
車は緩やかに山道を上り、下り、また上り……を繰り返していた。
目的地は山間にある温泉宿。
谷底を流れる川の近くに露天風呂を構える老舗旅館だった。
藤崎は新進気鋭の作家で、最近はホラーやオカルト雑誌での露出も増えていた。
新也は藤崎の高校時代の後輩で、ちょっとした特異体質を持っているおかげで、藤崎に呼び出され、あれやこれやと用事を言いつけられることが多かった。
「旅館に現れる、座敷わらし……のようなものの取材だ」
藤崎が運転席からちらりと新也の反応を伺う。
新也は予想通り、嫌そうに眉間にシワを寄せた。
「なんですか、その『ようなもの』って」
藤崎がくっと笑った。
「わからないから取材に行くんだ。……ただ、話によると、深夜、時折訊ねてくる子供がいる、らしい」
「訊ねてくる?座敷わらしが?」
新也は首を捻った。座敷わらしというのは、その家や屋敷に居座るもの……ではないのだろうか。
「面白いだろう?ちょっと次作のネタに出来ないかと思って」
「……面白いというか、何も起こらなければ良いですけど」
「起こってほしいけどな、俺は」
はは、と藤崎が笑って、新也ははあっといつものようにため息をついた。
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