おなくなり

@kakueisan1010

序章

 俺は死んでいる。

 死んでいると言っても、決して肉体がというわけではないではない。

 それ以外が死んでいるのである。


 俺は職を失い、それ故カネも屋根のある空間も失い、挙げ句の果てには家族をも失い、今まで築いてきた地位、精神、道徳、哲学が跡形もなく、音も立てず静かに崩れ去ってしまった。

 生きる為のピースを殆ど失ってしまったのである。

 今の俺に生きる価値なんてものはとうにない。


 快晴の今日、俺は死ぬことにした。

 快晴である事には特に理由はない。

 もしかしたら太陽が腐った俺をほくそ笑んでいるのかもしれない。

 太陽は植物を育むが、人間を養うことはないし、なんせ俺にとっての太陽はとうの昔に死んでしまったのだから。



 もう失うものはない。



 俺は肉体だけを残してあの世へと飛び立った。

 


 瞬間、快晴が淀んだ。






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