第9話 グリフィスの吸血鬼
吸血鬼はおおまかに二種類の類別がされている。
一般に想像されるのは噛みつかれたことで感染した後天的に吸血鬼と変わった者と、母の胎内で吸血鬼と化した吸血鬼として生まれついた者の二種類だ。
同じ吸血鬼という区分の中でも双方の差異は大きく、前者に比べて数こそ圧倒的に少ないものの単純な能力の差から後者は真祖吸血鬼と畏怖されている。
そして
まだ日も昇らない朝方、寮へと戻り起床の時間になるまでベッドの中で天井を見上げる。隣からは同室の友人の寝息が聞こえている。寝息の数を数えながら朝が来るのを待った。
時間になり、アラームが鳴りだしたことでルームメイトが目を覚ます。そうなってからようやくワンも体を起こした。
「おはよう、ワン」
「おはよ」
「今日はジョギングに行かなかったの?」
「あんな事件があったばかりじゃね……」
「まあ、確かにそうよねえ。覚えてないけど、私も襲われていたらしいし」
「怖いことなら忘れていた方がいいこともあるよ。そのまま忘れていろ」
「、はい。そ、れもそうよね、変に引きずるよりはね」
ワンの目が一瞬だけ赤く光る。ルームメイトは呼応するように動きを止めるが、すぐに何もなかったように話を続ける。
一連の吸血事件、初めのワンが被害者になった事件以外は全てワンによるものである。
ワンは生まれつきの、世界にたった七人しかいない真祖吸血鬼の一人だ。その中で戦う力を持たない最も弱い真祖でもあった。それこそ吸血鬼になりかけだったダニエル如きにさえ殺されるほどには。
しかしその反面、ワンは真祖の中でも一、二を争う支配力を持つ。それは噛みつくことで
その能力を駆使することでどうにかこれまで二千年ほど生き延びて来たのだが、影からグリフィス卿が支配するグリフィスの地ではそうはいかない。グリフィス卿はグリフィスの地に他の吸血鬼が入り込むことを嫌う。
グリフィスの地に住むにあたりワンとグリフィス卿との間には多くの協定があり、今回の一件はそのいくつかに抵触していた。だからこそワンは自ら動かざるを得なかったのだ。
犯人に襲われたとき、ワンは腹を裂かれてほとんど死に体、というか死んでいたせいで襲った犯人を確認することが出来ていなかった。異変に気が付いてグリフィス卿がやって来たときにはダニエルは姿を消していて、事件を大ごとにして誘き出すしか思いつく方法がなかったのだ。
もちろん、ルイス・グリフィスが犯人を突き止めてくれれば、それに越したこともなかった。そういうわけでワンはルイスに協力を申し出たわけで。
(ダニエルの記憶にあった赤い修道女……あれについてもグリフィス卿に告げねばなるまいな……)
少年院に行ったダニエルの記憶を思い出し、ワンは
「あ、ワン? 平気なのかい?」
「ええ、助けてくれたんですってね。どうもありがとう、ルイス、高良。あとでお礼を渡すわね」
「い、いや、そんな、僕らは当然のことをしただけだよ」
「なーに、照れてやがるんだか、礼は受け取らねえと逆に失礼になるんだぜ」
廊下で、ルイスと高良は笑いあっている。この数日の緊張感はどこへやら、周囲を行き交う学生たちも皆いつも通りで、グリフィス卿の守るグリフィスの地は今日も平穏そのものだ。
自分に注がれるグリフィス卿の薄青の瞳に気が付いて、ワンは彼に微笑みを浮かべるのだった。
かの吸血鬼はまだそこにいる。
グリフィスの地に吸血鬼が棲んでいる。
グリフィスの吸血鬼 百目鬼笑太 @doumeki100
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