第23話 だからなにも知らないんだ。あ、でも
鎌倉の祥子の実家に挨拶に行くことになった。ぼくの家は先に済ませてしまった。両親はすっごいよろこんだ。だって、親までぼくのこと一生童貞と思っていたんだから。それで高校のとき彼女をつれてきたら、あんなに大げさによろこんだのかと納得した。
手土産は悩んだ末、ぼくの実家のほうに本店があるらしき店のラスクにした。けっこういろんなところに進出してきていて、実家の方でしか手にはいらないというわけでもないんだけど。
こういうときって、食事をごちそうになるものなのかな。祥子と実家にお邪魔したら和室に通されたんだけど、お昼食べるでしょっていわれて、祥子は手伝いにたってしまった。ぼくはひとりお茶をすすった。
高校生くらいかな。女の子がひょっこり顔をだした。
「あ、お邪魔してます。奥田です」
「お姉ちゃんの婚約者だ」
「はい」
婚約者といわれると、恥ずかしくなってしまう。女の子はテーブルといわないか、名前がわからないけどちゃぶ台とも違う気がする。もっと立派で天板が長方形のやつ。そんな感じの台のぼく側に座布団を引き寄せてすわった。ぼくの方を向いている。
「えっと、祥子はお昼をつくる手伝いに行ったんだけど」
「そうなんだ」
もうテーブルと呼んでしまうけど、テーブルに肘をのせて手で頭をささえる。自分の家だからだろうか、ぼくのまえでくつろぎすぎなんじゃないか。スカートであぐらをかいている。
「奥田は、お姉ちゃんのどういうところが好きなの?」
「祥子はね、ぼくのことを好きになってくれたんだ。ぼくもはじめて仕事で会ったときからすごい美人だなと思ってたんだけど、勇気がなくてアプローチできなくて。そしたらデートに誘ってくれてね、ぼくは仕事なのかデートなのかわからなかったんだけど。ぼくが告白できるまで待ってくれたんだ」
「ふーん、お姉ちゃんかわってるね」
「うん」
「わたしだったら、そんなヘタレは相手にしないな」
「ごめんなさい」
「告白はどこでなんていったの?」
「あんまりいろいろ話すと祥子怒るんじゃない?祥子に聞いてほしいんだけど」
「お姉ちゃんが怖いの?」
「怖いわけじゃないけど、祥子が嫌がることはしたくない」
「ふーん」
「祥子のこと聞かせてよ」
「えー、高くつくよ?」
「そうなの?遊びにきてくれたらごはん御馳走するくらいじゃダメ?」
「おやつも追加なら」
「お願いします」
「なにが聞きたい?」
「小説書くくらいだから、子供のころおとなしかった?」
「そんなことないよ。本を読んでおとなしくしてるって感じじゃなかった。外で遊んでたよ」
「そうなんだ。山登りなんかも?」
「山には登ってなかったんじゃないかな。いま登るの?」
「山登りってほどじゃないけど、撮影につきあってくれてちょっとだけ登ったんだ。そこで告白。あっ」
「自白した。いいよ、知らなかったフリしてあとでお姉ちゃんに聞いてあげるから」
「かたじけない」
「もっとさ、彼氏つれてきたことある?とか聞かないの?」
「そういうのは、本人に直接聞いた方がよくない?」
「ふーん。奥田は聞けるんだ」
「聞けません。だからなにも知らないんだ。あ、でも」
「でも、なに。最後までいいなよ」
「ううん、なんでもない」
「なんかうれしそうで気持ち悪い」
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