第16話 奥田さんは、ただの被害者です。これは女の戦いの物語です
十一時くらいまで時間をもてあました。囲炉裏をかこんで話をすることくらいしか、やることがなかった。ぼくの過去の話をした。高校時代の彼女の話とか、専門学校時代の話から会社勤めをしていたころの話とか。幻の告白とか。
「いまの話はたいへん興味深い。多くの教訓に富んでいます。わたしはおなじ轍を踏まないように気をつけないといけませんね」
「そうなんですか?ぼくにとっての教訓じゃないんですか?」
「奥田さんは、ただの被害者です。これは女の戦いの物語です」
まったくわからなかった。どういうことだろう。
「いま、ぼくのことしか話しませんでしたよね」
「そこから裏で女性がどう考え、どう行動していたか、それを考えないと全体がわからないのです。そういう小説です。だから男性には本当のところが読めないようになっています」
「小説じゃなくて実話なんですけど」
「ひとつヒントをだしましょうか。山口さんは、会社の人に告白されてなぜ保留にしたのですか?奥田さんのことが好きなのに」
「ぼくのことが好きだというのは、勝手にそうかなと思っただけで、本当はわからないというか、いまから思うと好きじゃなかったってことかなと」
「まったく。そこからですか。アホもいいところですね。好きでもないのに、なぜ学食で話しかけてきて泊りがけで出かけようなんて言うんですか」
「撮影旅行に自分も行きたかったから?」
頭を抱える。
「まだまだ、わたしのイメージは不完全ですね。彫りが浅かったみたいです。なんで学食で話しかけるんですか。ほかにも話しかけてくる人がいましたか?一年間通って、二年生だったのでしょう?」
「撮影旅行に行きたい人があまりいなかったとか?」
「わたしも萌さんのように首絞めていいですか」
「いや、やめてください。本当に意識がなくなりそうだったんですから」
「事前に目をつけていたんですよ、奥田さんに。チャンスをうかがっていたんです。話しかける」
「山口なら、そんなことしなくても普通に話しかけてきたと思うけど」
「普通に話しかけて普通に友達になったとして、撮影旅行に一緒に行くといったら、なんでって思うでしょう?女の子と泊りで出かけるなんてと尻込みするんじゃないですか」
「あのころのぼくならそうかもしれない」
「だから、有無を言わせず主導権を握るために奇襲攻撃を仕掛けたんですよ。女はしたたかなんです。全部の行動に意味があるんです。そこを読んでいかないと、ただふりまわされるだけで、なんで付き合うことになったんだっけとか、なんでフラれたんだろうということになるんです」
「たしかに、高校のときの彼女にはなんでフラれたのかわからないです」
「山口さんが答えてましたね。一年も付き合って、クリスマスにいい雰囲気になってもキスもできないヘタレだったからです。ほかにはありえません」
ぐう。効くな。山口にいわれたときもこんなにこたえたっけ?
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