書評『なりたい自分になど、なれない』
書評『なりたい自分になど、なれない』 著:桜庭かえで
今日は、小説はやて文学新人賞受賞作品の紹介です。
神奈川県の多摩川沿いにある高校で繰り広げられる青春群像。この高校に在学する女子生徒が文学賞を受賞したことをきっかけに、彼女の周囲を取り巻く人間関係のめまぐるしい変遷と、彼女と密接に絡む生徒たち自身の決意、迷い、焦燥、優越感と劣等感、嫉妬心、気持ちの表裏……そういった思春期ならではの生々しく躊躇いのない感情のぶつかりあいが織りなす物語は、読者に息をつかせません。登場人物は多岐にわたり、最初こそとっつきにくいけれど、一度この物語にダイブしてしまえば、ページをめくる手を止められないし、文字を追いたくなって仕方がない気持ちに駆られてしまいます。そうして最後に訪れる結末は、青春小説ならではのほろ苦さと、未来を思わせる描写という救いで締めくくられます。
今年の快作が出たと思います。物語の構成は数年前に大ヒットした『浅田、バイト始めるってよ』とか、『木内は身を投げる』といった作品に見られる青春群像のオムニバス形式。エンターテインメントを意識しながら、読者自身にも「あなたは主人公をどう思うか」をしきりに語りかけてくる文学の入り交じった、そのバランス感も絶妙な一作です。物語が進むほど、文学賞を受賞した主人公の複雑なバックグラウンドをまざまざ見せつけられて、彼女の偉業を手放しで喜び、その才能に嫉妬するだけでは止まらなくなってくる。物語上にいるキャラクターに向けて放たれた問いのはずなのに、どうしてか、自分自身はどう考えるだろうか、と考え込んでしまう。たかが十五、六年を生きた程度でも、人間というのはこんなにも複雑なのだ、ということを突きつけてくる。読了後はそういうことを考えてしまって、しばらく放心してしまいました。
読み終えたあと、これを書いたのが僕と同じ十六歳の女子高生だと知って、驚嘆してしまいました。文章からあふれ出てくる瑞々しさや生々しさは、同じ世代だからこそ共感できるポイントも多くて、いつも紹介しているライトノベルとは違って語彙も平易だけれど、だからこそ描写に幅と奥深さがあって、読む人によって読了感は全然違ってくるんじゃないかと想像しています。
普段はライトノベルばかり紹介している僕ですが、これは本当に、このブログの読者にも手に取って欲しいです。もしかしたら本屋大賞にもノミネートされるかもしれないし、ドラマ化とか映画化とか全然ありえる話なんじゃないかな、と。
筆者も同年代だから、これからも次々に新刊を出していくだろうし、注目すべき新進気鋭の作家だな、と思いました!
それでは、今日はここまでです!
――ノベル書評サイト『書籍海溝』管理人 藤堂カヲル
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