第3話
俺の生活は、それから大きく変化した。
冒険者見習いの仕事は朝九時から始まる。
仕事内容は多岐にわたるが、だいたいが、他の冒険者が受けたがらないような依頼をこなしていくことになる。
街中の清掃などはもちろん、迷子の猫探しだったり、ギルドが出している店の手伝いなどだ。
仕事内容は多岐にわたり、様々な能力が求められる。
ギルド内の仕事の手伝いをさせられることもある。
その日も俺は朝四時に起床した。
町で農業の手伝いをしていた俺からすれば、日の出入りとともに仕事をするのが当然だったので、特にこの時間の起床に苦はない。
朝起きてすぐに、正拳突きを行い、体の調子を整える。
これを午前七時まで行い、その後宿にあるシャワーを借りて汗を洗い落とし、食事をとって仕事へと向かう。
ギルドの予定通りに仕事をこなしていき、午後十八時に仕事は終わりとなる。
家に戻り、三時間正拳突きをしたあと、シャワーで汗を流して、就寝する。
そうしてまた次の日……となっていく。
ただ、この仕事はやりがいも感じていた。
その日のスケジュールでは、午前一杯はモートンおばさんの部屋の片付けを行うことになっていた。
「あっ、ジョンくんっ! 今日もジョンくんが来てくれたのね!」
「ああ、今日もよろしく」
「こちらこそよ! それじゃあ早速お願いね」
モートンおばさんは腰が悪く、部屋内の掃除ができない。
ギルドはそういった市民への支援も行っていて、俺がその代行の仕事を行っているというわけだ。
週に一度、同じ時間で行う仕事だ。
俺はあまり話をするのは得意ではなかったが、モートンおばさんはおしゃべりだ。
夫がすでに亡くなっていて、一人暮らしなのも彼女のおしゃべりに拍車をかけているのかもしれない。
部屋の掃除を終えたあと、モートンおばさんのもとで昼食を頂いたあと、近所の孤児院へと向かう。
そこで、物の読み書きを教えることになっている。……まさか、イアントに教えられたそれがここで役立つとは思っていなかった。
本当は剣なども教えてほしいそうなのだが、あいにく剣術の心得はない。
小さい頃にちょっとだけ学んではいたが、あくまで素人の域なので、下手に教えれば変な癖がついてしまうだろう。
孤児院で二時間ほど物書きを教えたあとは子どもたちと遊ぶことになっていた。
子どもたちの笑顔は見ていて癒されるものだ。
それも終わり、帰り支度を済ませていると、シスターがやってきた。
「ジョンさん、今日もありがとうございました」
「気にしないでくれ、こっちも報酬をもらって仕事をしているんだしな」
「……ですが、今までこうして受けてくれた方はいませんでした。おかげさまで、子どもたちも本当に楽しみにしてくれているんですよ」
そういってもらえるのがまた嬉しかった。
微笑みを返してから、町を出る。
……さて、あと一つは日常的に行っていた仕事だ。
迷子の猫探しである。
……もうかれこれ三日ほど王都内を駆け回っているのだが、なかなか見つからない。
なんでも貴族の令嬢の飼い猫らしく、急いで探しているのだとか。
……といっても、王都内には野良猫も多くいる。
特徴を教えてもらっているとはいえ、正直言って見つかる気がしない。
それでも俺は毎日それっぽい野良猫を捕まえては、貴族の屋敷に連れていくのだ。
俺は両脇に猫を抱えながら、貴族街へと向かう。
貴族街入り口にいる騎士に、冒険者ギルドからの依頼であることを伝えるとすんなりと通れた。
「おっ、また猫を捕まえたのか。おまえ本当に猫に好かれるな」
「たまたまだ。それじゃあ」
ここ最近毎日来ているため、騎士とも顔見知り程度だった。
貴族街へと進み、目的の屋敷へと向かう。
屋敷へ向かい、入り口を守る騎士に猫を二匹見せた。
「特徴に近い猫を二匹連れてきた。どうだ?」
「……うーん、この二匹は違うな。ただ、こっちの猫がかなり似ている。もう少し目つきは可愛らしいんだけどな」
「……そうか」
まあ、どちらも鈴をつけているという特徴もあるようだったしな。
と、そんなことを考えていると屋敷から使用人を引きつれて一人の令嬢がやってきた。
俺の依頼人であるカナリアだ。
今年で十八歳になるそうだ。
「あっ、ジョンさん、来てくれましたのね」
嬉しそうに微笑んでこちらへとやってきた。
……敬語で話すのが正しいのだろうが、あいにくそういったものとは無縁の生活を送ってきた。
だから、俺は普通に話すしかできなかった。
ギルド側もそれを理解して、相手側にきちんと許可を取ってから俺を送りだしているので問題はないといえばないのだが。
「今日連れてきた猫も違かった、すまない」
俺が足元に猫を二匹置くと、カナリアが可愛がるように頭を撫でた。
猫もカナリアの手を受け入れながら、俺の足に頬ずりをしている。
「……そうですの。残念ですわ」
カナリアはひとしきり野良猫を撫でた後で、小さく息を吐いた。
「ありがとうございました。また見つけたら教えてくださいまし」
「ああ、わかった。それじゃあ俺はそろそろ戻る」
「はい。お会いできてうれしかったですわ。明日もこのくらいの時間に来ますの?」
「そうだな」
「分かりましたわっ。それではまた明日!」
「ああ、こちらもだ」
カナリアにそう返事をしてから、俺は立ち去った、
この依頼はわりと好きだった。
俺は才能なし、雇われの冒険者なので仕事に文句をつける理由はない。
だがやはり、好きな依頼、嫌いな依頼というのがやはりある。
好きな依頼は、やはり「ありがとう」と言ってもらえる仕事だ。
嫌いな依頼は、その逆。……まあ、相手はお金という対価を支払っているのだから、言葉なんて不要なのだというのは分からないでもないし、俺も納得はしているが、一言あるのとないのとでは感じ方が違うものだ。
……ともかく、カナリアのためにも早いところ見つけないといけないな。
そんなことを思いながら、ギルドに戻り今日の仕事の報告を終えてから家へと向かう。
借りている安い宿屋へと向かっている途中だった。
猫の鳴き声が聞こえた。
……もう仕事の時間は終わったが、やはり先ほどのカナリアの件もある。
すっかり暗くなってしまったが、最後にちょっとくらい確認に行っても問題ないだろう。
気になってそちらへと向かった俺は――そこで目を見開くことになった。
「……う、うぅ」
痛みを訴えるような悲鳴に似た声が、倒れた女性から聞こえた。
俺が彼女らへと視線を向けていると、一体の魔物がむくりと体を起こした。
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