第2話
オリハルコンの鎧を破った俺は、いよいよ冒険者としてスタート地点に立ったのだと思い、町を出ることにした。
今年で二十三歳だ。冒険者登録を行うには年を食いすぎてしまった。
多くの冒険者が十代のうちに登録している。
遅くとも、十八歳程度までには登録し、活動を開始しているものだ。
初めは、何かを守りたい、あるいは両親や町の人々を殺した魔物への恨みから冒険者を目指した。
しかし、今は違う。もちろん、まったくないわけではないが……今はそれよりも誰かのためになることをしたかった。
誰かのために、少しでも何かできることがあれば――。
これまでの生活で、多くの人に助けられてきた。
だからこそ、俺は改めて町をでて、冒険者ギルドへと向かうことにした。
出発のために、荷物をまとめていると、十五歳になったイアントが声をかけてきた。
イアントは孤児であり、いくあてがなかった。賢く、働き者だった彼女に俺は畑の管理を教え、だんだんと任せるようになっていった。
今ではほとどんイアントが管理しているほどで、俺は朝から晩まで正拳突きの日々だった。
「ジョン様……旅立ってしまうのですか?」
「ああ……叶わない夢だとしても、挑まずにあきらめたくはないんだ」
「ジョン様……わかりました。いつでも戻ってこられるよう、家は私が守ります」
「ありがとう、イアント」
畑は彼女に任せれば間違いないだろう。
美しく育った彼女を見て、ふと思った。
「結婚式を開くときは、ぜひとも招待してほしい」
「……誰が、誰と結婚するんですか?」
「いや、キミがだれかと……」
「……」
イアントはぶすっとした表情でこちらをにらんできた。
もう十五歳になって、ずいぶんと立派に成長した。
恋人がいてもおかしくはない年齢だろうし、町でもイアントはよく話題に上がっている。
さすがにイアントの晴れ舞台には参加したい。
イアントとの会話を最後に、俺は町を出た。
〇
十三年ぶりに、俺は王都へと来ていた。
冒険者ギルドへの登録を行うのなら、王都が一番だと聞いた。
依頼が多く、どんな冒険者でも仕事を行うことは可能だからだ。
何より、ギルド職員の質もよく、一人一人の冒険者へのケアもしっかりしてくれるそうだ。
より深い関係になる人もいるのだとか。
そんな話を、馬車でともになった冒険者から聞いていた。
王都についた俺は、さっそく冒険者ギルドへと向かった。
昔来た時はすべてのものが大きく感じたが、今はそういった感情はわかなかった。
大人に合わせて造られていたのだと思うと、時間経過による成長というのは大きなものなのだなと思わされた。
同時に、冒険者として活動できなかった十三年間の空白の時間も思い出してしまい、俺はそれ以上深くは考えなかった。
ギルド内に入ったが、人で賑わっていてどこに行けばよいかわからない。
以前は、年齢も若かったため、職員が心配そうに声をかけてくれたが、今は違う。
俺は近くを通りがかった職員に声をかけた。
「すまない、冒険者登録に来たのだが、どこに行けばいいんだ?」
「え!? 冒険者登録ですか!?」
「ああ」
彼女は俺の顔を見て、驚いていた。
しかし、すぐににこっと微笑んだ、
「それではあちらの受付に行ってください、担当の者が対応いたしますから」
「わかった」
……少し驚かれたのは俺を見てそれなりの年齢だと思ったからではないだろうか?
いわれるままに、受付カウンターへと向かう。
ちょうど人がいなかったので、すぐに俺の番となった。
「冒険者登録はここでできるのか?」
「はい、可能です。……えーと、こちらの用紙に必要事項を記入してください。文字の読み書きはできますか?」
「……ああ、一応は」
元々はできなかったが、イアントに教えてもらった。
彼女は孤児院にいた際に読み書きを習得したらしく、そのまま俺に教えてくれた。
孤児院では、子どもたちが何か一つでも生活できるための技術を身に着けさせるため、そういったことを教えているそうだ。
登録するものは、名前と所持しているスキルだ。
スキルに関しては、教会で発行されるスキル証明書が必要になるらしい。
旅の途中で教会に寄った際に、スキル証明書は発行してもらっている。
すべてを記入し、スキル証明書とともに戻すと、受付は困惑した様子だった。
「……これで、すべて、でしょうか?」
「……ああ」
やはり、そうなるよな。
受付はしばらう考えるように俺のスキル一覧を見て、それから近くの職員に声wかけた。
職員は困った様子で話をして、それが俺のところにも聞こえてきた。
「……あの、大変もうしあげにくいのですが、今のままでは冒険者登録を行うことはできません」
「なに? どうしてだ?」
まさか、登録できないなんてことになるとは思っていなかった。
最低のFランクとはいえ、冒険者を始められるのだと思っていたので、驚くしかない。
「ここ数年、命を落とす冒険者の数が増えていまして……共通していたのはスキルの所持数が少ないこと、また所持しているスキルが弱いことがあげられました」
「……つまり?」
「弱いスキルに関してはすべてリストアップされていて、それのみを所持している者とスキルを二つ以下しか所持していない場合は冒険者としての活動を禁止することになったんです」
「……そうか」
被害者を出さないための対策なんだろう。
国が決めたのなら、そこで暮らす以上はそれに従うしかない。
……ただ、まだすべてを諦めたわけじゃない。
「冒険者に近い立場で仕事をしたいんだ。何か、ないだろうか?」
俺が相談すると、受付は唇をぎゅっと噛んでからこちらを見てきた。
「……一応、あるにはあります。ただ、かなり大変ですよ?」
「それでも構わない、聞かせてくれないか?」
「……冒険者見習い、になることです」
「見習い、か。……それはなんだ?」
「元々は、十歳以下の子どもがお金を稼ぐために作られた制度ですね。冒険者と同じように依頼を受けられますが、討伐依頼などは受けられません。採取依頼などのように、外に出る依頼も禁止されています。何より、ギルド側から仕事を指示されます。……悪い言い方をするなら、職員以下の立場で、職員と同じ仕事をさせられるようなこともあるんです」
確かに、見習いだな。
「それでも、依頼を受けて誰か困っている人を助けられるのか?」
「……それは、そうですね」
「それだけ聞ければ十分だ。冒険者見習いとして登録してほしい」
「本当にいいんですね?」
「ああ」
「……わかりました。嫌になればすぐに解除もできますからね」
「了解だ」
冒険者になって活動したい。その思いは変わらない。
俺は今、多くの冒険者たちに助けられ、この命がある。
……命を助けるというようなことは無理でも、それでも誰かを助けられるようになりたい。
俺は冒険者見習いとして、冒険者登録を行った。
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