1章 プロジェクト始動
第一話 一難
ある日の放課後。
「――――大変! 大変! 大変だよ! 蓮くん!」
「うがが……な、なんですか! 先輩! ちゃんと聞いてますから揺らさないでくださいよ! どこまで読んだかわからなくなるじゃないですか!」
私は部室でいつものようにラノベを読んでいる蓮くんを揺らしていた。人がこんなにも困っているのになんて平然と本なんて読んでいるんだ。君は。
「いや、そんなこの人有り得ないって顔をあなたがしているんですか……それはこっちのセリフなんですけど」
そして、何でいつも私の考えが読めてしまうんだろうか? もしかして、蓮くんはエスパーか!?
「……エスパーではないですよ? 先輩の考えが読みやすいだけなんですよ?」
「なんだって!? いや、今はそんなことどうだっていいよ! 実は蓮くん! ある報告があってさ! ちょっと聞いてほしいんだけど……」
今回は大事な話だと思う。職員室で聞いた時はどうしようかと思ったが、これは蓮くんに聞いてもらった方が良いかも知れない。
「なんですか、先輩は今日も騒々しいですね。どうせ趣味の時間が足りないとか、趣味に使うお金が足りないとかの話でしょう?」
「卑しいよ!? 私そんな卑しくないよ!? 私がいつそんなこと言ったって言うの!?」
「いやいや、つい昨日「本を買うお金がなーい!!」って言ってたじゃないですか……」
やれやれ、と言いながらも蓮くんは読んでいたラノベに栞を挟んで私の方に体を向けた。
「な、何の話かなー? 私にはわからないなー?」
あぁ今日もいい天気。運動部の活気のある声が外から聞こえるなーいいね、青春。
「とりあえず、話進めてもらっていいですか。先輩が考えなしなのは知ってますから」
「ひ、酷いっ! 本当に私をなんだと思ってるの!」
「……先輩?」
「何故、疑問符!?」
「ああ、はいはい。先輩、先輩」
「雑じゃない!? 私の扱い!?」
この後輩は敬意というものを知らない。私が怖い先輩だったら怒られているはず。
「こ、コラー! 蓮くん!」
「なんですか? 先輩?」
平然と受け答えする後輩。
ぐぬぬ……どうやら私には敬意以前に足りないものがあるよう。
「もういいよ! 蓮くんに一つ一つかまってたらいくら時間があっても足りないよ!」
「えぇー僕が悪いんですか……」
全く、先輩への扱いがなってない後輩くんだ。私がイエスと言えばイエスなのだ、ははは。
「何を誇らしげに胸を張っているのかはわかりませんが、話を進めてもらっていいですか?」
「あぁそうだった! もぅ蓮くんが話のこしをおるから~」
何か言いたげな顔をした蓮くんだったがなんとか堪えたみたいだった。
「実はね」
「実は?」
ひとまず深呼吸。さっき職員室で顧問から聞いた話を蓮くんに話した。
「実は、この文芸部は今年度をもって廃部になります! 来年からはまた別の部活がこの部室を使うようになるので空けなくてはなりません!」
よし、噛まないように言えた。
「は?」
蓮くんを見てみると間の抜けた顔をしていた。
「まぁそうだよねーいきなり部活がなくなるって聞いたら驚くよねー」
「驚くよねーって驚かない方がおかしいですよ! どこでどうしたらそういう話になるんですか! 先輩もなんでそんなに落ち着いているんですか!」
「いやー聞いた時は驚いたんだけど、こうして蓮くんが驚く姿を見たらなんだか落ち着いちゃってー」
「えぇ……」
ホラー映画を見ている時に私も怖いんだけど、隣で見ている人がもっと怖がって驚いていたら意外と冷静にいれるアレかな? でも、蓮くんの顔を見ただけで安心したような?
「でもなんで今年度で文芸部が廃部になることに? なんでも急過ぎません?」
「いやー廃部の話は去年からあった話なんだ。今年になってその話に現実味が出たというか……」
「……もしかして、新入部員が僕一人って話の意図はそこにあったり?」
「鋭いね! 蓮くん! 大当たりだよ!」
「いや、当たっても嬉しくないですよ……」
仕方ないと言えば仕方ないことだ。このご時世、若者の活字離れが激しいって聞くし、読んでもマンガ本だったり、テレビをつければ有名な原作小説のドラマや映画をやっているからわざわざ時間を作って活字を読もうとする人は少ないかも知れない。それが学生となると別のことで時間をかけたりしているからね。SNSとか、ゲームとか、娯楽趣味はごまんと溢れているからね。やっぱり、仕方ないと言えば仕方ない。
「でも、文芸部には三年にもう1人先輩いましたよね? 僕は一回しか会ってないですけど」
「柚希先輩? あの人はねーお医者さんになることが夢だからねー勉強とかで忙しくてあまりこれないの。少しでも時間がある時とかには来てくれるだけど、そんながっつりと部活に参加できるわけじゃないからね」
「文芸部に名前だけ貸してもらっているみたいな?」
「うーん、それとも違うだけど」
なんとも説明しづらい人を出してきたなー。
田城 柚希(たしろ ゆずき)先輩は、三年生で私と蓮くんの先輩になる。私が一年の時から文芸部にいるし、柚希先輩から聞いた話によると柚希先輩が一年生の時から文芸部に所属しているらしい。悪い先輩じゃないんだけど、ちょっと謎が多い先輩だ。いつもふらっと現れたかと思うとふと消えていなくなっているような不思議な存在。それが柚希先輩だったりもする。
「まぁ問題は部員の数だけじゃないんだよね。これが」
「他にも問題が?」
「うん、実はね。去年の文芸部の活動……ほとんど何もしていないだよね」
「え? 活動していないっていうのはどういう意味で?」
蓮くんが困惑するのもわからなくはない。逆の立場だったら間違いなく私は困惑する。むしろ、パニックだ。
「いやーね。文芸部の活動って言ってもこれっていう報告がないわけ。あれをやりました、これをやりましたって言っても特に何も」
「そんなこと言っても何かしらの活動しないと部活の存続が……ってだから困っているんですけどね」
「困ったねー」
「他人事かよ! ……だいたい文芸部って何をする部活なんですか?」
「うむーん?」
「いや、うむーん、じゃなくて! 部活動は何をするんですかって話!」
「さぁ?」
「さぁって……」
正直、私も本来の文芸部の活動は知らない。去年は、今は卒業しちゃった当時三年生だった二人の先輩についていっていろんなことをしたって記憶しかない。まともな活動と言えば。
「そうそう、文芸部にも大会みたいなものもあるよ? コンクールとかの方が近いかな? 県内とかの文科系を集めて文化祭をやるの! 『総合文化祭』って言うんだけど、縮めてみんな『総文』って言うんだよ!」
「へぇー、でもそれって一応参加して活動しているってことじゃあ……」
「うーん、去年は参加はしていたけど何か作品を出したわけじゃなかったし、運営とかはちょっと手伝ったけど。文芸部の実績はないのは確かだし」
「それはそうですけど……」
蓮くんは納得いっていないご様子。それもそうだろう、自分が文芸部に入って一年足らずで部活がなくなると聞けばどうにかしたくなるのは心情。そんな君に朗報をあげようじゃないか!
「蓮くん! そんな不安な顔をしなくても、私には秘策があるんだよ! フ、フ、フ!」
「秘策ですか……何か嫌な予感がするんですけど」
「何を言うか、可愛い後輩くん。私だってね一応先輩なんだよ? 何の策もないままではないんだよ?」
「……」
「なんだよ! その半分諦めた顔は! もっと先輩を信用したまえよ!」
「……それで? なんですか? その秘策ってやつは?」
この後輩、話を進めるために私の言い分を無視した。可愛くない後輩め。
「いい度胸だなー、蓮くん……コホン! 話は置いといて。いいかい蓮くん? 私はあることに気づいたんだよ」
「あること?」
「そう、あること!」
私は自分のバックから一枚のポスターを出した。文字は手書きで所々にアニメのキャラクターみたいなものも書いてある。
「これ! これは今年のその総文のポスターだ! 私たちはこれに参加する!」
「えぇーと、運営で?」
「ううん、文芸作品参加で!」
「誰が?」
「私と君で!」
「なんで?」
「そうしないと部活なくなちゃうから!」
「……帰っていいですか?」
「ダメです!! 絶対参加!!」
私は持っていたポスターを蓮くんに押し付けた。蓮くんは嫌そうにポスターを眺める。
「……文芸作品ってどんなのがあったり?」
「えぇーとね、いろいろネットで検索したら俳句や短歌、小説などって書いてあったよ?」
「じゃあ先輩、俳句や短歌を書くんで?」
「なんで変な言い方になってるのかわからないけど……私にそういうものが書けると思ってる?」
「じゃあ、しょ……」
「そう! 小説!! ピンポンピンポーン! 大正解だよ! 蓮くん! 百点上げちゃう!」
「まだ言い切ってもないんですけど……」
さすがは私の後輩。一心同体とはこのこと。
「いや、満足顔をしている所悪いですけど、僕はまだ納得してませんよ?」
「大丈夫大丈夫!」
「何が!?」
「何事も否定から入るのは良くないことだよ、後輩くん! 男の子ならすべてを受け入れれる度量の大きさがないとこの先やっていけないよ?」
「無茶振りをノリで解決しそうなこと言ってません!?」
「し・か・も、だよ! この小説部門、私はライトノベル作品を出すことにしたよ!」
「何が『しかも』なんですか! 無茶振りに無茶振りを重ねて無理難題過ぎますよ! どうしてそうなるんですか!」
「私がライトノベルしか読まないからに決まっているからじゃないか! 何を言っているんだ! 君は!」
「あんたが何を言っているんだよ!!」
やれやれ、融通の利かない後輩だな。私が純文学なんて読まないのは最初に知っているはずなのに困ったことをいう後輩だ。どこが間違っているというのだろうか。
「どこどうしたらそういう結論に至るのか……先輩の秘策はやっぱりあてにならないです」
「なにおう! 名案じゃないか! 私のラノベ知識の発想力と、蓮くんの雑多主義のアニメ脳があれば面白い作品ができるはず!」
「ちゃっかり、今僕をバカにしましたよね?」
「誉めたんだよ! これなら最強の作品ができるはず!」
私は、活字はライトノベルしか読まない。そして、ファンタジーものが多めだ。対して蓮くんは無類のアニメ好き、ジャンル問わずあらゆるもの人気、不人気かかわず見ていると聞いている。活字に関しては活字原作があるアニメなどおおよそ目を通しているはずだし、お互いの方向性は間違っていないはずだ。二人ともそっち関連の話は得意なはず、そのことを武器にできればライトノベル作品としては面白いものできるはずと私は踏んでいる。
「……バカにされますよ?」
「ん?」
「だから、バカにされますよって言っているんです。他の参加者は普通の小説を書いてくるはずです。その中で僕たちだけライトノベル作品を書いていくのは異質なことですよ」
「いいさ、いいさ。別に変でもー。私たちにはそういうものしか書けないし、そういうものしか思いつかないよー」
蓮くんが真面目な顔して注意してくる。だからと言って、バカな私には他の方法は思いつかないや。
「今時だかこそ、ライトノベルっていうのは『普通』なんじゃないのかな?」
「どういうことです?」
「いや、何かのラノベのあとがきに書いてあったよ。他は覚えてないけど」
「……覚えておいてくださいよ、先輩」
何故か、このあとがきに書かれていた言葉を私は覚えていた。納得はできるが説明はできない。不思議な気持ちだ。
「そういえば、先輩。文章力はあるんですか?」
「し、失礼だな! 後輩くん! 私にある訳ないじゃないか!」
「なんで一度否定したんですか……ということは、もしかして僕が文章を書くんで?」
また変な言い方になった蓮くん。それはもちろん。
「イエス!!」
言わずもがな、蓮くんは私の言葉を聞いて家に帰ったよ。
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