神様は不意打たれました!

「やーりましたーっ!」


「ああ、アリスのお陰だ!」


 私達のコンビ力が俺TUEEEの能力を超え、遂にエセ勇者を元いた世界へ送り返したのです。

 何と言いますか……私としては、上位の神様がギフトを与えた主役を上回った功績は感慨深いものがあり――さらにはその物語上で自分が主人公として立ち回る現実に酔いしれていたのです。

 異世界に転生した者はそうやって、己が望んだ者へと変貌を遂げた事で先に思考した〈異世界転生ハイ〉状態となり見境もなくなるのだろうと考えさせられました。それも自分が同じ境遇に置かれて初めて分かる事実……物語を作っている側の立場では想像すらできませんでしたけど。


 この無法者な勇者を仕留めた事は私にとって、自分の心を成長させるほどに価値があったのです。


 そして喜びのあまりビアスさんの手を取り、ハッ!となった私は赤面しながらうつむいてしまいます。そもそも男性経験が皆無の私には、勝利を分かち合うスキンシップさえもハードルが高かった訳で——

 モジモジしながら視線を泳がせ、同じく視線を泳がせたビアスさんとなんとなしに距離を取ったのです。


 その初々しいとも表現できる自分達の行動は……でもあったのです。


 ふと上げた私の双眸が、歓喜から一転した危機的物に変貌したのは——距離を取った直後のビアスさんが黒光りする閃光に飲まれたのが原因でした。


「ビ……ビアスさんっ!!?だいじょう——きゃあっ!?」


 さらに——ビアスさんが弾かれるように宙を舞ったのを視界に入れた刹那。今度は私までもがその閃光の餌食となったのです。


 双方が離れた場所で鈍い音を立てて転がり——

 その中央へと空間を裂くように現れたのは、くつくつと嘲笑を湛えた黒甲冑にローブを纏った男でした。


「一部始終を拝見させてもらったよ?異物諸君。勇者のヤロウはとんだ慢心だったが、私はそうは行かない——」

「この世界の防衛者と、史実世界からの転生者を共闘させてはならないと言う事は今見た通り……勇者はいい咬ませ犬となった訳だ。」


 激しく地面に打ち付けられた私は、味わった事のない痛みに声も出せず……けれど耳を脅かす声が如何いかな存在かを悟ってしまいました。

 そんな声も出せない私に変わりその名を呼んだのはビアスさん。彼とて地面に叩きつけられた筈なのですが、それは戦い慣れた人のそれ——受け身で辛うじて無防備を晒す事態は避けていたのです。


「……ゴホッ!くっ——高みの見物とはいいご身分だな、チート魔王よ。」


 膝を付き立ち上がらんとするビアスさん。嘲笑したままそこへ言葉を突き付ける、魔王と呼ばれた男。けれど今の私は、打ちどころが悪かったせいで、未だ息をするので精一杯です。


「止めろ止めろ。チート魔王とか、そんなダサい名前で呼称するのは。私には怨嗟の魔王 アンドレアと言う崇高な名が存在する。今後はその名で呼称して貰おう……かっ!!」


 止まぬ嘲笑が、未だ立ち上がれぬビアスさんへさらなる攻撃の砲火を浴びせかけます。

 黒光りする閃光がどこから放たれるのか——それを辛うじて追えた視線の先には、宙空に浮かぶ無数の魔法陣サーキュレイダ。そこから無尽蔵とも思えるエネルギーが撃ち放たれていたのです。


 視界に映るそれは言わずと知れたチート魔法攻撃。

 魔法発現にかかる準備時間無し。発射角度や威力の制限は魔法陣で変幻自在。もはや自立制御で敵を排除する防衛システムさながらです。

 あまつさえそれがアンドレアを名乗った魔王の意のままなんて、何をどうしろと言いたい所です。

 ——そのはずでした——


 そう思考する私自身に生まれた閃き。

 ビアスさんがエセ勇者の弱点を見抜いた時に得た物。

 それはなんて事のないただの法則。

 この世界が本来持ち得て、且つ私達がいた世界線でも同様に全てを支配していた目に見えぬ存在。


 詰まる所、いくら世界を跨ごうと〈宇宙の法則〉と言う世界の真理から逃れられないと言う事実に——私は辿り着いていたのでした。

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