神様は煽りました!

「ほらほら、どうした!?先の勇者を穿った勢いはどこに行ったのだ!愚かなる異物よ!」


「……くそっ!?がっ——これは流石に……!」


 先のエセ勇者が撃ち放った雷撃が霞む様な、無尽蔵に放たれる黒色の魔法閃。

 方位自由、威力自在、出力無制限とまさにチート足らしめん攻撃は猛烈なる嵐を彷彿させた。

 戦闘に長けた筈のエージェントが一方的な逃げに徹する時点で、すでに正気の沙汰ではない。


 この異世界で、限定的にではあるが——エージェントらが戦い続けた区画を支配していた勇者と魔王は似通った力故一つの拮抗状態を保ち続けていた。が、今勇者が元の世界に強制送還された事で魔王のたがが外れ……勇者との戦いでも見せなかった素を見せはじめていたのだ。


 しかし……チート魔王アンドレアは気付いてはいなかった。

 彼は策略と銘打ち高みの見物を決め込んでいた。けれどそれを察した者が一つの思考に駆られている事を。


 魔王という言葉に敏感な異世界の住人ならば、それがチート攻撃を乱発する時点で絶望に暮れたであろう。異世界の住人ならば……である。

 そう——今戦力的に危険と判断し攻撃を集中させるエージェントビブリアスは、紛れもなくこの世界の住人だ。だが共にいる少女神様アリス


 魔王も己が目にした情報であれば理解していた。それこそが勇者の遅れを取った要因と察し、異物と称した二人を引き離したのだ。

 が、それはあくまで少女が実質単身では戦力外との見立てから来る戦略である。


「異世界への転生者……。史実世界では何らかの脅威に脅かされた者。」

「その心持ちは脆弱。社会的には……きっと——」


 故にチート魔王は気付かないのだ。

 眼前に誤って転生者した少女は、。目にした物語を吟味し、添削して世に送り出す者である。

 落ちこぼれと揶揄やゆされるのは、それが黒い実態の仄めかされた〈ウンエイン〉界での話であり……


 即ち——

〈ウンエイン〉界ではないがしろにされている彼女の実力——物語に関わる登場人物に与えたキーワードから無限の設定を生み出す能力など、魔王は知る由も無い。

 逆を言えば、少女神様に取って集めた情報からその人となりを想像するなど造作もない。

 登場人物をいくらでも生み出す事が叶う能力は、となり得るのだ。


「SF的な発想なら……物理法則が通じる世界であれば、そこに関わる人の容姿や行動原理も論理に基づいた物になるんだっけ。なら——」

「怨嗟の魔王、黒い魔法閃、高みの見物、誰にも見られない所で嘲笑。そして……虎の皮を被っての登場。力の源泉に、魔王の元々の性分が関わっているとするならば——魔王は?」


 思考に描いた情報は、少女神様が住まう世界の下層世界では一種の社会問題ともなる事象。

 そして上位に属する神が転生者の対象に選ぶ有象無象の内、最も多いターゲットとなる社会から外れた若者。

 社会からの隔絶を望み、自ら殻に閉じ籠もる事を選んだそれが魔王の正体であると――少女神様は推察した。


 同時に己が推察を確証へと導いていく少女神様。

 〈ウンエイン界〉で見向きもされず見過ごされた、彼女の持ちうる真価の一端が確固たる自信を生み出していたのだ。


 未だエージェントを襲う魔法閃の乱撃。

 くつくつとほくそ笑みながら弱者を甚振る事を楽しむチート魔王へ――

 今まで見せた事のない……真の女神の如き面持ちで


「チート魔王さん!あなたはもしかして、史実世界線ではそれこそ家にずっと引き籠ってばかりじゃなかったんですか!?」


 凛々しき声は魔法閃の衝撃が生む爆轟すらも掻き消し、チート魔王の聴覚を貫いた。

 途端にぱたりと止む魔法閃の嵐。

 そしてその先……己が忘れようとしていた史実世界に於ける黒歴史を揺さぶられ――


「今、なんつった。このクソアマがっ。」


 猟奇的な双眸の中に焦燥すら浮かべたチート魔王が、少女神様を射殺す様に睨め付けた。

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