神様は突撃しました!

「待たせたな、!俺が相手になってやるよ!」


「……はぁ、俺様を悪党呼ばわりすると思えば――何時いつぞやの君かい。散々力を無力化されて、まだ懲りない様だね。もう一人いた様だけど……そいつは転生者だろ?なぜ君が庇い立てする?」


「それをテメェと協議する気は——ねぇっ!!」


 岩場の外に響く声はビアスさんとが放つ口撃の応酬。

 程なく雷撃に混じり空を切る音がここまで響き……彼が戦闘の際振るう技だと直感します。


 その攻撃手段を含めて彼のこれまでの戦い方を簡潔に聞き、それに合わせた能力付与を行いました。けど——


「ビアスさんの攻撃は、中・遠距離からの風の刃を中心とした飛び道具と接近してからのクロスレンジ近接格闘——けどそのいずれもがあの勇者が張る俺TUEEE能力を源泉とした無双結界によって、届く前に打ち消されるんでしたっけ。」


 相手が放つ雷撃が邪魔して懐への接近もできないらしく、私の能力付与が活かせない状況でもあったのです。


 見習いの私ができる能力の付与では有効範囲も狭く、尚且つ直接相手の懐へ飛び込んでの展開が必須です。展開が成功すればこちらの独壇場でも――そこに至るまでが、状況を好転させるのも不可能と言えました。


「一人ではビアスさんが能力をことごとく無効化されてジリ貧……でも——」


 そう——

 一人ならば無理でも……

 確かに私は落ちこぼれ——けれど今の勇者は

 飛び出ればすぐにでも勘付かれるかも知れません。

 でもビアスさんが勇者を穿つため観察研究し得た事実が、私を後押ししてくれます。


「転生者のほとんどは、元いた世界で社会から排斥された者。それ故に己が力の研鑽で得られる油断なき心構えなどは皆無——」

「さらには彼らは、——決定的な隙を顕にする。」


 ビアスさんはすでに力を無力化されているので、勇者には強者とすら見なされていません。だからこそ……その強者を——

 全てはあの勇者に悟らるまでの刹那の間に、私が勇者を威圧できるかにかかっているのです。


 大口を叩いたからには一世一代の大勝負。それこそあの勇者が無理難題を押し付けて来る大神様だと思って事に当たります。

 と、何か大神様の事を思い出したら腹が立って来ました。

 元はと言えば大神様があんな無茶な仕事を振って来たから、この様な事態に巻き込まれた訳で――


「……あんの大神ヤロウ――ちょームカつくっっ!!」


 思い出した勢いで私は岩場から飛び出したのです。それはもう人が変わった様に。

 これを〈異世界転生ハイ〉とでも言うのでしょうか……転生者が無法に走る理由がほんの少しだけ理解に至った私。けれども――


 抜けた岩場の切り立った先端に立ち思考します。

 今滅びを迎えんとする世界を憂いながら。

 それを招来せんとするを睨め付けながら。


「てめぇエセ勇者――好き勝手暴れやがって!てめぇはあの、無能な大神ヤロウと大差無いクソヤロウなんだよっ!」

「けどこれ以上世界を好きにはさせねぇ……アタシがぶっ飛ばしてやっから、そこで待ってやがれっ!!」


「……な、何だ!?まさか、俺よりも上位の能力者!?ばば、ばばば……バカなっ!?そんなはずは――」


「――気を引けとは言ったが……お前は誰だよ(汗)」


 視界の先でビアスさんの言う通り、突然の怒号に狼狽うろたえ始めたエセ勇者さんと――ちょっと嫌な汗を滴らせながらドン引きするエージェントさんが映ります。

 内心恥ずかしくて、逃げ出したくて堪らなかったけれど……震える足に鞭打ち耐えて見せます。


 刹那の威嚇は成功。ならば勇者に勘付かれる前に成すべき事を成しましょう。

 完全に勇者の視線は私へと向き……それを確認したビアスさんが、その死角へと素早く走ったのを目にした私は――

 唯一手にしていた、すでになけなし霊力が底をつき〈エンドレスライブ〉を振り抜いたのです。


 そして――辺り一帯へ、それはもう情けない「コーン!」と言う虚しい音が響いたのでした。

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