神様は謀りました!

 最強が無条件で発動する勇者との戦いで、数々の知識を得たエージェントビブリアス

 そこから得られた情報を総動員し導き出した策は、少女神様アリスの知り得るあらゆる常識を凌駕していた。

 少女神様が落ちこぼれ故に、相手に付与された能力を上回る事が不可能と知るや発想の転換――逆の思考で、俺TUEEE勇者の能力がある事を条件とした能力付与を提示。さらにそれが発動した時点で、まさに奇想天外の妙策をぶちまけた。


「アリス達神様とやらが俺達に能力を付与出来るのが一回限りならば、姿……チート魔王との戦いも考慮する必要がある。問題はむしろあちら――」

「幾分対処のし易いエセ勇者とは違い、魔王の力はだ。奴が世界を蹂躙していた際を観測研究した際確認済み……頭が痛いぜ。」


 眼前で聞き入る少女神様へ勇者と魔王双方への対策を語りつつ、ふところより取り出したナイフを見やる。気になる少女もその得物――最初目にした時には気付かなかった物々しさも含めて質問した。


「あのあの、そのナイフは最初私に突き付けてた物ですよね?でもこの物々しさには全然気付きませんでした。」


 刃渡りはスローイングナイフとは思えぬ長さを持ち、その刃の端々に光が走る機構はエージェントがジャケット下に纏う軽鎧に似た機械的な様相。到底ファンタジー世界の代物とは思えぬ造りを見せ付けた。


「こいつは肉体に向けた殺傷能力のある刃物じゃない――突き立てた者を構成する因果を、元の世界に叩き返す強制送還の力を付与された半物質化刃セミ・マテリアライズ・ブレードだ。」

「すでに転生者として送られた者を、姿できないがな?だがこれが……俺の生まれた時点で与えられていた、この世界の最後の望みであり希望でもある。」


「つまりは私は、危うく自分のミスで転生した挙句……転生先の世界で襲われとんぼ返りで元の世界に強制送還寸前だったんですね(汗)そんな波乱の人生は求めてませんからね?」


 己が置かれていた状況を今さらながらに悟った少女神様は、涙目のまま訴えかけ――エージェントも苦笑で「悪かったよ……」と謝罪を込め、金色の御髪をなで上げる。


 が――

 そんな夫婦マンザイを繰り広げる二人の聴覚へ……ささやかな安らぎをぶち壊す轟音と咆哮が響き渡った。


「君達いつまでかくれんぼしている気だいっ!?そろそろボクも混ぜて欲しいんだけどねぇ!て言うかさっさと、この雷撃の餌食になってひれ伏しな――よっ!」


 響く轟音は世界の加護が及ぶ区画のすぐ外をえぐりながら焼き尽くす。

 すでに壊れかけた大地へムチを打つ様な非道が、二人の心すらも引き裂いて行く。


「このまま隠れ続けるだけじゃ、俺達も疲弊してしまう。ならば打って出る必要があるな、アリス!」


「は……はい!では私は、あなたへ先に説明頂いた能力を授けるとして……その後どうすれば――」


 エージェントも己一人になり打つ手なしの袋小路であった。

 だがまたと無い援軍——落ちこぼれとは言え、からの協力を得られた今にしたり顔を浮かべる。

 その手にある手立ては、生まれた時に授けられた強制送還能力付与の刃と落ちこぼれ女神が与えるギフト。それらを思考し少女神様へ耳打ちし策を共有する。


 聞き及んだ策に驚愕で声を上げそうになる少女の口元を指で止め……確たる意志を双眸に込めてそれを依頼。覚悟を決めた少女も強く首肯にて返した。


 最後に岩場外を睨め付けるエージェントが、視線はそのまま少女神様へ——決意を贈る。


「大丈夫だ、アリス。何かあっても俺が必ず……君を守る!」


 唐突なる宣言に心を射抜かれた少女を一瞥し——

 エージェントは風となって、俺TUEEE能力に高をくくるエセ勇者の眼前へと躍り出たのだ。

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