神様は逃亡しました!

「因果操作と言うのはですね——」


 ちょっと真っ直ぐな視線でドキッ!とした私。

 まさかあんなに詰め寄られるとは思っていなかったので、恋愛経験ゼロな私は危うく違う意味で倒されかけた所。なのですが、そんなものは求めていない彼へ脱線した会話を零すべきではないと気をとり直します。


 因果操作——

 それは詰まる所、私が〈ウンエイン界〉で物語を生み出すための原理的な力です。

 物語を演じる者達は、私達の操作した因果上でその人生を送る訳ですが……特に異世界転生に関わる者達の因果操作はになる。

 言うに及ばず……そんな大き過ぎる歪みが、私が誤って転生してしまったこの異世界へ極めて壊滅的な状況を生む原因となっていたのです。


 それは大神様からも触りは聞き及んでいたのですが——あくまで机上の空論レベルの絵空事の様な扱いで、大した問題にもされていなかった訳ですが。


「……大体は理解した。全く——あんたの上層にいる大神様とやらは、とんだブラック上司だな。聞き及んだだけでも吐き気がするよ。」


「はうぅぅ……ウチの上司が、異世界にまで大変ご迷惑を——」


「その謝罪はいいから(汗)本題へ進めよ。」


 条件反射か——私は上司である大神さまへのクレーム窓口でもあった故、口を突くのは申し訳ないと言う謝罪ばかり。

 そんな私を即すビアスさん?はと言えば、そんな私の世界での裏事情など求めていない訳で——


「はぅぅ……ではでは。私が使う因果操作の本懐となるのは、特定した人物に限り一度だけ使用の叶う能力であり——」

「異世界に関わらず、物語を構成する鍵となる力を授けると言う物なのです。」


「……なるほど。だがそれが本当ならば、その因果操作によってチート野郎共のそれを無効化する事は出来ないのか?」


 このビアスさんはとても聡いお方です。

 確かにこの能力は神となる私達が授けると言う時点で、彼の言う様な御業をこなしてしかるべき……なのですが——


「ええ、多分それは無理だと思います。何せ彼らをチートたらしめたのは、私達の中でもによる物ですから。」


「……落ちこぼれ——使えねぇなオイ(汗)」


「それはあんまりですぅ!?」


 悲しさの余り頬が惨めな冷たい何かで濡れる私を一瞥したビアスさん。

 突如として瞳の険しさを増したと思ったら——私を抱える様に飛び上がったのです。


「ふっ……ふにゃっ!?ななな、なんですかいきなり!?私ちょっと、そういうのは心の準備が——」


「いいから黙ってろ!舌噛むぞ!」


 その会話が早いか……今しがた私達がいた場所が、天より降る激しい雷撃で大きくえぐり取られたのです。


「オイオイ、君達はなんだい?ここは勇者たる俺様……雷撃のシグムントが全てを救済する地だぜ?そんな所に迷いこむとは——君達は異物だね。取り合えず排除しとこうか。」


「くっ!?奴らもお前さんの転生して来た現場を目撃してたらしいな!」


「何から何まですみません〜~~!」


 どうやら私が転生した事象を、この世界を牛耳る勇者様(牛耳るて……汗)がお見通しの様に現れたのです。

 と言いますか……とても勇者様の物とは思えないのですが。


「兎も角……作戦も何もないまま奴らと、正面からぶつかるのは自殺行為だ!この世界の境界まで走るぞっ!」


「きょ……境界って!?あの——も~~う!分かりましたぁ!」


 私としても満足に戦う事が出来ないのは百も承知なため、ここは戦いに慣れたビアスさんに従う事にしたのです。


「逃げるんじゃないよ~~。君達は様な異物には、俺様の勇者としての力を叩き込んであげなければならないからね!」

「おとなしく狩られろ異物がっ!!」


 ほとばしる雷撃に包まれる勇者と思えない勇者様を巻く様に——

 私達は命がけの逃亡を図ったのでした。

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