神様は転生しました!

 あれからどれくらいの時間が経ったのかは分かりません。

 けれど五体の感覚があるので、とりあえず霊体ぐらいは保っているだろう——その程度の思考で閉じた瞼をゆっくり開いて行きます。


 その私が目にしたのは——



 ∽∽ とある異世界にて ∽∽



 草原と森林。天空と大海。

 あまねく生命が精霊と共に住まう事で知られた世界〈エンディア〉と呼ばれた世界があった。

 だが——


 今その世界は幾度となく降り注ぐ火球に、裂けた大地——さらにはうねる大波が荒れ狂う空間に包まれ……生命が住める大地が僅かと化していた。

 その要因となったのが——


「我は勇者!俺こそが最強である!数多の生命よ……この世界を救済出来るのは俺だけ!ひれ伏せ、者共よ!」


「ぬははははっ!何をたわけた事を……この世界は私が支配するからこそ、世界を維持できるのだ!この魔王の存在こそが世界の新たなる秩序だっ!」


 現代と言われる社会から送り込まれた、俺TUEEE勇者とチート魔王であった。


 そんな絶望的な情景を物陰に隠れ、歪む眉根で睨め付ける影が悪態を付く。

 機械的な鎧に蒼き光を走らせるその若者は、無用に己の力を誇示する異界の愚物共とは一線を画していた。


「やりたい放題だな、異界より来たりし者共。だが今は手を出せぬ……相手はチートを振りかざす無法者——何の策も無しに突っ込めば瞬く間に消し去られる。」

「さて……どうしたものか。」


 刈り上げられた頭髪から覗く眼光は、遠く射殺すほどの鋭さを持つ。が、いたずらに暴力を振るわぬ時点で遥かに格上と見て取れた。


 だがしかし――

 どうにもその若者は攻めあぐねる。

 それは言うに及ばず、俺TUEEE勇者とチート魔王が纏うが邪魔をし……己の攻撃が何の前触れもなく無力化される実情が関係していた。


 それを思考した若者は歯噛みする。無法を制するにも己が力が通じぬのでは話にもならぬからだ。


「奴らの無秩序な法則に歪みが生じる隙を見つけさえすれば、こちらも勝機がある。そのタイミングこそがオレの本領発揮なのだが――」


 そこまで己の策を零した若者がふと天空を見上げる。

 天も言わずもがな、二人の不逞の輩が生み出したであろう結界が膜の様に覆う。

 この世界は当初遥かに広大な世界が広がっていたのだが――こともあろうか異界より転生して来た不逞の輩が、理不尽な力を手にして世界を分割し始めた。それにあらがう勢力も、謎の力疎外を受け成す術なく世界を分断され今に至る。


 この命溢れる世界エンディアは、そうして絶望巻く世界エンディアへと変貌してしまったのだ。


「頼むからこれ以上、天空から不逞の輩なんぞ降って来てくれるなよ?」


 切なる願いを零す若者。

 ただ一人戦い続けた彼は、一路の望みのままに今もなお戦い続ける。


 だが――世界は……無情にもその彼へと絶望を突きつけて来た。


 突如として襲う雷光は遥か彼方。この大地の現在の果て。

 そこ目掛けて落雷の如く光が轟音と供に叩き付けられ、それを視界に捉えた若者は驚愕の中双眸を見開いた。


「……!?ばっかヤロウ!今降ってくるなと願ったばかりだろっ!?」


 若者は歯噛みしたまま現在の世界の果てへと疾駆した。

 すでに果ては駆ければ一昼夜で辿り着ける場所。

 迷う事無く彼は駆けた。


 そこに訪れた存在が、今世界を飲み込まんとする不逞の輩と変わらぬ存在であれば……


 もしそこへ、再び世界の法則を歪める力を持つ者が降り立てば若者とて詰んだも同然。それでも彼は駆けた。


 羽織る特殊繊維ジャケット背部へ、〈世界線物理事象防衛機構グランディック・セイバー〉の名を輝かせ――

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