転生女神様を守らせて!

鋼鉄の羽蛍

不慮の事故!神様、異世界へ転生する!

神様は告げられました!

 ∽∽ とある世界線にて ∽∽



 その日ある神様が呼び出された。

 そこはある世界線の現代を支配する〈ウンエイン界〉と呼ばれる世界。


 現代社会とはかけ離れた造りの建物の最上層。

 呼び出された神様は、衝撃の言葉を告げられる。


「あーアリス君。実はだね……誠に言い難い事なのだが、君のこの時期の成績はかんばしくないのは理解しているね?」


「あの……はい。それはもう重々承知しています。」


 真っ白なデスクの向こう。豪勢なソファーに腰掛ける姿。

 現実社会で言えば、大企業を纏める代表取締役を思わせる影が眉根を寄せ……呼び出した神様を見下していた。


「君も理解しているだろう。今この現代で最も庶民の心を引く物語は、俺TYUUUに俺TUEEE……さらには異世界転生にチートとハーレムだ。それも理解していると思うが——」

「君が担当するSFや現代ファンタジーは需要が限られる。あまつさえ、SFなどは一部の一般向けにラブロマンスやサスペンスを織り込んで何とか持っているのが実情。分かっているね?」


「はい……ごもっともです。」


 見下す影はさらに続ける。

 そこから始まる、アリスと呼ばれた神様にとっての試練の言葉を。


「と言う事でだ……アリス君——とりあえず誰でもいい。現代人を一人さらっと異世界転生させて来なさい。」


「は……!?」


「聞こえなかったのかね?異世界へ現代人を転生させ……手っ取り早くチート能力でも与えておけば、我らがウンエイン界の業績も上がる事は間違いない。」

「一般大衆が望む物語はそれだけで大金が舞い込むんだ。くれぐれもSFなどにうつつを抜かさぬ様に。では行きたまえ。」


 そして——アリスと呼ばれた神様は有無を言わさず、異世界転生の対象者を探す羽目になってしまったのだ。



∽∽∽∽∽∽



 私の名はアリス。

 歯牙ない下っ端神様などをやっております。


 そもそも私は、現代社会に物語を提供する上層界――〈ウンエイン界〉と言う世界で因果操作の仕事をこなしているのですが……


「簡単に言ってくれますよ、大神様も。現代人をそんなに何の理由もなく転生なんて、させられる訳がないじゃないですか……。」


 そう独りごちる私は、雲を模した様な個室で頭を抱えます。

 言うに及ばず……私は現代人を転生させた経験などなく、それ以前にそんな物語で人を喜ばせられるとは思っていなかった訳で——


 転生を可能とする神世の武具、〈エンドレス・ライブ〉と言う杖をいじりながら途方に暮れていました。


 そんな中鏡に映る私の姿で嘆息を覚えます。

 この〈ウンエイン界〉でも、群を抜いて冴えないと噂される自分の容姿が鏡へと映り込み……そこでさらなる倦怠感が襲ってきました。


「はぁ……何で私、神様なのにこんなに冴えない容姿なのでしょうか。髪ボッサボサで顔にはソバカスだらけ。おまけにチンチクリンで胸なんて——」


 自分で言ってて情けなくなった私はすっくと立ち上がり……押し付けられたウサを晴らす様に、手元にあった〈エンドレス・ライブ〉の杖を振り回したのです。


「あの大神様、もし私に力があったならこいつで……こうやってギッタンギッタンに——」


 今思えば、途方に暮れるしかありません。

 私が振り回した〈エンドレス・ライブ〉が突如淡き光を放つと……それを視認しギクリ!とした私は——


「えっ?ウソ……これの発動条件って、こんなにも単純な——」


 と——

 思考するや否や、私は光に吸い込まれ……そこから暫しの記憶が途切れてしまったのでした。

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