第3話 外側の世界
地球が存在する宇宙とは別に、物理法則とは無縁な外宇宙が存在する。
正確にはその外宇宙に内包される形で、わたしたちの宇宙が存在している。
地球が存在するこの宇宙と外宇宙の関係を無理に人間社会の感覚で例えるならば、文明社会から見た未開の地とも表現できる。
つまり物理法則に支配されているわたしたちの宇宙は、何れ圧倒的な外宇宙の秩序によって為す術なく駆逐される宿命にあるのだ。
外宇宙は、物理法則とは別の秩序が支配する世界であり、人類が知り得る法則とは様々な点で異なる。
外宇宙の法則が地球に持ち込まれると、人間の知覚では怪奇や魔術として扱われる。
チャールズも若き頃、その深淵を覗き外側の法則を解明しようと身の程知らずな企てに興じたが、徒労に終わった。
人間の知性や知覚で外側の法則を捉えることは叶わないのだ。
人間という家畜小屋を倒壊させた狂人のみが外側の法則の一端に触れることを叶えるが、小屋を破壊したそれは大海の飛沫でしかなく何ら外側の法則の解明に結びつくものではない。
チャールズが知る一端と、他の狂人が知る一端は異なるように見えるが、それぞれ違う岸で浴びた飛沫の違いでしかない。
飛沫を浴びた景色が違うからといって、どちらかが大海の深淵に近いということではないのだ。
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外側の法則を支配する神々『外なる神』の下、その異世界には多様な種族や個体が存在する。
それら外側の世界の住人は、人類から見れば神々としか思えないような強力なリーダーたちに隷属している。
リーダーたちの一部は、遥か昔に地球に来訪した者もいた。
これは太古のある時期、地球が存在する宇宙が外側の宇宙の影響に強く晒された時期と重なっている。
時を経て外側の影響が弱まると、リーダーたちは仮死状態となって休眠期となる、この慈悲深い差配によって人類は地球での束の間の繁栄を享受している。
人類の中でこの秘密を知り得る者は、外側の力をもってかつて地球に君臨したリーダーたちを『旧支配者』と呼び恐れている。
ある者は畏怖する余り信仰の対象とし、またある者はその脅威から人類を守護しようと無謀な企てに狂奔する。
現代、メディアやテクノロジーの発展によって情報の隠匿は困難な時代になっている。
協会はこのことを鑑みて、外側の神々のことを滑稽な世迷言であるかのように風潮宣伝した。
この隠蔽は一定の成果を収めた。
人類にとって最大の脅威『外側の神々』は、現代では『クトゥルフ神話』などと呼ばれ、各地に伝わる神話や伝承がもつ非人間性のパロディとして伝播している。
この隠蔽工作に関しては生前無名だったプロビデンスの作家が特異な役割を果たしてくれたとチャールズは皮肉な笑みを浮かべて補足した。
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さて、話をショゴスに移そう。
外なる神の内『彼方のもの』に従い、取り巻きとして無数に屯する怪物がショゴスだ。
ショゴスは特徴や形状が千差万別で、ショゴスを召喚した魔術師も目の前の怪物がショゴスか、判別に苦慮するという。
『彼方のもの』が地球に降臨する先触として確認されたこともあるが、その場合の出現数は神の強力さに比例して膨大な数だったという。
なので一体で出現するショゴスは、まず間違いなく先触ではない。はぐれて地球に迷い込んだものだと思われる。
禁断の知識を持ち、且つそれを適切に扱える鍛錬を備えた人間のみ、ショゴスを召喚することも支配することもできる。
チャールズはもちろん、その資格を有し実際過去において召喚支配を成功させたことがある。
しかし、ある問題があってショゴスを使役することは、その成功を最後に試みていない。
その問題とは召喚されたショゴスを例え支配できたとしても、地球での滞在期間を術者が設定できない点だ。
召喚の術は、ショゴスを退散させることもできるし、支配できれば元の世界に帰るように命令もできる。
しかし『ショゴスが何時迄、滞在できるか』は召喚にしろ支配にしろ魔術ではコントロールできない。
また大した問題ではないが、注意することといえば、前述した『はぐれショゴス』でもない限り、神々やそれに連なる眷属が既にショゴスを支配している可能性が高い点だ。
支配されたショゴスは支配することができない。
召喚して支配できない場合、術者は食い殺される。
とはいえ召喚の魔術に応じるショゴスは間違いなく、神々の支配を受けていない『はぐれショゴス』だ。
なので、この問題は召喚の際には考慮しなくてよいだろう。
年男は、ナイアーラトテップの神託に従う長年の過程で、自分がショゴスを使役する使命を帯びた者だと確信していた。
しかしチャールズが、年男とナイアーラトテップのやり取りを『年男から聞いた』限りでは、魔術をチャールズに習う指示や、生まれてくる適合者を触媒にしてショゴスを呼び出せという指示はあっても『ショゴスを支配せよ』という直接の命令は受けていないようだったと証言している。
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