第27話 戦いを終えて
「お人好しだね、マルスは。敵兵を見逃すなんて軍紀違反じゃないの?」
「こちら側を空けておけば、グラジオスに侵攻される心配がないと思っただけだ。報告するか」
「さあ、どうしようかな。とはいえ、おれの方がたくさん違反してるしね。仕返しに報告されちゃたまらない」
「では口を割らないと約束してもらう代わりに、肩の傷の手当てをしてやろう」
「いいってば! まったく、素直じゃないの」
轟音が鳴った。岩石が崩れ、マルスの作った穴が塞がった。再び、四方が絶壁に囲まれる。そこに残っているのは三人だけになった。
敵兵がいなくなったことで緊張の糸が切れたのか、タウラはよろけた。ハンニバルがその背に手をあて、身体を支えた。
「平気かい。それにしてもやるねえ、タウラくん。一人でクロス・リードに勝っちゃうとは」
おつかれさまと、労いの言葉をタウラにかけた。南の国へ向かう途中、タウラのことを犠牲にしてでもマルスを救うと言っていた男が、タウラの無事を喜んでくれていた。タウラのことを
「生き残ることができてよかったな、タウラ。またひとつ殻を破ったか」
「ひょっとしてマルス師匠を超えたんじゃないの」
「ふん、まだまだだ。剣の運びも間合いの詰め方も甘い。危なっかしくて見ていられなかったぞ」
「相変わらず固いねえ。もっと素直によろこべばいいじゃないか」
ハンニバルがにやついてるいる。マルスの頬に赤味がさした。
「む、これでもよろこんでいるのだぞ」
「違う違う、表現の問題さ。すごいよタウラ〜、無事でよかったよ~って言いながら抱きつかないと」
「だ、抱きつくだと。そんなことできるか! わたしは剣士なのだぞ!」
「おれもそうだけど」
「おまえは
「はは、まあグラジオス王が許してくれているからいいんじゃないかな」
ハンニバルが笑っていた。タウラも笑いたかったが、力が入らない。それに、勝てたのは偶然だ。剣士としての力量は圧倒的にクロス・リードの方が上だった。エラの声が聞こえていなかったら死んでいた。
クロス・リードを土に埋めてから、マルスがグラジオスに続く道を塞いでいる前方の岩石をくり抜いた。
「マルスはいつからそんな技が使えるようになったんだい。ガスパじゃ使わなかったよね」
「それがわからないんだ。ただ、なんとなくできるような気がしたんだ」
「閃きでこんな桁違いの技出されちゃたまらないね。おそろしい人間だよ。敵だと思うとぞっとする」
「お互い様だ」
マルスは剣を収めた。
「さて、帰るか」
帰宅するような言い方がおかしかった。山脈を抜けてグラジオスに着くにはまだかかる。身体はぼろぼろだ。歩くだけでもしんどいが、道中でうれしいことがひとつあった。もうニマの臭いを気にする心配がなくなったのだ。
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