第5話:マネージャーからの圧と祝勝会【女子大生:飯島早紀】
甲子園出場を決めたことを学校に報告し、簡単な祝勝会が開かれた。普段は食べないお菓子や炭酸飲料などで乾杯して今日の勝利を皆で喜んだ。
「おい晴斗! スタンドで応援していたあの美人さんは誰だよ!? お前は上京組だし、姉はいないはずだよな!? まさか彼女か!? 彼女なのか!? ちゃんと説明してもらうぞ!」
コーラを片手に絡んできたのは女房役の日下部先輩。アルコールは入っていないはずなのにまるで酔っ払いのそれで、まるで翌日が休みの日の夜に酒を煽った叔母さんと似ているから厄介極まりない。
「あの人は隣に住んでいる女子大生の
「な、なん……だ、と? 野球に詳しい上に美人さんが隣に住んでいる、だと? お前、羨ましすぎるだろう!」
「く、苦しいですよ、日下部先輩。締まってます! 締まってます!」
「黙れこの色男! 顔もよくて野球も上手いまでは許すが美人な年上彼女だけは許さん! 俺はお前をそんな子に育てた覚えはない! 」
首のロックはそのままに拳骨を頭にぐりぐりと押し付けられる。地味に痛いからそろそろ離してほしいところだが、辞める気配はない。成すがままにされていると、不意に救いの手が差し伸べられた。
「こら、日下部君。いい加減離してあげなよ。今宮君も困っているでしょ?」
俺を救ってくれたのは
「それに我が明秀高校の次期エース候補に万が一のことがあったらどうするの? これから本番の甲子園なんだからね? わかってる?」
「あ、あぁ……悪かった。俺が悪かったからそんな詰め寄らないでくれ。晴斗も解放するからさ!」
高校二大美女の一人に詰め寄られて驚き照れた日下部先輩は俺をぱっと解放してくれた。数分ぶりに落ち着いて深呼吸出来てほっとしていると、救世主が笑顔で声をかけてきた。
「大丈夫、今宮君?どこか痛いところはない?初めて二戦連続で登板したから身体に違和感はない?」
「え、えぇ。今のところはなんとも。それよりも、助かりました。ありがとうございました、相馬先輩」
「いいんだよ、気にしないで。うちの野球部の大切なスーパールーキーにもしものことがあったら一大事だからね」
相馬先輩の笑顔はこちらに癒しを与えてくれる。また童顔だが女性特有の部分は発育が進んでいるので、これと合わさって破壊的な威力を有している。この笑みを向けられてころっと落ちる男子生徒―――主に野球部―――が現在進行形で続出している。
「大丈夫ですよ、相馬先輩。なんだかんだ言って日下部先輩は優しいから本気じゃなかったですし、身体のケアは先生に教えてもらって入念にしてますから」
「そう……ならいいんだけどね。でも何かあったらすぐに
「わ、わかりました。すぐに相馬先輩に連絡します」
よろしい、と笑顔で頷いた相馬先輩はやっぱり可愛かった。
*****
間もなくして祝勝会は解散となった。後日後援会も含めて祝勝会兼壮行会を開くことが決まった。明秀高校としては三年ぶりの夏の甲子園大会出場だから大々的に行うそうだ。
さらにすでにメディアから取材の申し込みが何件か入っていると工藤監督が話していた。プロ注目の本格左腕、松葉先輩だけでなく一年生ルーキーとして自分にもカメラが付くという。本音を言えば恥ずかしいからやめてほしい。若干憂鬱な気持ちを抱えながら帰路についているとスマホが鳴った。
『晴斗君、何時に帰ってこれそう? 腕によりをかけて夕飯作ったから早く帰ってきてほしいなぁーなんてね』
早紀さんからメッセージだった。最近人気のカワウソのスタンプのおまけつき。なんだか微笑ましくて鬱憤とした気持ちが晴れた気がした。
―――返事できなくてごめんなさい。今帰っているところです。ご飯……本当に作ってくれたんですね。ありがとうございます。叔母に話していないので連絡入れますね―――
『それなら大丈夫。叔母さんには私から連絡して許可ももらっておいたから。晴斗君に連絡入れるって言ってたけど、まだ着てないかな?』
このメッセージを見て、初めて俺は叔母さんからメッセージが来ていることに気が付いた。叔母さん―――フリーのコンサルタントとして仕事をしている
『早紀ちゃんから聞いたよぉー。まずは優勝おめでとう! そして喜べ若者よ! 今日私は仕事がいい具合に煮詰まっていて帰れそうにない。そこで! お隣の早紀ちゃんのところでご飯を食べてきたまえ! 明日はオフだろう? なんならお泊りしてきていいからね! 大人の階段を登ってきたまえ!』
そっと戻るボタンを押して早紀さんとのやりとりに戻った。もう三十歳になるというのにこの悪乗りである。頭が痛い。
―――叔母からの連絡見ました。なんかノリノリで許可もらったので、シャワー浴びてから伺いますね―――
『おおっ?シャワー浴びてくるっていうことは、晴斗君もしかして獣になるのかな? ご飯にする? お風呂にする?それとも……?』
――――早紀さん、からかわないでください! 試合した汗を流したいからですよ! それ以外に何もありませんて!―――
『冗談だよ、冗談。じゃぁ、来るとき連絡してね。ご飯温めておくから。早く来てね?』
懇願するカワウソのスタンプにまたしてもほっこりしながら俺は家路へと急いだ。なんにしても早紀さんの手調理が楽しみだ。美人に限って壊滅的に料理が出来ないという落ちではないことを祈るばかりだ。
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