第2話 近いわけがない

「華咲シュンです!イメージカラーはカラーは赤!元気ハツラツ!オロナミ…」

「「「「「アウトーーー!!!」」」」」

「それ以上はダメだよ!シュンちゃん!」

「そうだぞ!それ以上はコンプライアンス的問題が…」

「そう言う事もだよ!」

「あ、どうも〜。まったり担当の〜華咲〜マキで〜すぅ。」

「あ、おい、ずるいぞ!あ、イケメン担当の華咲ケイでーす!」

「ほのぼのな華咲ヤンです〜。」

「しっとり、華咲カイです。」

「「「「「…。」」」」」

「…あっ、俺か。」

「「「「「お前だよ!!」」」」」

「えぇ、はい!リーダーで真面目担当、華咲トシです。今日は来てくれて〜ありがと〜!」

「ゆっるいなぁ。」

「いつもこんなんじゃーん。」

「っと!言うことで!今回もチェリーキッス、張り切っていきまぁ〜〜!!」

「「「「「「っしょう!!!」」」」」

 黄色い歓声は彼らの人気を教えてくれた。

「若いでしょう?」

 渋いマスターは注文したウィスキーとタオルを持ってきた。

「とりあえず、拭いたら?」

「あ、すみません。」

「謝るこたぁない。人に同行できるもんじゃあるまいし。隣、いいかい?」

 コクリと頷くと彼はカウンター席に二人で腰掛ける。

「じゃあ!三曲連続で!いっくよ〜!!」

 そう言うとバックにある大きなスピーカーからポップな曲が流れてくる。六人は中心にシュンと名乗った少年を囲み手を腕に上げる。それが花開くように動く。輝く音楽と彼らのあふれる笑顔。つい見惚れていると、

「明るいもんでしょう?」

 マスターが話しかけてきた。

「あの、背の高いリーダーの方。実は私のせがれの子でしてね。よくやるもんでしょう。」

 優しいまでステージを見ながら、胸のポケットに手を伸ばす。

「はじめは、この店でやりたいなんて言われた時にゃどうしようか悩んだもんで。見たとうり、こんなお店だからね。合わないと思ったよ。」

 ポケットからは葉巻が一本。彼はそれに目を落とし、ゆっくり眺める。

「…長いことここでマスターやってて、JAZZやらなんやらは多く見たがこう言うのは本当に見たことなかった。でもね…」

 彼は慣れた手つきで葉巻の先を切り、ライターを出して葉巻を口元に寄せる。器用にくるくると回しながらいぶる。そしてふかす。

「彼らの頑張ってる姿を見たらね。一回くらい…ね?」

 笑ってこちらを見た。

「皆さん、ついてきてくれて有難うございます!では!ラストの曲です!」

「みんな張り切っていきましょーー!!」

「せ〜の〜!」

「「「「「「Jump Up!!」」」」」」

 再び止まった音楽と鼓動が鳴り響く。ファン達は喜び、踊り、跳ねる。そして私も小さくリズムを取った。

 最後の曲はやけに早く終わった。

「みんな〜、今日は〜ありがと〜。」

「CDデビュー前、最後のライブはどうだった?楽しかったかな〜?」

「次は…どこでやるんだっけ?」

「次はアリーナ?」

「違う違う、」

 コントのようにやり取りも素でやるから余計良いのだろう。大きな笑いが起きる。

「…そのうち。いや、半年後にアリーナで。そして一年後にドームで。」

「予定は未定って…」

「いいや。必ず。約束します。必ずみんなで。みんなで。」

 リーダー、トシは拳を前に突き出す。それに合わせてファン達も拳を前に突き出す。

「いっくよ〜!」

「チェリア〜?!」

「「「「「「「「「キッスーーーー!!」」」」」」」」

 ファンの大きな声にビリビリと卓と床が振動する。その後には歓声と拍手。手を振る彼ら。

「じゃぁ!最後に握手会をパッとやってね!帰ろう!」

 並んで並んで〜とみんなで手招きしながら背の順に並ぶ。並行にファンが並び握手と挨拶、軽い会話をして帰る。少し気になって人数を数えてみるとざっと二百人近くはいた。人が捌けていくうちに実際のステージの広さを感じた。それと同時に彼らの心の距離を感じた。正直、僕はこのステージを見てて彼らがもっと近くで歌っているように感じていた。それに少々驚いていると、

「良かったら。君も。」

「え、あ、はい。」

 残りの列の最後尾。少し、ソワソワしながら、辿々たどたどしく列に並ぶ。

「(ん!やべ、タバコ…)」

 口元に手をやり、口元をわさわさとしてハッと気がつく。ここに入ってからと言うものの、タバコを吸おうとしていたことをすっかり忘れていた。少し恥ずかしくなりながらだんだん彼らに近づいていく。

 ついに目の前になった瞬間、急に緊張が襲ってきて何がなんだか分からなくなってしまった。

 するとちょうど握手を終え、手を振っていたシュンと呼ばれる少年がこちらに振り向き笑顔を向ける。

「あ!」

 すこしキョドリながら彼の前に立つ。

「あの、さっき。途中から入ってきた方ですよね!」

「あ、え、えぇ…」

 オドオドしていると

「今日は、ありがとうございます!」

 彼は両手を手の入るほどの隙間を開けてこちらへ伸ばしてきた。

「あ、あ、あ、」

 慌てて手を伸ばすと彼が彼が先に受け入れに来てその手をギュッと閉めた。

「ほんっっっとうに!ありがとうございます!」

 ためた時に頭が深く沈み、弾けた瞬間満面の笑みを向けられる。ついキュンとしたのは今もまだ、本人には秘密。

「…い、いえ、僕の方こそ。有難うございます。」

 その笑顔に少しだけ、胸の内を明かす事に抵抗を失っていた。

「今日は、本当に…いろいろあって。そんな中、マスターに呼んでもらって。君らの音楽とトーク、それに笑顔。そして心の近さ。それを見ただけで…」

 ギュッと握り返す。顔を手元に落とす。

「…なんとか頑張れそうだ。少しの時間だったけど楽しかった…です。」

 落とした視線をもう一度彼に向けると彼は驚いた顔をしてから安堵の顔をして、

「また…また来てください。待ってますね!」

「うっ」

 不覚!またもキュンとしてしまった。やはり疲れているのだ。

「目を晒しましたね〜?キュンってしました?キュンってしました??」

 ニヤニヤと笑う少年。さてはこの子、小悪魔か?

「あ、時間が、あんまりないね。」

「パッパッパってまわしてまわして〜?」

「はーい。行ってらっしゃーい!」

「おわっとぉ!?」

 彼に掴まれたてを全員へ向けて送り出され流れに乗せられ全員と握手する。

「ありがと。」

「あっりがとー。」

「ありがと〜。」

「ありがとう!」

「ありがとうございました。また、よかったら。」

「え、あ、はい…」

 全員から丁寧な挨拶があり、

「…また、来ます。」

「…!!是非、よろしくお願いします。トシ、ならびに一同。心よりお待ちしてます。」

 彼らの丁寧な対応にしばらく感動していた。今時の若い子にはあまりない丁寧さだった。何となく、心に残った。しかし、その時はまだ。後にどハマりするとはつゆ知らず。さっと飲み代を払い、僕はそのステージを後にした。


 外に出るとだんだん日が登ってきていた。そこへマスターが一緒に上がってきた。

「もし良かったら、他の日もきてよ。色んなことやってるから。それに…普通に飲みにきてよ。」

 マスターはにっこり笑って僕の肩を押した。僕は彼にまたと頭を下げて、再び会社へ向かった。

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『男性ですが、男性アイドルのファンになりました。』 純天導孋儸 @ryu_rewitan

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