『男性ですが、男性アイドルのファンになりました。』

純天導孋儸

第1話 出会いは雨の日に見た地下の…

 特にオタク活動はしたことなかった。いくら友人がオタクだらけとは言ってもハマったことはない。アニメも漫画も音楽もゲームも。みんなが勧めるものは見たし、知ってる。けど、たいして熱狂したわけじやまないからみんなみたいに生活に苦しむほど金銭を賭したことはない。だからみんなと差ができたりしたこともある。でも理解してもらえたから今も仲良くできている。

 彼らは自分の好きなものの近くで働きたいとゲームならゲーム会社。音楽ならプロデュースなど皆、それぞれに進んだ。一方、僕は普通、一般企業に就職して普通と言うよりは少しの退屈と残業に今にも殺されそうだった。毎日、責任逃れする上司のかわりにクレーム対応。会社はブラック企業なのかと思ったこともあったがそれなりに良い給料はもらっていたからスッとその考えをしまった。我慢すれば良いだけ。どうせこの上司も時期に終わる。秒読みだったのも目に見えていたから心配もしていなかった。

 だけど、その日はダメダメ上司にこっぴどく使われた。おかげで終電を逃し、会社も締め出された。泊まる場所もないからたいして栄もしていない街をぶらぶら歩いていた。すると天気予報になかった雨が降り始めた。しかし、傘は持っていない。それでももう抵抗する気力がその日の自分にはなかった。ただ虚な目で降る雨の中、歩きながら無謀にもタバコを取り出してライターを手に取る。火をつけようと思ったその時。たまたま通りかかった小さな居酒屋街。その中に一軒だけ、地下に潜るようにある店があった。そこからは明るい曲が聞こえる。降る階段の入り口付近には[Music & Drunking]と書かれた看板が。いわゆるミュージックバーだった。本日のゲストと書かれた欄には見知らぬ名前、[チェリーキッス]と。キャッチコピーは『優しく甘いチェリーの味を君に』つまりは女性向け。お呼びじゃないか、なんて思っていたがここくらいしか時間が潰せそうになかった。他の店は自分と同じく帰りそびれた人達のコミュニティで盛り上がっていた。流石にあの中に入る気は起きなかった。階段下を見て、挑戦するか否かを考えていたところ後ろから。

「よろしければ。」

「!?」

 渋めの男性の声が聞こえて振り返る。そこには店のマスターと思われる男性が。ニコッと笑う彼の誘いに乗って店に入ることにした。

 店に入るとちょうど曲の切れたタイミングで、そのアイドル達がトークをしていた。

「今日も!来てくれて〜!!ありがと〜!!!」

 その声に黄色い歓声が。圧倒される自分に拍手をするマスター。

「何か飲むかい?」

「えっと、ウィスキー。」

「はいよ。」

 マスターが入り口付近のカウンターに入り一人取り残される。

「じゃあ!はじめての人もいるかもしれないから!自己紹介から!」

 ステージの上には誰よりもハキハキと喋り歌う一人の少年がいた。

「僕の名前は-」

 目を奪われた。

「僕は、華咲シュン!よろしくね!!」

 その明るさは僕の心の奥底まで、彼の声と共に轟いた。

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