幕間Ⅱ

ー幕間~世界の成り立ち





 昔々、世界は真っ黒な闇に閉ざされていました。


 そんな世界に一人の神が降り立ちました。

 すると、世界は淡い金色の光に包まれて、ほんのりと明るくなりました。


 神は初めに四台元素を司る四人の神を生み出しました。

 次に神は七人神、十二人の神を生み出して世界に様々なモノを創り出しました。


 何もなかった真っ暗な世界が色鮮やかになり、最初の神、後に夜の女神と呼ばれる女神・ユエが生み出した神々はそれぞれが様々な種族の祖となって生命を生み出すと、やがて星となって世界を見守る存在となりました。


 世界が活気に満ち溢れた頃。ユエは最後に自身の血からヴァンパイアとヴァンパイアの血から人間を生み出しました。


 それから、神々によって生み出された種族はそれぞれの文化を育みながら長い歳月が流れて行きました


 ところが、時が経ち、種族同士の間で小さないざこざから、争いが起こるようになりました。


 力を持つヴァンパイアも例外ではなく、彼等は自分達から生み出された力なき人間を自らの糧として襲うようになりました。


 それまで平和だった世界は大きく乱れ、沢山の血が流れて行きました。

 その光景を哀れんだユエは、人間を護る為に守護者を生み出し、地上へ遣わしました。


 クルースニクと名付けられたその守護者は人間を護りながら沢山のヴァンパイアと他の種族達と戦いました。


 しかし、クルースニクは自身にとって兄弟に当たるヴァンパイアと戦う事にいつしか疑問をもつようになりました。


 自分が戦う事は何の意味もないのだと思い始めたある日、クルースニクは一人のヴァンパイアの青年と出逢いました。


 青年もまた、クルースニクと同じ思いを持っていたのです。

 二人は互いに手を取り合い、平和への礎を築きました。


 やがて、青年はヴァンパイア達を纏める王となり、少しずつ平和が戻ってきました。


 青年と共に平和を勝ち取ったクルースニクはいつしか青年と恋に落ち、その身に双子を宿しました。


 平和になった世界でクルースニクは新たな生命を産み落としました。


 しかし、本来敵であるヴァンパイアとの間に子をなした事をユエ以外の神々は快く思わず、クルースニクは愛する人を残してユエの元へ帰って行きました。 

 ヴァンパイア王は双子の姉にクドラク、妹にヴェドゴニヤと名前を付け、大切に育てました。



 時は流れ、美しく成長したクドラクとヴェドゴニヤは自身の出自に悩むようになっていきました。


 クドラクは、何故力を持つヴァンパイアが人間を護らなければならないのかと、疑問を持ち始めました。


 一方ヴェドゴニヤは父や今はいない母の教えを忠実に護り、人間を護る為に日夜力を磨いていました。


 違う考えを持つ姉妹は、いつしか意見の違いを理由に衝突すようになりました。


 クドラクは人間はその卑劣さから護る価値などないと主張し、ヴェドゴニヤは母の教えを破る訳にはいかないと主張した末、二人は真っ向から争うようになりました。


 その戦いはそれまで平和を維持していた種族達の間に、戦禍を呼び、世界は再び争いの時代を迎えました。


 クドラクとヴェドゴニヤの姉妹の戦いは七日七晩戦いを繰り広げられました。


 そして、迎えた八日目の日


 姉妹の戦いを憂いたヴァンパイア王は離れていたクルースニクに祈りました。


 すると、地上の様子を見つめていたクルースニクは自分に近いヴェドゴニヤに力を貸し、ヴェドゴニヤは母の力を借りてクドラクを鎮めました。


 ヴェドゴニヤに負けたクドラクは、人間への恨みを抱きながら何処かへと去って行きました。


 ヴェドゴニヤは左腕にクドラクの呪いを受けながらも勝利したものの、いずれまたクドラクの襲撃に備え、母であるクルースニクの力を継承できるように自らの血にその力を宿しました。


 やがて、ヴェドゴニヤとクドラクはそれぞれ自らの名を冠した一族を生み出し、二つの種族の戦いは時を越えて続くこととなったのである。

 

 

   


「改めて思いますけど、これ壮絶な姉妹、親子喧嘩ですよね」


 遥か昔に起きた出来事が描かれた書物を広げながら、フィーロは師匠であり現クルースニクであるレビンを見据えた。


「まあ、そういってやるなよ。我らが初代のクルースニクもヴェドゴニヤもクドラクも色々悩んだ末の結末だったんだ」


 それが、今現在にいたるまで争いの火種を残している事にフィーロは頭を抱えた。


「だいたい、神々の地上を創った話なんて対外似たようなもんだぞ。俺が母上から聞いた世界の話では、大神が偉く好色家で、見境なく人間と交わったとか、兄弟喧嘩の末に世界が滅びかけたとか、碌なモノがない」


 唸りながら力説した師の話を呆れながら聞いていたフィーロは眉間に皺を寄せた。

 世界の成り立ちとは、意外と人間や他の種族と変わらないのかもしれない。


 いや、むしろ、そんな彼等から生み出されたのだから、当然なのかもしれない。

 自身の種族の成り立ちを何処か遠くに見つめてフィーロは静かに書物を閉じた。

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