ー第四章~水面下の胎動



 久し振りの盟友達との語らいと大好きなお酒を飲めたことに気分を良くしながらフィーロはシンヤ、ヒューイと別れて家路に向かって歩いていた。

 帰ったら明日からの新生活に備えて少しだが荷物を纏めなくてはならない。


(しかし...ブラザーって何をすればいいんだっけ)

 ほろ酔いの中、石畳の道を自宅に向かって歩きながら、ふと、フィーロはそんな事を思う。

 ブラザーの事は現在の上司であるギルベルトの事くらいしか知らない。


 そもそも、ブラザーとはある意味で師弟関係を結ぶことになるので、弟子になる者に対しての教え方は師匠を任された者に一任される。

 言ってしまえば、師匠はどんな教え方をしても構わないという事だ。

 だからこそ、弟子になる者は自らが教えを請うべき人物をある程度選択しなくてはならない。


 ハンスの自分への憧れという点は共感出来なくもないが、それが本当に彼の為になるとは思えない。ましてや...。


(彼はきっと、知らないのでしょうね...僕が君の兄弟だという事を...)


 退魔師としての身分や己の身の上を考えた上で、フィーロは一族が持つ変化の能力を使い性別を男に変えている。

 幼少期からずっと男として生きて来たので、不具合は感じていないし、問題も出ていない。

 知人でフィーロの性別が女だと知る者は限られているし、これから先も誰かに教えるつもりはない。


 先日、ツアーンラートの街で別れ際にアルシャに気づかれたのは意外だったが、今まではバレた事はなかった。


 本来は魔族でありながら、事実上魔族とは一線を画するヴェドゴニヤであり、既に覚醒と呼ばれるプロセスを経て、成長を止めている身としては、もともと中性的な容姿をしているので、性別は元から影響はしていない。


 だが、いざ自分の弟である者を目の前にしてフィーロは自分が本来ならそうあったであろう自分を考えずにはいられなかった。

 もし、何かの弾みでハンスが自分の事を知ってしまったら、どう思うだろう。

 将来有望の、いずれこの国を背負っていくべき存在の彼が、父親とその周囲の者達の意図により、隠される事となった兄弟の存在を知ったら...。


(ま...バレた時はバレた時に何とかするしかないですけどね)


 結局はその時になってみないと分からない。というのがフィーロが出した結論だった。

 それで絶望するくらいなら、この国のトップにはなれないだろう。

 国の運営とは、綺麗事だけでは立ち行かないのだから。


(本人には頑張ってもらわないといけないな...さて、そうなると、僕は何を教えたらいいのか...)


 改めて、思考がブラザーとして何を教えたらいいかという問題に思い当たった時、不意に空気の流れが変わったのを感じてフィーロはぴたりと歩みを止めた。


 既に、手には自身の血から造り出したレイピアが握られている。

「......」


 息を殺し、僅かなガス灯の明かりだけが照らす暗闇の中にフィーロは目を凝らす。

 じりじりと音を立てていたガス灯が風もないのに消えた。


 クリスタリアの首都である聖都は様々な結界に護られ、魔物の類いは余程の事がない限り入って来られない。

 魔族に関しても、この地を踏むにはそれなりに手続きや、聖都に住まう貴族からの許しが必要となる。たまに、ならず者が紛れ込みもするが...。


 しかし、政治の中心でもある首都。ごくたまにだが政敵同士の争いや暗殺なども起こっているし、殺人だって意思を持つ種族の集まる場所柄、起こる事もあるのだ。


 暗闇の中でフィーロは周囲の気配を静かに探る。

 最初に動いたのは、闇の中に身を潜めた人物だった。

 レイピアではなくフィーロは右手で愛用のリヴォルバーの引き金を引く。

 ノズルファイアの後、銃声が夜の町中に響き渡った。


 だが、音を聞きつけてくる野次馬は誰一人としていない。

 恐らく、自身が銃弾を放った人物が結界を張ったのだろう。

 フィーロが放った銃弾は空を切り、闇の中に吸い込まれた。

 刹那、フィーロは後ろ手にレイピアを薙ぎ、背後を振り払う。


「おっと」


 ビリリ、と布の裂ける音が響き、闇の中から声がした。

 気配とフィーロが再び距離を取ると、向かい合う闇の中からパチパチと拍手が聞こえて来た。


「いやいや、流石は退魔師のエース。随分強くなったようだね」


 石畳の床を靴を鳴らして現れたのは、金糸の長い髪を風に揺らした、面長の端正な容姿に赤い瞳を光らせた男。

 赤いドレスシャツに、黒のストライプのジャケット。ジャケットと同じストライプのスラックスを身に纏うその人物は、貴族だと直ぐに分かる。だが、それは、人間のではない。


「いい夜ですね、西のヴァンパイア王、フリードリヒヴィルシュタイン閣下。ご無沙汰しております」


「いい夜だね、フィーロ。元気そうで何よりだよ。いつ見ても君は母君に良く似ている。我らが国家の麗しき聖王聖下殿に」


 男ーアレクセイ・フォン・フリードリヒヴィルシュタインを見据え、フィーロは唇を尖らせた。


「やめて頂けますか?誰かに聞かれたら面倒ですから」

 憮然とした様子で抗議するフィーロに、アレクは苦笑を浮かべた。


「ふふ、心配しなくても、ここは僕が造り出した結界の中。君と僕しかいないから心配しなくていいよ」


 相手が誰かを確認した所でフィーロは構えていたレイピアの切っ先を地面に降ろす。


「おや?仕舞ってくれないのかい?」

 レイピアを見つめ、アレクは寂しげに笑う。


「念の為です。貴方については恩がありながらも色々黒い噂がありますから」

 冷ややかな視線をフィーロは容赦なく向ける。


 目の前にいる人物は間違いなくこの国の中枢に関わる人物だ。

 本来なら、先日の北のヴァンパイア王の時の様に謁見するにはそれなりに手続きを要する。


 だが、目の前の彼はかつて人と魔族の間で起きた大戦の先導者でもあった。

 南のヴァンパイア王に加担していた者として今も当時を知る者からは警戒されている。


「黒い噂って...アルトと仲が悪いって事?まあ、彼とは先の大戦の時に色々あったし、恋敵だったから仕方ないけど」


「別に元帥と貴方の過去なんてどうでもいいですよ」

 肩を竦めるアレクをフィーロはげんなりとしながら見据える。


「それとも、僕が魔族達を焚きつけて、また戦争を起こそうとしている事、とか?」

 アレクのかけてくる問いをフィーロは静かに聞いている。

 あまり表情が変わらないので、アレクは肩を竦めた。


「心配しなくても、夜の君の国を乱すような事はしないよ。彼女の元婚約者として今の平和は僕自身も望んでいた事だし」

 弁解するようなアレクの言葉を聞き、フィーロは溜息をつく。相手に敵意がないのは分かって来たので、話題を変えることにした。


「それで、8年振りに僕の前に現れた理由は何ですか?」

 目の前の相手を見据えたままフィーロは質問を投げかける。

 その冷ややかな視線を受けてアレクは苦笑を滲ませた。


「恐いな。昔はもう少し可愛かったのに...退魔師になってから少し変わったよね」


「質問に答えてません」


「ごめん、ごめん。いやね、君が夜の君の息子のブラザーを引き受けたって風の噂で聞いたものだから、ちょっと気になってね」

 質問の答えを聞いてフィーロは内心、やっぱりか...と呟いた。

 予想していた事が当たりフィーロは胸中で溜息を零す。


「君さ、本当に彼のブラザーやるの?」

 唐突な問いかけにフィーロはアレクから視線を逸らしながら頷いた。


「上司からの直々のご使命なので、受けざる負えなかったんです。僕だってブラザーをやるくらいなら、もっと他の道を捜します」


「でも、その選択は間違いではないと思うよ」

 不意にでたアレクの言葉にフィーロは逸らしていた視線を再びアレクに戻す。

 どういうことですか?と瞳で聞いてくるフィーロにアレクは穏やかな口調で続けた。


「次代の元帥候補と目される第一子息の師匠を務めたとなれば、君の目的を達成する足掛かりには十分なり得ると僕は思うね。いっそ彼を利用すればいい。彼は君に陶酔しているのだし」


 一体、彼は何処からそんな情報を仕入れてくるのだろう。

 西のヴァンパイア王は現在では北の王に継ぐ在位の長さだ。


 先の大戦で人間と敵対していたアレクは今も一部の反対派から指示を受けている。だが、彼は先の大戦の終盤、南の王を裏切り人間側に組している。


 独自の情報網を持っているのは明白だが、こうも情報が早いと色々勘ぐってしまいそうになる。

 それに、フィーロには罪悪感もあった。


「...仮にも身内にあたる彼を利用するなんて...」


「フィーロ、言っておくけど、上へ上り詰めるなら使えるモノはなんでも使う方がいい。それこそ、僕を利用するのだって構わないんだよ?君の願いなら、望むならいくらでも叶えてあげるから」

 赤い瞳を細め、悠然と微笑みながらアレクはまるで手招きするように手を広げる。

 悪魔の誘いを受けているような錯覚をフィーロは首を振って振り払った。


「それは、彼女に出来なかった事を代わりに僕でやろうとしているからですか?」


「どうかな?それもあるかもしれないけれど、単に僕は君を個人的に気に入ってるだけだよ。まあ、君は本当に彼女に良く似ているけどね」


「会う度にそれ言ってますけど...実際本当に似ているんですか?」

 眉を細め、疑うような視線を向けてくるフィーロをアレクはにこにこ笑いながら頷く。


「普段、民衆や家臣に見せている姿が本来の彼女とは限らないだろう?君だって姿を偽っているし、ヴェドゴニヤには髪の色や外見を変える変化の能力を持つ者がいる訳だし」


 この国の最高指導者である聖王の姿を思い浮かべ、フィーロは自分と重ねて内心納得した。

 アレクの話に確信は持てないが、その可能性は否定できず、フィーロは僅かに

 瞳を揺らした。


「さてと、可愛い愛し子をからかうのはこのくらいにしようかな。でも、さっきの助言は頭の片隅にでも置いておくといい。それじゃあ、またね」


 いつの間にかフィーロの横を抜け、アレクはフィーロの肩を軽く叩く。

 フィーロが咄嗟に振り返ると、既にアレクの姿は闇の中に消えていた。

 辺りに立ち込めていた霧は晴れ、街灯の灯りが石畳の道を淡く照らし出す。

 アレクが去って行った闇をしばらく見つめてからフィーロはレイピアを仕舞い、家路についた。



***



 クリスタリア公国の首都たる聖都の中央から東寄りに位置する聖王の住居は、高い壁と強固な結界に護られ、この国で最も堅牢な場所の一つである。

 そこは、聖王とその夫たる聖天騎士団元帥と、二人の子供達や臣下が暮らしていた。


 聖王、ナハト・フォン・ロードナイトと元帥、アーノルド・ストラウスの第一子とされているハンスは両親や弟妹達と共に聖宮で暮らしていた。


 聖宮の南側にあるダイニングでハンスは久し振りに両親、弟妹達と揃って夕食を取っていた。


 母と父は国の重要人物であって忙しく、普段は共に食卓を囲むことは少ない。

 更に、ハンスを含めた子供達はそれぞれ学校に通っている為、帰宅時間もバラバラで、家族が揃って食事の席を囲むのは実に三か月ぶりの事だった。


「ねえハンス、あんたブラザー決まったんでしょ?」


 ハンスの向かい側の席で食事をしていた双子の妹、ロベリアが唐突に尋ねてきた。

 ショートカットの黒髪を揺らし、身体を乗り出してきた彼女の青い瞳には嬉々とした色が滲んでいる。


 家に帰ってからまだ誰にも話していないのだが、同じ年の妹は既に何処からか情報を仕入れていたらしい。

 自分から後で両親に報告しようとしていた事を暴露され、ハンスは内心溜息を吐いた。


「まあ、お兄様。おめでとうございます」


 ロベリアの隣の席でその報せを聞いて喜んだのは、ハンスとロベリアの下の妹、ジュリエッタ。銀糸の長い髪を背に流し、母譲りの琥珀色の双眸が自分の事のように兄の吉報を喜んでいる。


「高等科に進んでも決まらないから、大丈夫かなって心配してたけど、問題なかったみたいだね」


 ニヤニヤとこれまでの経緯を知っているロベリアは同い年の兄を見遣り、不敵に笑う。


 そう、ブラザーに師事する退魔師見習いは、退魔師学校に所属する者は本来なら高等科に進む前に師事するブラザーが決まる。 だが、ハンスは今日の今日までブラザーが決まらず、兄弟たちは心配していたのだ。


 勉学や魔術、剣術で優秀な兄が、ブラザーが決まらない事で落ち零れてしまうのではないかと。


「俺だって、退魔師見習いだ。ブラザーに師事するのは当然だし、誰に師事を仰ぐかで迷っていただけだ。お前が心配する事はないよ」


 昼間、憧れの退魔師であるフィーロに向けていた物とは違う、ぶっきらぼうな口調でハンスはロベリアに言い放つ。


「とか言って、色々渋ってたくせに」


「煩いな...だいたいロベリア、お前その情報どっから仕入れたんだよ」


 自身のブラザー決定の報をロベリアが何所から仕入れたのか、ハンスはそれが気になった。

 双子の妹は自分とは違い、魔族の子息息女が通う学園に通っている。その彼女が退魔師学校の情報を仕入れているのはいささか疑問だった。


「秘密。私だってそれなりに顔がひろいのよ」

 ニヤリと、含み笑いを零す妹をハンスは目を細めて見据えた。


「ブラザーがお決まりになったという事はお兄様、寮にお入りになられるのですか?」

 上の兄姉の会話を微笑みながら聞いていたジュリエッタは、ふと浮かんだ疑問を口にした。

 それには、少しバツが悪そうにハンスは頷く。


「ああ...まあ、明日から...」


 ジュリエッタから視線を逸らすようにそう告げると、ガタンと、ハンスの隣の席に座っていた末の弟が食事中だという事も忘れて飛び上がった。


「ええー兄さん、明日からなんて聞いてないよっ」

 燃えるような赤い髪を揺らし、琥珀の瞳に不満を滲ませて、末っ子のカルロスは頬を膨らませた。


「カルロス、食事中ですよ」

 ジュリエッタに窘められカルロスは渋々席に着く。が、不満の矛先を隣の席の兄に向けたままだ。


「...仕方ないだろ、俺が師事をお願いしていた退魔師の方の了承がやっと頂けたんだ。明日の朝、正式にブラザー契約をする。そのまま退魔師寮に入るんだ。本来だったら、中等科を卒業後に直ぐに寮生活だったのを、決まらないからと保留されてただけなんだぞ」

 まだ十歳と幼い弟をハンスは宥めるように諭すように言葉を紡ぐ。


「でも、週末挟んで来週からでもよかったんじゃないの?いくら寮が近いからって、別に焦ることなくない?」


 不満げなカルロスを慰めているハンスにまるで横やりを入れるようにロベリアは首を傾げる。


「俺が早く修行を始めたいだけだ。ギルベルト教授の口添えもあっての事だ。俺だって、いつかは家を出るんだからそれくらい了承してくれ」


 兄弟達の追撃に困惑するハンス。そんな彼に助け舟を出したのは、ハンス達が座る席から少し離れた、長テーブルの上座に座る人物だった。


「ハンスが退魔師見習いに...もうそんなに大きくなったんですね」

 不意に紡がれた朗らかな声音を耳にして、ハンスを含め、兄弟達は全員上座の方へ視線を移した。


 銀色の長い髪を背に流し、白地に金の縁取りがされた詰襟の僧服に身を包んだこの国の最高指導者たるその人は、春の日のような柔らかな笑みを湛えていた。


「母上...」

 父と二人並んで座る母をハンスは少し困惑した様子で見つめる。


「懐かしですね、アルト。私達が主従として退魔師とサーヴァントの関係だった頃を思い出します」


 それは、子供達が生まれる前の、まだ大戦の真っ只中だった時代。

 自身の若かりし頃を思い出すナハトに隣で黙々と食事をしていた聖天騎士団の元帥にして、現在の東のヴァンパイア王たるアーノルド・ストラウスは小さく息をついて妻の方を見遣った。


「そうだな...あの頃は今の様にまともな制度はなかったからな...ハンス、この国の為にもしっかりやれよ」


 ナハトの言葉を受けて、アルトは自身の息子を真っ直ぐに見つめる。

 苛烈と知られる元帥だが、息子への期待はあり、その青き双眸には深い愛情が宿っていた。


「はい、父上」

 父親からの激励に背筋を伸ばしてハンスは返事をした。


「ロベリア、ジュリエッタ、カルロス。お前達もハンスの様にしっかり励むんだぞ」


 旅立つ息子に向けていた視線を今度は他の子供達にも励ましの言葉を贈る。

 厳しいと軍では専ら有名な元帥も、父親としての顔はそれなりに慈愛に満ちていた。


「そういえばお兄様。お兄様のブラザーになって下さった方はどのような方なのですか?」

 ふとジュリエッタは兄の師匠を引き受けてくれた人物に興味が湧き、無邪気な様子で訊ねた。


 それにハンスは、それまで淡々と話していたのが嘘のように、何処か興奮気味に妹の問いに答えた。

「今、聖都でもっとも実力のある退魔師の一人に数えられる方で、弱冠十二歳で退魔師になった最年少退魔師の記録を持つクリスタリアの若きホープ。フィーロ・フィロフェロイ・ストラウス様だ」


 フィーロ。 


 その名前がハンスの口から出た瞬間。全く違う二つの反応が家族間で現れた。


「フィーロって、あの邪竜退治の英雄の?凄いじゃん」


「まあ、誉れ高き退魔師のエースですわね。でも、あの方は巡回退魔師で殆ど聖都にはいらっしゃらなかった筈では?」


 その功績と存在を知っているロベリアとジュリエッタはハンス同様に少し興奮した様子でいう。

 ジュリエッタの疑問にハンスは何処か得意げに答えた。


「今回特別に引き受けてもらったんだ。ハイライト教授の教え子だったから、教授が取り付けてくれたんだよ」


 嬉し気に語るハンス。

 その高揚した表情を見つめていたアルトの表情は、娘達とは違い、強張っていた。


「フィーロだと...」


「父上はご存じですよね?七年前の邪竜退治の際は確か聖天騎士団も援軍で出征していましたから」


 頬を上気させて訊ねてくる息子にアルトは「ああ...」と、絞り出すように頷いた。


「アルト...?」


 夫の苦し気な表情を覗き込みナハトは心配するようにその頬に触れようとする。

 その手をやんわりと降ろさせてアルトは席から立ち上がった。


「急用を思い出した。俺は席を外すから食事を続けてくれ。ハンス、あの退魔師はなかなかの曲者だ。しっかりやらないとお前が食われるぞ」


 父親の言葉の意味がよく分からなかったが、ハンスは強く頷いた。

 漆黒の軍服の裾を翻し、アルトは妻子を残してダイニングを後にした。


 父が残した言葉の意味を自分なりに反芻しながらハンスは、何事もなく食事を続ける事にした。


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