第二幕:退魔師フィーロとブラザーハンス編

~ Prologue~



 別に、血の繋がった家族がいない訳じゃない。

 聞くところによると、僕には両親と兄弟が四人いるらしい。

 別けあって孤児として育った僕には家族の温もりなど分からないけれど。多分心の何処かでは会ってみたい気持ちと、自分一人だけ引き離された事への恨みのような感情が、合ったのだと思う。





 広大な土地を持つ島国であるクリスタリア公国の南東部。雄大な大河の辺に首都である聖都は位置している。

 聖天教会と呼ばれる国教の最高指導者である聖王とその家族、臣下達の住まう宮殿を中心に行政官庁が整備され、国一番の人口を誇る。

 国中に張り巡らされた鉄道網の終着駅であり始発駅である中央駅に今日も列車が到着した。


 夕暮れに染まる聖都は、街灯に火が灯り始め、夜の訪れを迎えようとしていた。

 汽車から噴き出す蒸気の煙がホームに流れ、一瞬視界を覆った。


「はあ、着いた」


 トランクを手にホームに降り立ったのは、蒸気の煙と同じ全身白一色の出で立ちの人物。

 フードのついた白いローブを身に纏うその人は、肩口で切り揃えた銀色の髪に右が夜空を映したような瑠璃色、左が満月を思わせる琥珀の瞳の少女とも少年ともとれる中性的な容貌をしている。


 国教であり、人々の護りでもある聖天教会退魔師部所属の退魔師であるフィーロ・フィロフェロイ・ストラウスは任務を終えて本部のある首都へと帰還した。


「お疲れさん、フィーロ」


 フィーロに続いて汽車を降りて来たのはフィーロより頭二つ分身長の高い青年。青みがかった黒髪を襟足だけを伸ばし、海の如き夷青い瞳を宿した精悍な顔に笑みを浮かべて、ランス・シュヴァルツ・ルーガルーは主人であるフィーロを見下ろした。


「明日から今度は報告書を書いて訓練しての日々だな」

「デスクワークは憂鬱です。ランスは、大学行って来ますか?」

 肩を竦めて溜息を吐いたあと、フィーロは自身の従者を見上げて訊ねる。

「そうさせてもらう」

 ニヤリと、嬉しそうに笑うランスにフィーロも苦笑を滲ませた。

「では、それぞれ役目を果たししょう。目的の為に」

 そう言って、ローブの裾を翻しフィーロはホームの出口に向かって歩き出す。

 その後ろにランスもついて行く。


「夕飯どうする?なんか作るか?」

「パスタとか簡単なものでいいですよ。ランスも疲れているでしょ」

「明日の朝食用のも兼ねて食材を軽く買ってこう」

「では、市場に寄ってから帰りましょう。我が家に」

 黄昏の淡い光に照らされた聖都の街にフィーロとランスは住まいへ向かって街の中を歩き出した。


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