~Epilogue~
旅立ちの朝、来た時と同じようにフィーロとランスはアルシャが操る馬車でツアーンラートの駅までやってきた。
「本当にお世話になりました」
荷物を馬車から下ろしたフィーロとランスにアルシャに礼を言う。
「僕等こそ君には助けられました。ありがとう。もし、本当に退魔師になる気があるなら一報ください。知り合いの司教に推薦文を掻いてもらえるよう取り合ってあげますから」
「はい、必ず、フィーロ様のような立派な退魔師になります。いつか、一緒に仕事がしたいです」
「頑張ってください。君ならきっと大丈夫でしょう」
笑みを浮かべるフィーロにアルシャは、最後だからと、ある質問をした。
内緒話をするように耳元に唇を寄せてきたアルシャに、フィーロはキョトンと小首を傾げた後、頬を真っ赤にしてアルシャから距離を取った。
「そ、それは秘密です。君が大人になったら答えてあげてもいいですよ。その代わり、他言しないこと」
「じゃあ、一人前の退魔師になったら教えてください。約束ですよ」
ニコニコと笑うアルシャに末恐ろしさを感じながらフィーロはトランクを手に取った。
「そろそろ行かないと。では、僕達はこれで」
「アルシャ、元気でな。またどこかで」
「はい!お二人とも、どうかお元気で」
駅舎の待合室で見送るアルシャに手を振って、フィーロとランスは汽車に乗り込んだ。
まるで、二人が乗るのを待っていたかのように、汽車はツアーンラートの駅を離れて行く。
駅舎が見えなくなるまで暫く入口から景色を眺めていたフィーロとランスは、汽車が林に入った処で客室へ移動した。
「そういやフィーロ、さっき、アルシャに何を言われたんだ?」
それまで黙っていた疑問をランスはそれとなく問いかけた。
だが、フィーロは従者の問いに「秘密です」と、回答に拒否を決め込んだ。
別に全ての事情を知っているランスになら話しても構わないだろうが、ここはアルシャの今後を考えて言わない事にした。
色々任務に支障が出るため隠していたが、まさかバレていたとは思わなかった。
(あれは...なかなか大物になるかもしれませんね...)
アルシャの最後の問いかけ。それは、ほんの僅かな人しか知らない究極の隠し事。
『フィーロ様、どうして女の子だってこと隠してるんですか?凄く綺麗なのに』
彼の質問に答える日は恐らく来ないだろう。
だってそれは、パンドラの箱を開けるようなものなのだから。
どんな意図があってアルシャがあんな事を言ったのか。フィーロはその理由を考える事はしなかった。
「さて、聖都に戻ったら報告書書きの日々ですよ」
ソファ席に腰を下ろし、窓の外を見つめながらフィーロは、過行く北の大地に思いを馳せた。
《終》
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