エピローグ
なんてこったいと途方に暮れるフィア。
その金髪に隠れた耳へ、何らかの暴発音が鳴り響いた。
城壁の向こう、王家の陵墓遺跡から、謎の火柱が立ち上っている。
「あれはなに!? そして民の皆さんはとりあえず大きな音がしたら歓声を上げるのをやめてください! あと服を着てください!!」
その質問には、ラットとウィンが答えた。
「あれは恐らく、遺跡のサラマンダーたちの宴会でしょうな。
シンジが仲立ちしたおかけで、王家の霊たちと意気投合したようです」
「興が乗ると、ああやってシル一世様が盛大に火を吹かせるのだそうで
まぁ、そのおかげで、遺跡は順調にボロボロになっておりますが」
「ごせんぞおおおおおおお!!!!」
国の重要文化財が、ほかならぬ祀られた英霊たちによって破壊されつつあった。
ついでにシンジ
「いやぁ、魔王の
ベンが言う。竜討伐に出陣することもなくなり、すっかり呑気な好々爺である。
「平和、平和とは、うごごご」
「あ、姫様、ご機嫌麗しゅう」
「麗しく見えたのであれば私も大したものです」
突っ込み疲れ著しいフィアに呼びかけたのは、宿屋の娘クィナであった。
「クィナさんは、裸ではありませんのね」
「さすがに、まだちょっと恥ずかしくて」
「ようやくまともな方がいましたわ」
「もうすぐ、お祭りの一番盛り上がる時間ですよ。
“お話し屋さん”のラキィ様が、山竜様と一緒に曲芸飛行なさるそうです」
「へぇ、竜とそこまで心を通わせているとは。もうこの国も安泰でしょうか」
だが、その安堵は長く続かなかった。
「ラキィ様ァァァァ!! 服着てくださいィィィィ!!!!」
儚くも、風に消えていくフィアの叫び。遥か上空、シンジ絆され組の最右翼には届かない。
とはいえ、大きな事故もなく祭りは終わった。祭り自体が大事故だと? うむ。
「ハァ、ハァ……悪夢が……終わったわ」
フィアが、乱れた金髪を直しながら言う。
「皆さん、シンジさんに会いたいのですよ」
クィナが、はにかみながら言った。
「シンジさんは、自分が旅立った後も、みんなが寂しくないようにと、自分の国のお祭りを教えてくださったのだと思いますよ?」
「それにしたって限度があります」
「言ってましたよ。「俺が教えた祭りをみんなでやるようになったら、これがほんとのモザイク国家だな」って。
―――や、やめてください姫様! シンジさんが言ったんですってばぁ!」
宿の娘にコブラツイストをかけようとするフィアを、兵たちが全力で止めにかかっているところに、国務大臣がやってきた。
「モザイクが何かは知らないけどふざけてるは伝わるのよぉ!
って、どうしました?」
「あ、あの、大変申し上げにくいのですが」
「この期に及べばもう、何を言われても受け入れられます」
「実は、宝物庫を確認したところ、多くのものがなくなっておりまして」
「はい!?」
封印されていた宝物庫は、シンジ一行が勝手に入ってから再封印がされており、今日、久しぶりに開けることとなっていた。
「扉の裏側に、書置きがしてありました。シンジ殿の署名が入っています」
紙には、覚えたての拙いホロギウム文字で、こう書かれていた。
『せんだいの おうさまが おれいに もってっていいっていうから たびのしきんにします。 しんじ』
わなわなと震えるフィアに、恐る恐る大臣は続ける。
「そして、つい先ほど入った情報なのですが……山向こうの村から、王家の財宝が一部、流れていたと」
「……そ れ で ?」
「ひぃ!? か、買い戻すために、追加の国家予算を組まねばなりません。
そうなると、城壁の修繕は、後回しに……」
「つまり、私の部屋は、いつまで経っても風通しが良いままということですわね」
「……そう、なります」
「……」
王国中が、フィアのその叫び声を聞いた。
「シンジのバカはどこへいったああああああ!!!!」
大歓声が上がる。
こうして、一人の姫が、旅人を追いかけ回す旅を始めるのであった。
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