9話 真実はいつもじっちゃんの名に懸けて一つ!

 翌日。


 シンジ率いるヘンテコな一党パーティが、牢生活の心労が祟ったらしいフィアを残して、死霊魔術師ネクロマンサーが操る死霊のはびこるダンジョンと化した宝物庫へと潜入した。


「ベンじい、この鎧、軽くて良いな」

「ふん! 太古の“仙竜せんりゅう”よりたまわりし竜革の鎧じゃ! せいぜい精進するが良いわ! 竜槍歩兵りゅうそうほへいの一番弟子よ!」

「そんなものになったつもりはないけど、ありがたくいただいとく」


 耳が遠いせいで、いちいち声がうるさい王国の英雄ベン。


「ラキィさん、無理聞いてくれてありがとう」

「……いえ、王もフィア様も、お疲れのご様子でしたので、今のうちかと」


 意外とノリが良く、一時的に封印を解いてくれた王国処刑人ラキィと、


「何でワシらが」

「さぁ?」


 何故か大臣カウゴと、墓守のドンダによる五人組。


「やいシンジ。ひょっとして、宝物庫のお宝が目当てなんじゃねぇだろうな」


 いや、懐のラルも含め、六人組。


「その手があったか!」

「しまった。やべーことに気付かせちまったぜ」

「どう思う? リラ」


 シンジは何もない虚空へ向かい、霊に問いかける。


『どろぼうはいけませんわ。

 大丈夫。ほかの死者とは違い、術者を倒せば、わたしの魂は元に戻ります』

「だってさ、ラル」

「なぁ、シンジよ」

「ん? どうした偽装殺人妖精よ」

「……すまなかった」


 しおらしいラルに、シンジが竜皮の兜の中で微笑む。


「勇者殿、これはどのようなお戯れですかな?」

「これは、ご遺体を盗まれた私への罰なのですか?」


 おっかなびっくり後を歩くカウゴとドンダから、不安混じりの声が漏れる。


「いや、アンタらに、これから起こることを見て欲しいんだよ」


 シンジは言うと、立ち止まる。


 宝物庫の最奥さいおう。鬼火の如く揺れる人影が二体あった。さながら漆黒の霧が、人を象ったようである。


「む……」表情が引き締まるベン。

「これは……」慄くカウゴ。

「シンジ様、死霊系の魔物に、物理攻撃は効きませんよ。魔法は?」と訊くラキィに「使えるわけがない」とあっけらかんと答えるシンジ。


「ならなぜこのような場所に来たのですか! おバカなのですか!」


 怒り出すラキィにも、冷静に応える。


、だよ」


 霊と話せることを知ったシンジには、ある推理があった。その裏を取るべく、ここへ来たのだった。


「おお、死霊だ! 先王様と、勇者様の……!」

「違う」


 ドンダの言葉を、シンジは言下に否定した。


「これは、


 シンジの推理は、どうやら当たっていたようである。


※※


「ん~、今回の死霊使いによる連続事件。まさか、異世界転生モノの初っ端でミステリーやらされるとは思いませんでした。

 ここの作者はアホな癖にさかしらなことをしたがるのです。お付き合いいただき、誠にありがとうございます」


「さて、我が灰色の脳細胞が犯人を特定するキーワードは、“言葉”でした」


「転生者―――この名探偵シンちゃんに与えられた“話す”能力。竜であろうが死霊であろうが、喋られた言葉は勝手に自動翻訳してくれる便利能力です。

 設定厨なところがある作者は、いちいち亜人種の言葉を人造言語にして話させようとしていましたが、アホなので断念しました」


「話を戻します。どうやら、ようです。ここまで言ってしまうと、誰が犯人かもう言ってしまったようなものですね。

 すべては「ペンネームを使う意味が分からない」というアホすぎる理由で、本名で活動しているアホな作者が悪いのです」


「では、次回からの“解決編”でお会いしましょう。古畑……じゃない、シンジ・アサキでした」


「一人で何を喋っているのよ」


 本人にしか見えないスポットライト浴びていたシンジに、フィアが言う。


 再びフィアの寝室である。ゆったりとした寝間着の王女は、昨日よりずっと顔色が良い。


「アンタは元気ね」

「そんなことないぞ。ホロギウムは地球より一日が長くて、絶賛、異世界時差ボケ中だ」

「へぇ、そうなの」

「それに、ある日突然知らない人の声が頭の中でしたときは病気を疑った」

「それが、世界針せかいしんさまよ」

「そういえば、その世界針って、なんなんだ?」


 答える代わりにフィアは、澄んだ声で歌い始めた。


   海も草木も生命いのちもない

   うつろに針の落ちる音

   それが世界の始まりで

   そこからすべてが生まれ出で


   嗚呼ああ 世界針せかいしん 世界針

   ヒトも魔物も神様も

   貴方はどこへ連れて行く


「この世界は、小さな針の音から生まれたの。人も、魔物も、すべては世界針さまが創造なさった……あんた、興味ないでしょ」

「そんなことふぁ~いよ」

大欠伸おおあくびのついでに言うんじゃないわよ!」


※※


 フィアは、夢を見ていた。


 幼い頃。姉であり、後の王妃であるリィナ・アキマとの言い争い。


「フィアね、おにいさまとけっこんするの」

「あら、それはわたしなのよ。フィアは、にばんめ」

「おねえさまばっかりずるい!」

「くやしかったら、わたしよりおねえさんにうまれてくればよかったのよ」

「う~、おねえさまのばかぁ!!」

「わっ! おにいさまぁ、フィアがぶった!」


 それは、他愛のない姉妹喧嘩に見えていただろうか。


「王制の廃止なんて、絶対に認めないわ」


 と、時が一瞬で流れ、二人は、つい昨年の姿に変わる。


「王妃……。あなたも、ご存知のはずです。もうこの国で、純血の王家を守り抜くことなど……」

「頭でっかちの寄宿舎出に言われたくないわ!」

「……」

「本音を言いなさいよ、フィア。引き裂きたいのでしょう。私と、王を……この姉と、お兄様の契りを」

「そのようなことはございません……っ!」


 頬に、痛みが走った。夢は、そのときの熱さまでも、ご丁寧に再現してくれた。


「フィア、小さい頃、貴女はからかわれると、わたしをそうやって叩いたわよね。やり返されて、どんな気持ちかしら?」

「……改革は、誰でもない王のお考えです。私は、そのご意思を尊重するまで」

「そう。なら、そうやっていい子ちゃんぶっていればいいわ。私は譲りません。この王妃の座も、私と、シル・アキマ四世の愛も!」

「どうしたんだい?」


 そこへ、兄がやってきた。自分たちと同じ金髪碧眼の美男子。


「いえ、なんでもありませ―――ん?」


 その顔が、みるみる変わっていく。黒髪黒目の、少年シンジの顔に。


「なるほどここは昼ドラ王家だったか」

「やかましいわ!!」


 そこで目が覚めた。寝覚めさえも残念であった。


 シンジが、「証拠集めだ」などと言ってから、四〇日ほどが経過していた。

 犯人の名は知らされていない。

 ただ、「真実はいつもじっちゃんの名に懸けて一つ!」だそうだ。


 早朝。


 城下町から活気に満ちた声がする。


 その中心には、あの少年がいた。


 フィアは、寝ぼけ眼でひとりごちる。


「あのバカ、今日もかしら」

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