Ex.2 最初の頃の私は……
それは始業式を迎え、学校が始まってから初めての部活動の日の事……
私は部室の扉の前でドアを開けようか迷っていた。
元の名前が『人間観察部』。私のふとした発言で『ゆるふわ部』に名前が変わったものの、そもそもの名前は怪しいというか不思議な名前だ。自分たちの部活にそんな名前を付ける人たちなんだから、部員の素性は実はヤバいんじゃないの……?
そんな考えが頭をよぎると、突然ドアを開ける手が止まってしまう。
それでも私はおそるおそる、ゆるふわ部の部室の扉を開けた。
もしヤバいと感じたら逃げよう。あ、走って逃げるために準備運動しとけばよかったかも。
だがそんな考えも、もう遅い。扉を開けた私は、ホタル部長とココ先輩に見つかってしまった。
「あ、マイちゃん!良かったー来てくれたー!」
ホタル部長は私を見るなり、表情がパッと明るくなった。
「いらっしゃいマイちゃん。ほらほらそんなところで立ってないでこっちにいらっしゃい?」
ココ先輩は手招きして私を呼んでいる。
私は素直に二人の方へ歩いて近づいた。
いつでも振り返って逃げられるように考えておかないと……。
「よく来たねマイちゃん!来てくれて嬉しいよ!」
「あ、どうも……」
ホタル部長のあまりにも眩しすぎる笑顔に思わず返す言葉を失った。
「わたしたち二人ともマイちゃんが来るか不安に思ってたの。ね?ホタル?」
ココ先輩はホタル部長の方をチラッと見た。
「うん。さっきまで途中でマイちゃんの気が変わったらどうしよう。もしかして来なくなっちゃうのかなって二人で話してたんだよねー」
ホタル部長もココ先輩の方をチラッと見た。
「別に何も言わずに部活を辞めるほど私は悪い人間じゃないですよ?」
何か危なさそうな事があったらすぐ逃げ出そうとはしてるけど。
「マイちゃん良い子ー!そんな可愛いマイちゃんにはアタシからありがとうのギュー!」
「え……?ってうわぁ!」
油断なんてしてなかった。でもホタル部長の動きが早すぎて見えなかった。
気づけば私の目の前にいて、次の瞬間にはもう抱きつかれていた。
私は勢いよく抱きつかれて、少し後ろによろけた。
「いきなり何するんですかホタル部長!」
「え?何ってありがとうのハグだけど」
ホタル部長は私に抱きついたまま言った。
心の距離の詰め方が早い……!
まだ出会って二日目のはずなんだけどな。まさかハグされるなんて。
もう三分くらい経っただろうか。ホタル部長は未だに私を解放してくれない。
「あの、ホタル部長……?そろそろを離してくれてももいいんじゃないですか?あのー、くすぐったいんですけど……」
さっきからホタル部長の腕が脇腹に当たってとってもくすぐったい。なんとか声を出さないように我慢はしているけど、結構辛くなってきた。
「うーん、ホタルったらだいぶマイちゃんには懐いちゃったっぽいね」
ココ先輩が椅子に座って私達の様子を眺めていた。いや眺めてるんだったら助けて欲しいんだけど。
「懐いた……?」
「うん。ホタルがまだ出会って日も浅いのにそんなにスキンシップが多いのは、ホタルが相手のことをとっても気にいった時だけだから」
「なるほど……」
って今それどころじゃない。めっちゃくすぐったいんだけど。くすぐったいのを逃れようとして姿勢を変えたら、ホタル部長の腕が擦れて余計にくすぐったくなる。
「ホタル部長。お気持ちはとっても嬉しいんですけど本当に離してください?限界に近づいてきてるんで」
「そんな調子じゃ一年間持たないよ?ほら今から慣れておけばくすぐったいのも平気になるから!」
「そんな……!」
いやそうかもしれないけど流石に一日の限度とか設けて欲しいな。
「というわけで今日はずっとこのままね!」
「え……ホントに言ってます?!」
「うん!」
ホタル部長は最後まで私に抱きついたままだった。
***
最初の頃の私はハグに抵抗あったんですよ?
ちなみにこれが私のゆるふわ部における、初めての活動日だった。思い返してみてもゆるふわ部って何の部活なんだろうってなるなぁ。
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