第35話 お家デート③

 ホタルが「先にお風呂入っててー」というので、お言葉に甘えて先に入ることにした。

 自分の家以外のお風呂に入ったのっていつぶりだろう。幼稚園の頃におばあちゃんの家でお風呂に入ったけど、もしかしたらそれがラストかもしれない。

 それにしてもこの家はそもそも家が大きいからかお風呂も大きいな。私の家のよりひとまわり大きい気がする。

 いやでもなんか申し訳ないな、先に入っちゃって。


 そんな事を考えていると、後ろでお風呂の扉が開く音がした。


「マイー!」


 あれ?ホタルの声がする。どゆこと?

 私が困惑していると、突然何かに後ろから抱きつかれた。


「きゃっ!」


 冷たい何かが素肌にくっついて、私はビックリして小さい悲鳴を出した。

 え、なに?


 後ろを振り返ると、そこにはいつものポニーテールじゃなくて、髪をおろしたホタルがいた。


「え?ホタル?」

「ちょっとなに混乱してるのさ。普通恋人は一緒にお風呂に入るものでしょ?」

「え?」


 初めて聞いた。それどこ情報?


 ホタルは腕を解くと、私の顔を覗き込んだ。


「あー!もしかしてマイはアタシと一緒にお風呂に入るのがいやなのー?」


 そんなの……


「イヤなわけないじゃんもー!」


 私はホタルに抱きつき返した。


「えへへ……じゃあ洗いっこしよっか?」


 ホタルの声は少し嬉しそうだった。



 ***



 ホタルが私のシャンプーをしてくれている。自分でするって言ったけど、「そんなこと言わずに!」と押されて、シャンプーしてもらうことになった。

 私がイスに座って、ホタルがその後ろで立ってシャンプーしてくれている。


「このシャンプー良い匂いがする……」


 いつもホタルがハグしてくれた時にする匂いだ。


「そう?ずっと使ってると自分ではわからないものなんだよねー」


 ホタルはこうやって話しながらも手を止めない。


「どう?気持ちいい?」

「うん……」


 めっちゃ気持ちいい……。

 頭皮マッサージみたいになっていて、なんだかどんどん眠たくなってきた。


「ふわぁ……」

「どうしたの?もしかして眠たくなっちゃった?もうちょっと我慢して?今日の夜は一緒に寝ようね」


 一緒に……?


「それって同じベッドで……?」

「もちろん!」


 ホタルと一緒の布団で寝れるんだ!えへへ……なんだか今日はずっと幸せだなぁ。


「嬉しそうだねマイ?顔に出てるよ?」


 鏡が曇っていたので、ホタルは私の顔を直に見た。


「えーそうー?なんかもう幸せが抑えきれないって感じで……えへへ」

「マイの嬉しそうな様子を見ると、なんかこっちまで嬉しくなってくるよ」


 そう言うと、ホタルはシャワーヘッドを持った。


「じゃあ泡流すからね。泡が目に入らないように気をつけてね?」


 シャワーのお湯がゆっくりと私に当たる。


「大丈夫?熱くない?」

「ちょうど良いよ!」


 私は目を瞑って答えた。


「なんか力入ってない?すごい力強くグーの手してるけど……そんな力入れなくて良いよー?アタシ出来るだけかからないように頑張るからね」


 目を瞑らないと!って思ってたら、なんかいつの間にか力入ってた……。

 ホタルは泡を優しく丁寧に流してくれた。


「よし!できたよ?」

「ありがとう!」


 いっぱい洗ってもらった。あぁ……もう終わりか……早かったな。


「あ?もっとして欲しいって思ってるでしょ?」

「なんでわかったの?!」


 考えが読まれてる!


「なんでだろうねー。恋人だからじゃない?」


 マジか……恋人パワーすごい。


「恋人のマイならアタシが今何して欲しいかわかるよね?」


 え?!そんなの無茶振りじゃない?!


「え?えーっとー、『アタシも同じ事して欲しい!』とか?」

「おーさっすがー!よくわかってる!」


 やっぱり恋人だからわかるんだよなー。


「というわけでアタシにもよろしく!」


 ホタルにシャワーヘッドを渡された。

 あ、私もやるのかこれ。出来るかな……?



 ***



 一通り体全て洗い終わって、二人で一緒に湯船に浸かることにした。

 入浴剤を入れてお湯が真っ白になる。なんかこの入浴剤はお肌にいいらしい。詳しいことはわからないけど。

 二人一緒に湯船に入ってみる。やっぱり狭いと感じたけど、苦にはならなかった。あと、lずっとくっついていられるので私的には嬉しい。

 しかし、私には気になる事がある。


「なんで私はホタルのお膝の上に座ってるの……?」


 何故か私はホタルの伸ばした脚の上に座るように、湯船に浸かっているのだ。お膝においでって言われた。


「いやー、一回こうしてみたかったんだよねー。マイってお人形さんみたいに可愛いからさ。あ、もしかしてイヤだった?」

「いや全く?」


 即答した。イヤなわけないし、むしろ嬉しい。


「んー!マイー!」

「うわぁっ!」


 ホタルに後ろから抱きつかれて、ホタルにもたれるように体勢が崩れた。


「もっとマイにくっつきたかったんだけど……ダメ?」


 ホタルが後ろから、私の耳元で囁く。


「ダ、ダメじゃない……」


 くっつかれてる上に囁かれると、なんだか恥ずかしいな。


「今思ったんだけど、こうやってるとマイの顔が見えないね」


 ホタルが今度は普通に喋った。


「私は見られなくて良かったって思ってるよ……」

「なんで?」

「だって私、今恥ずかしさで絶対顔真っ赤だもん」

「えーちょっと見たかったかも……?」

「もう、ホタルったら……」


 イジワルだなぁ。


「でもやっぱり私もホタルの顔見たいな……」

「じゃあ向かい合わせになる?」

「……うん」



 ***



 向かい合わせになった。脚を折り曲げて二人とも体育座りで向かい合う。

 なんでだろう。部活でホタルの顔はよく見てるのに、湯船の中でホタルと顔を見合わせるのがなんだか恥ずかしい。

 私は肩までお湯に湯かった。


「いやー、マイも二年になったら部長だね」

「え?そうなの?」

「まぁアタシが引退してからだけどね」

「引退……」


 そうだよね……三年の二学期が終われば先輩たちは部活を引退するんだよね……。


「ま、アタシは引退しても部室には遊びに行くからさ。引退なんて名前だけの物だけど」

「うん……」


 無意識に口元あたりまでお湯に浸かった。


「あーもうごめんって!今こんな話するんじゃなかったよもう!」


 ホタルは私を強引に抱き寄せた。ほっぺたをすりすりして、背中を優しくさすってくれる。そして私を抱きしめたまま、私に優しく言った。


「アタシ自身はどこにも行かないからさ。これからも楽しいこといっぱいしよ?」

「……うん!」


 先のことを心配しても仕方ない。そんなことより今を楽しまなきゃ。ホタルがこんなに優しくしてくれてるのに。


「とりあえず今日のお楽しみは一緒に寝ること!」


 ホタルが明るくい言った。


「うん!」


 寝れるかな……?なんか興奮して寝れない気がしてきた。

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