第34話 お家デート②

 ふあぁ……私、いつの間にか寝てたの……?

 なんだか幸せな夢を見てたような……?


「……おはよう、マイ」


 目の前には優しく微笑むホタル部長がいた。

 あれ……ホタル部長?なんでこんな近くに?なんだか寝ぼけてて頭が回らない。


「えっと……ホタル部長?おはようございます……?」


 私はさっきまでホタル部長の腕枕で寝てたの……?なんでこんな幸せな状況にいるんだ?


「こーら、呼び捨てで敬語使わないって言ったでしょ?アタシ、マイともっと近くなりたいんだから」


 えっと……あ、思い出してきた。


「あっ、ごめん。寝ぼけてて……」

「大丈夫だよ。よく寝れた?」


 ホタルは私の頭を撫でながら聞いた。


「うん。ぐっすり」

「それは良かった。二度寝しちゃう前に起きよっか?」

「うん」


 一度立ち上がって伸びをする。体がどんどんほぐれていく。


「結構寝てたね」


 ホタルが窓の外を見て言った。


「あ、ほんとだ」


 いつの間にか外が暗くなっていた。


「大丈夫?夜ちゃんと寝れる?」

「うーん……わがままだけど一緒に寝てくれれば……」

「それくらいするよ」

「ホント?やった!」


 ホタルは優しいなぁ。


「あ、そういえば」


 私、ホタルに言いたいことがあるんだった。


「どうしたの?」

「いや、さっき見た夢の話なんだけど」

「おぉ!良いね。アタシそういうの好きだよ?どんな夢見たの?」


 ホタルは興味津々な目で私の方を見てくる。


「えーっと、その」

「ん?話しにくいことなの?怖い夢だった?私なら大丈夫だよ?」

「いや、そんな怖い話とかじゃ無いんだけど」

「じゃあどんな夢だったの?アタシに教えて!」


 ホタルは無邪気な笑顔を私に見せる。


「えーっと、私、夢の中でホタルとキスしたんだよね……」


 私の顔が熱くなる。

 ホタルはキョトンとした表情で動きを止めた

 あれ、話題ミスった?


「えっと、ホタル……?」


 私はホタルの肩をトントンと叩いた。


「あぁ、ごめん。ちょっと突然の事過ぎて理解が……えっと、キス……?」


 ホタルは顔を赤らめる。


「うん、そのキスの夢が幸せだったなーって」

「あー……」


 ホタルは突然静かになったかと思うと、上の方を見て何か考え事をして、さらに突然顔を覆い隠した。


「大丈夫?」


 私は恐る恐る聞いた。

 ホタルは指と指の間から目を覗かせた。


「大丈夫。ちょっとキスのこと考えてたら恥ずかしくなっちゃった。ちょっとまだアタシの心の準備が出来てないっぽくて。でも、マイとキスしたいね」

「今……しても……良いんだよ……?」


 私も心の準備なんて出来てないけど。

 ホタルは少し無言になった後無言で言った。


「もう少し……待ってもらっていい?」

「あ、うん……」

「……」

「……」



 そのまま二人の間に変な空気が流れる。

 どうしよう私が出した話題がこんなことになるなんて。絶対に話題選び間違えた。

 ていうかこの空気どうしよう。


 コンコン……


 突然部屋のドアがノックされた。


「はーい」


 ホタルが返事をした。


 ガチャ……


「お邪魔しまーす!あ、マイちゃん!久しぶり!」


 ドアを開けたのはホタルのお母さんだった。


「あ、お久しぶりです!お邪魔してます!」


 これはおかしくなった空気感を元に戻すチャンスかも?


「ゆっくりしてってね?何日でも泊まって良いから!」

「いやいや、そんな迷惑になっちゃいますよ」

「大丈夫だから!全然迷惑じゃないよ!」


 本音としては毎日泊まりたいけど……流石にね?


「それよりこんな時間にアタシの部屋に来てどうしたの?」


 ホタルがお母さんに聞いた。


「なに?来たらダメだった?」

「そこまでは言ってない」


 なんか私のお母さんと私が話してる時みたいな会話してるような……。


「あ、そう?それで何の話だっけ……あ、思い出した。マイちゃん!」

「え?あ、はい!」


 突然呼ばれてびっくりした。


「我が家ではもう少しで夜ご飯の時間なんだけど、マイちゃんって嫌いな食べ物ある。まぁ、もう作っちゃったんだけどさ。今ならお皿に盛り付けるときにどうにかできるけど」

「いや、特に嫌いな食べ物は無いですよ?」


 食べ物ならなんでも大丈夫……なはず!


「おーそれは助かるよ!うちのホタルと大違い!」


 お母さんはホタルの方を見ながら言った。


「なんだよー!嫌いな食べ物多くて悪かったなー!」


 いきなり矛先を向けられたホタルはムッとした表情を見せた。


「あはは、別に良いんだけどさ。じゃあご飯の時呼ぶからそれまで待っててねー!」


 ホタルのお母さんはどこかへ行ってしまった。


「もう、お母さんったら!」


 ホタルはもう誰もいないドアの方に向かって膨れっ面をしていた。


「あはは……」


 変な空気はどこかへ行った。

 ありがとうホタルのお母さん。



 ***



 ホタルのお母さんに呼ばれてリビングの方に行くと、食卓にはもう料理が置かれていた。

 今日の夜ご飯はカレーライスらしい。他にもサラダや果物もある。

 いい匂いがするなぁ。


「お、ちょうど良いときに来たね。ご飯の用意出来てるよ」


 ホタルのお母さんがエプロンを外しながら言った。


「マイ、こっちこっち!」


 先に座っていたホタルが、隣に座ってと言わんばがりにイスを引いて待ってくれていた。


「うん!」


 ホタルと一緒にご飯!

 私はワクワクしながらホタルの横に座った。

 料理からはまだ湯気が上がってて、あったかそうだ。見てたらお腹空いてきたな……早く食べたい。


 突然、電話の着信音が鳴った。

 ホタルのお母さんのスマホの着信音らしい。


「もう、こんな時間に何の用?」


 お母さんはイヤそうな顔をしながら電話に出た。


「はいもしもし……はい……今?……あーはいわかりましたよ……今から行きますね」


 明らかに声色が不機嫌だ。


「どうしたの?」


 ホタルがお母さんに聞いた。


「今から仕事だってさ。ホント迷惑だよ……」


 お母さんはそう言いながらコートを着た。


「あー、頑張って」

「うん、ちょっと一仕事してくるよ」


 お母さんはそう言って部屋の扉を開け、私たちの方を振り返った。


「なんかこうやってみたら可愛い娘が一人増えたみたいだわー……」

「もう、そんなこと言って。お母さん仕事は?」

「えーちょっとくらい良いでしょ?……もう、ホタルがうるさいから行ってくるよ。二人の時間を楽しんでね?行ってきまーす」

「いってらっしゃーい」

「いってらっしゃいです」


 二人はお母さんの背中に声をかけた。


「じゃあ食べよっか?」

「うん!……ってホタルはずっと隣なの?」


 お母さんが居なくなって向かいの席が空いたけど、ホタルは相変わらず私の隣に座っていた。


「良いじゃん、隣の方が近いでしょ?」

「確かに」

「ほら、冷めないうちに食べよ?」

「うん!」


 二人でどちらからともなく手を合わせた。


「「いただきます!」」


 スプーンですくって一口食べる。


「うーん!美味しい!」


 自分の家のと違う!


「もしお母さんが聞いてたら喜ぶと思うよ」

「タイミング悪かったねー」

「ねー」


 しばらく食べ進めていると、カレーの中に星形にかたどられたニンジンを見つけた。


「あれ?これって……?」


 ホタルは私のスプーンの上にのったニンジンを見た。


「あー……お母さん張り切ってたのかも……」


 別にそんなことしなくて良いのに……とホタルはため息をついた。


「いやいや、嬉しいですよ?」

「そう?アタシはなんだか恥ずかしくなってきたよ……」


 こうやって手間かけてくれてるのは嬉しいけど……。


 そう思いながらまた一口カレーを食べようとした。


「ねぇ、マイ」

「ん?」


 ホタルの方を見ると、ホタルはスプーンいっぱいにカレーをのっけていた。


「あーんして?」


 そんな突然?!


「なに戸惑ってるのさ。この家にはアタシたち二人しかいないんだよ?何も恥ずかしがることないじゃん」


 あ、確かに。


「ほら、あーん」


 あーん……


 パクッ


「どう?美味しい?」


 聞かれてるけど、私はカレーを口いっぱいに頬張っていてなかなか喋れない。

 口をモゴモゴさせながらどうにか飲み込んで、ようやく喋れるようになった。


「美味しいです!」

「おお!」


 ホタルは目をキラキラさせて喜んだ。


「もう一口どう?」


 ホタルはまだカレーをすくう。


「あ、できればさっきより少なめに…」

「うん!わかった!」


 そう言いながらホタルはさっきと同じくらいの量のカレーをすくう。

 わかった!って言ってたけどわかってないんじゃ……?


「はい、あーん!」


 でも、ホタルのキラキラとした目を見ると流石に拒めない。


「あーん」


 パクッ……


 もぐもぐ……やっぱり多いような……


「ねえねえ」


 ホタルは私の服の裾を掴んで引っ張った。


「なに?」

「私にもあーんして?」


 ホタルは上目遣いで言った。

 ダメだ、私気付いてしまった。私ホタルの上目遣いに弱い……。


「いいよ」


 スプーンでカレーをすくってホタルの口元に持っていく。

 スプーンの上のカレーを見たホタルは一言こう言った。


「ちょっと少なくない?」

「え?そう?」


 私これくらいなんだけど……っていうか一口が頬張るほどいっぱいなホタルがただ多いだけなような……?

 私はもう少しすくって、もう一度スプーンをホタルの口元に持っていった。


「はい、あーんして?」

「あーん」


 あむっ。


「んー!おいひー!」

「口いっぱいにもの入れたまま話さないで?落ち着いて?」


 ホタルはカレーをのみこむと、「えへへー」と笑った。なんだかこっちまでつられて笑顔になる。


「さぁ、あとは一通り食べて、そのあとはお風呂入ろっか」

「そうだね」


 よし残りも食べちゃおう。

 そう思って私はまたカレーをすくった、


「あ……」


 私大切なことに気づいたかもしれない。

 このスプーンでホタルに食べさせたって事は、今からこのスプーンでカレーを食べたら間接キスになるんじゃ……?


「どうしたの?」


 ホタルが私の顔を覗き込む。


「えっと……いや、なんでもない」


 このスプーンでカレー食べたら間接キスになりませんか?と続けようとしたけど、やっぱりやめておこう。変な空気にしたくないし。


「えー、ちょっとー。別に教えてくれても良いじゃん!」

「そんな大した事じゃないから。ほら、冷める前に全部食べよう?」

「もー、まぁ良いけど……」


 ホタルはしぶしぶ諦めてくれたようだ。ホタルはカレーを食べ進める。

 私もそれを見て、またカレーを一口食べた。


 うーん……でもやっぱりホタルとキスしたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る