第31話 早起きは……
やっぱり学校に行くまでの時間はちょっと憂鬱だ。だって学校しんどいし。
あぁ、部活だけやって帰りたいな。毎日そう思いながら電車に揺られる。まぁ実際学校に着いたら友達が居るから憂鬱な気分は消えるんだけど。
電車を降り、人の流れに沿うように歩いて改札を抜ける。駅を出たら学校まではそう遠くない。
歩道に高校生の列が出来上がる。私はその列に従う。追い抜くわけでも追い越されるわけでもなく、みんなと同じ速さで歩く。
「あれ、マイちゃん!」
後ろから声が聞こえる。振り向くと、ホタル部長がこちらに駆け寄って来ていた。
「ホタル部長!」
「えへへ、おはよう」
「おはようございます!」
朝からホタル部長に会えるだなんて……今日は絶対いい日だ。
「マイちゃん早いね。いつもこれくらいの時間なの?」
ホタル部長は私の横についた。二人で並んで歩く。
「そうですね、大体いつもこれくらいの時間です。ホタル部長はいつももっと遅いんですか?」
「うん。後二、三本は遅い電車に乗ってるよ。でも今日は早起きしてね……ふぁあ」
ホタル部長は話している途中にあくびをした。
「寝不足ですか?」
「んー、ちょっとね。寝るの遅かったし、起きるの早かったから……」
ホタル部長は苦笑いしながら言った。
「いつも何時くらいに起きるの?」
「えっと……大体七時くらいですね」
そう言うと、ホタル部長は驚いたような素振りを見せた。
「七時?!早いね。たまたま早起きした今日の私と同じじゃん。マイちゃん眠たくないの?睡眠時間足りてる?」
「大丈夫ですよ?もう慣れたんで。元気です!逆にホタル部長はいつも何時に起きてるんですか?」
「アタシ?んー、アタシは七時半とか……遅くなると八時とかかな」
「え?!その時間に起きて間に合うんですか?」
「大丈夫だよ!毎日門が閉まるギリギリに滑り込んでるから!」
それは大丈夫って言えない気がする。
「それにしてもマイちゃんと一緒に登校できるなんて……早起きは三文の徳ってやつだね。明日も頑張って早起きしようかな」
「明日もホタル部長と歩けるんですか?!」
だとしたらめっちゃ嬉しい!
「可愛いマイちゃんのために早起き頑張ってみようかな!」
ホタル部長は私の方を見て笑顔でそう言ってくれた。
「やったー!」
明日もとホタル部長と一緒……考えただけでもう楽しい。
「早起きできるかなぁ」
「私が起きたらホタル部長のスマホに電話かけましょうか?」
「いや、マイちゃんにそこまでさせるのもどうかと思うし自分で頑張って起きるよ」
ホタル部長優しいなぁ。
そうやって二人で話しながら歩いていると、突然人の流れが止まった。
なんだと思ったがただの赤信号だった。
「寒いですね」
私はかじかんだ手をさすりながら言った。
「マイちゃん手袋は?」
ホタル部長は私の手を見ている。
「穴が空いちゃったので家に置いて来ちゃいました……」
私は何も持ってないと両手を大きく広げた。
「じゃあ手繋ごっか」
ホタル部長は私と手を繋いでくれた。なんだかホタル部長の手が冷たい。手元を見ると、ホタル部長は手袋をしていなかった。
「あれ?ホタル部長、手袋は……?」
「あー、アタシは寝ぼけてて普通に忘れてた」
「それちょっとわかります」
私も何回か寝ぼけて手袋忘れたことあるし。
手の方に意識を持っていくと、手がどんどん温かくなってきた。それがホタル部長か私かはわからないけど。
「あ、信号もう青だよ?」
ホタル部長は私の手を引っ張って言った。
「あ、ボーッとしてました」
こんなに信号が早く変わるだなんて。お話したい事はいっぱいあるのに。
「もうちょっとで学校だよ?頑張って」
「はい!」
ホタル部長に言われたらいくらでも頑張れる気がする。というか頑張れる。
学校までの残りの道のりを二人で手を繋いで歩いた。
恥ずかしい気もしたけど、朝から幸せな気分で恥ずかしさなんてどうでも良くなった。
やがて学校が見えてきた。
あぁ、ここまでかぁ。もう少し歩いていたかった。
「もうちょっとで学校着くね」
ホタル部長も少し物足りなさそうだった。
「もっとおしゃべりしたかったんですけど……話したい事が多すぎて……」
「じゃあお話は放課後にね?」
ホタル部長は手を離したかと思うと、私の頭を撫でて、指で髪を梳かしてくれた。
「はぅ……」
つい声が零れる。
校門の目の前まで来るとホタル部長の足が止まった。私もつられて立ち止まる。
なんだろう?
そう思った次の瞬間、ホタル部長が勢いよく私に抱きついてきた。
「わわっ!びっくりした!」
ホタル部長はしばらく私に抱きついてきた動かない。
「……どうしました?」
私が少し心配してホタル部長に触れようとしたら、ガバッと顔を上げた。
「マイちゃん成分で充電かんりょー!じゃあまた放課後ね!頑張って!」
そういうと、ホタル部長は駆け足で門をくぐって学校の中に入って行ってしまった。
あぁ、行っちゃった。
あまりに突然すぎて何も出来ずに立っていると、後ろからナツミに声をかけられた。
「どうしたのマイ?そんなとこで立ち止まって?というか顔赤いよ?どうしたの?」
ナツミは私の顔を覗き込む。
「えへへー秘密!」
「ん?どういう事?まぁいいや。ほら、早く教室行こ?」
ナツミに背中を押されながら私は学校に入っていった。
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