三学期
第29話 甘えたい
ついに三学期に入った。
三学期の始業式の次の日、ゆるふわ部の四人はいつもの部屋にいた。
使われている教室が一つもないフロアの一番奥の部屋。元は物置だった部屋がゆるふわ部の部室だ。
今は物置だった面影は無い。ただ、物は沢山置かれている。
部屋の真ん中は冬休みに入る前のまま、大きなこたつが置いてある。
他にも大きくてよく沈むソファーだったり、保健室で使わなくなったベッドだったり。他の部活では置いてないだろう。
みんなは宿題したり本読んだりソファーで寝てたり、のんびり別々のことをしている。
うん、何もかもが今までのままだ。
ゆるふわ部は三学期も変わらず平常運転らしい。
「なんだかみんなの制服姿久しぶりに見た気がします」
私はコタツで絵を描いていたが、あまりの静けさに耐えられず独り言のように言った。みんなそれぞれ別の事をしているが、きちんと話は聞いてくれている……はず。
「ナツミはマイのこと昨日も見たよ?」
コタツで宿題をしてるナツミが言った。私と同じクラスの子で、クラスの中で一番仲が良い。ナツミといると、なんだかゆったりとした時間が流れている気持ちになる。
「そりゃあ昨日は三学期の始業式だったからね。クラスの子には会えるよ。そうじゃなくて先輩たちの制服姿の事」
「あー……確かに」
今気づいたのかな?
「最後に会ったのはお正月だっけ」
声のする方を向くと、ソファーで本を読んでいたはずのココ先輩がいつの間にか私の隣にいた。
ココ先輩は私の一つ上の先輩で、黒髪ロングの美人なお姉さん。背が高くすらっとしている。つまりスタイルが良い。いつも本を読んでいて近寄りがたく見えるけど、実際はとっても優しい。
「そうですね。初詣にみんなで行ってから会ってないです」
そうか、そんなに会ってなかったのか。もうかれこれ1週間以上会っていなかった事になる。
「マイちゃんは元気してた?」
後ろから抱きしめられたかと思ったら、ココ先輩の隣で寝てたはずのホタル部長の声がした。
ホタル部長はこのゆるふわ部の部長だ。ココ先輩と同じ一つ上の先輩で、明るい茶髪のポニーテールをしている。スキンシップが多くてよく手を繋いでくれたり、ハグをしてくれたりする。最初は慣れなかったけど、今は正直とても嬉しい。
「私は元気でしたよ?宿題に追われてましたけど」
先生は生徒に対する手加減を覚えた方が良い。
「あー、休み期間の短さの割に宿題多いもんね」
ホタル部長は苦笑いをした。
「そうですよほんと。大変でした」
「最終的に宿題は全部終わらせたの?」
「もちろん!」
終わらせないと成績に関わっちゃうんで。
「エラいじゃん!」
ホタル部長はそう言って私をもう一度後ろから抱きしめた。
何回ハグされてもやっぱり嬉しい。心が暖かくなる気がしてくる。
「もっと褒めてくれても良いんですよ?」
抱きしめられてつい調子に乗ってしまう。
「マイちゃんエラい!」
ホタル部長は私をハグしたまま頭をよしよしと撫でてくれた。
宿題終わらせただけでこんなに褒めてくれるのホタル部長だけだよ……。
「そういえばもう三学期なんだね。もう少しでマイちゃんに会ってから一年経つよ?」
ホタル部長がココ先輩とは反対側の私の隣でコタツに入って言った。
「そっか……もう少しで一年経つんですね」
つい最近の事のように思えるなぁ。
「三学期は何しようか?」
ホタル部長は机に身を乗り出してみんなに聞いた。
「何って別にそんな何かに対して身構える部活でもないでしょ。今までそういうの決めてなかったし」
ココ先輩がホタル部長に言った。
「んー確かに……!」
それでいいんだホタル部長。
「ナツミはみんなともっと遊びたいしお話したい!ナツミちょっと入るの遅かったから……」
途中から部活に入ったナツミはもっと遊びたい欲があるようだ。
「じゃあ先輩のわたしたちがもっと部活の日を増やさないとね」
「そうだね!アタシたちが頑張らないと!」
ココ先輩とホタル部長がそう言った。
「マイちゃんは?」
ホタル部長が私にも聞いた。
「私ですか?うーん……」
正直何も思いつかないな。今のこの感じが好きだし。
「そうですねー、私は今のままいっぱい可愛がってくれればそれで満足です!」
「ホント?」
ホタル部長が不思議そうに聞いた。
「ホントですよ」
私は今のままでも満足だ。
「でも三学期が終わったらマイちゃんにも後輩ができちゃうよ?」
「どういう事ですか?」
ココ先輩が言った言葉の意味がイマイチよくわからない。
「マイちゃんに後輩ができたら、マイちゃんは後輩の相手をしないといけなくなるよ?アタシたちも新一年生の相手をするから、マイちゃんたちを可愛がってあげられる時間が減っちゃうよ」
ホタル部長が教えてくれた。
あー……そうか。私が先輩たちに甘える時間が減っちゃうのか。
うーん。
「まぁでもそういうのは実際に起きてから考えます!残された時間を大切にしないと!」
先輩たちに自由に甘えられる時間は少ない!
「なんかマイちゃんらしいね」
ホタル部長はそう言って私を横からハグしてくれた。
そして、私の耳元で囁いた。
「いっぱい甘えてくれて良いからね?」
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