第28話 お正月

 今日は一月一日、お正月だ。なんならついさっき年が変わったところだ。

 私が起きているのに別に理由があるわけではない。別に毎年大晦日から正月の間は起きている。なんかせっかくのお正月を寝ちゃうのもったいないし。

 でも、今年の正月は今までの正月とはちょっと違う。


『明日の朝10時に神社の前に集合ね!』


 これは昨日ホタル部長がゆるふわ部みんなに送ったメッセージだ。

 みんなで初詣……楽しみすぎて寝れるわけがない。いやまぁそもそも毎年この日は寝てないけど。

 それにしても十時かぁ。それまでどうしようかな。テレビでも見るか。

 何をお祈りしようかな。今から考えでおこうかな。



 ***



 朝九時半。私は神社の前にいた。

 うーん、早すぎた。

 でも仕方ない。そもそも寝なかったせいでとても眠かったもん。立ってないと、動かないとすぐにでも寝れそうなほど眠たくなっていた。いつもならベンチが有ればすぐに座ってるけど、今日は座っていない。目の前にあるベンチあるけど。今なら座ってても寝れる。

 流石にこの時間だという事、そしてそもそも正月ということもあって、沢山の人が神社に出入りしている。すごい人の量だ。人の数数えてたら立ったままでも寝れるかな?

 そんな事を考えていると冷たい風が吹いてきた。うぅ寒い。一瞬にして眠気が飛んでいく。流石にこの寒さの中では寝れないな。


 しばらくボーっと立っていた。暇だなぁ。

 しばらく立っていると、ホタル部長の声が聞こえてきた。


「あれ?マイちゃんだ!あけおめー!もう来てたの?」

「あ!ホタル部長!あけましておめでとうございます!早かったですね!」

「それはこっちのセリフだよ。早かったねマイちゃん。いつ来たの?」

「えーっと……二十分くらい前ですね、多分」


 適当な事を言ったと感じたけど、腕時計を見ると大体それくらい経っていた。


「はやっ!」

「いやー、家にいてたら眠たくて……」

「え?寝てないの?」

「え?寝たんですか?」

「え?」

「え?」


 みんな寝るんだ……。


「いやー、それにしてもホタル部長はいつもこれくらいの時間に来てるんですか?」


 私はあからさまに話題を変えた。


「え?あーうん、そうだね、みんなより早くには来れるようにはしてるね。今回はちょっと遅かったけど……」

「何かあったんです?」

「いやー、髪がハネててね……なかなか戻ってくれなくて大変だったよ」

「それは大変ですね……」

「ホントだよ……どんどん時間迫ってきて焦ったよ」


 そんな話をしていると、遠くの方にナツミとココ先輩がみえた。


「……ん?あれナツミとココ先輩じゃないですか?」

「え?どこにいるの?全然見えないんだけど」

「ほら、あそこに」


 私は二人の方を指さした。


「えー?わかんないなー……」


 ホタル部長は目を細めた。


「ホタル部長目悪いんですか?」

「んー、まぁちょっと。メガネつけるほどじゃ無いけど。マイちゃんは目良いの?」

「どうなんでしょう。学校で受ける視力検査は一番小さいのまで全部見えますけど」


 半分感覚だけど。多分こっち!みたいな。


「すごいじゃんそれ」

「え?見えないんですか?」

「アタシは見えないよ?なんなら見えない人多いと思うけど」

「へー意外……」


 みんな見えるものだと思ってた。


「それで二人はどこに……?」


 ホタル部長は未だに二人を探していた。


「ほら、あっちに」


 私はホタル部長の目線の方に腕を近づけて指さした。


「んー?あー!あれか!」


 どうやら見つけられたらしい。ホタル部長は「おーい!」と手を振りながら大きな声で二人を呼んだ。


 二人は私たちに気づくと少し小走りでこちらに走ってきた。


「あけましておめでとうございます!」


 私は二人に向かって言った。


「あら、おめでとうございます」


 ココ先輩は丁寧に返してくれた。


「おめでとー!」


 ナツミは軽いなぁ。


「ごめんね待たせちゃって」


 ココ先輩は苦笑いしながら言った。


「いやいや、今来たところだから」


 ホタル部長が答える。カップルかな?


 それにしてもどうして二人は一緒に来たんだ?


「ナツミはどうしたの?ココ先輩と一緒だなんて」

「いやー、神社がどこかわかんなくて。ココ先輩に連絡したら一緒に行こうって言ってくれたから……」

「別に私に連絡してくれれば良かったのに」

「だってココ先輩の方が信頼できるから……」

「えぇ……?」


 クラスメイトをなんだと思ってるんだ。



 ***



 神社の中に入ると、境内には沢山の人がいた。そもそも大きな神社ではないので、結構混んでいる。自由に身動きが取れないほどではないけど。


「みんなは何をお祈りするの?」


 境内を歩きながらホタル部長がみんなに聞いた。


「そういうお祈りの内容って言っていいの?」


 ココ先輩が聞く。


「あー、確かに。どうなんだろうね」


 ホタル部長は上着のポケットに手を入れて、少し上を見上げて歩きながら考えた。


 結局答えが出ないまま歩いていると、少し先の方に人だかりが見えた。それは徐々に近くにつれ、ただ集まっているわけではなく、列になって並んでいた。


「お祈りするのってあれかな?」

「多分そうなんじゃない?ナツミたちも並ぼ!」


 ナツミに話しかけると、ナツミはそう言って歩みを早めた。


「そんな急がなくても逃げないよ!」


 私はナツミにそう言いながら追いかけた。



 ***



 四人は列に並んで自分たちの順番が回ってくるのを待っている。思った以上に列が進むのは早かったが、それでも人の量のせいかなかなか目的の場所には辿り着けない。


「うぅ、寒いね」


 ホタル部長が手袋をつけた手をさすりながら言った。


「そうですね」


 人混みで風邪遮られているものの、空気が冷え込んでいてそもそもが寒い。

 マフラーに顔をうずめていると、肩をポンとたたかれた。


「ほらマイちゃん。これ使って?」


 振り返るとココ先輩がカイロを持っていた。


「いいんですか?」


 ココ先輩の分がなくなっちゃうんじゃ……?


「わたしより寒そうにしてるからね」

「ありがとうございます!」


 やったー!


 私はカイロをほっぺたに当てた。顔はガード出来ないからね。


「ナツミのはー?」


 ナツミがココ先輩の腕を持って揺さぶる。


「んー、じゃあマイちゃんと仲良く交代で使って?」


 ココ先輩がそういうので私はナツミにカイロを渡した。

 さっきまであったまってたから余計に寒くなる。


「あったかーい!」


 ナツミはカイロを持ってご機嫌だった。

 寒いけど取り上げたらかわいそうだなこれ。


「おーいみんな、もう順番だよ?」


 ホタル部長が私たちのことを呼んでいる。

 いつの間にか列の先頭まで来ていたらしい。


「みんな何お祈りするか決めた?」


 ホタル部長がみんなに聞いた。


「はい!バッチリです!」


 内容はもう決めた。みんなに言うのは恥ずかしいけど。


 四人みんなで並ぶ。

 私は財布から五円玉を取り出した。

 そしてせーのでみんな一緒にお賽銭箱にお賽銭を入れる。

 ホタル部長が鈴を鳴らした。

 手を鳴らして、目を閉じてお祈りする。



 ゆるふわ部のみんなともっと仲良くなれますように。

 ……あとホタル部長ともっともっと仲良くなれますように。



 ***



「みんなちゃんとお願いできた?」


 人の列を背にみんなで歩きながらホタル部長が聞いた。


「もちろんです!」


 これで今年一年いい年になればいいな。


「ねぇマイ、あれ」


 ナツミが私の腕を掴む。

 ナツミが指差す先には『おみくじ』と書かれた看板が立っていた。


「ん?おみくじじゃん!」


 ホタル部長が嬉しそうに言った。


「引くの?」

「当たり前だよココ!せっかく来たんだから引こうよ!」

「わかったよ」


 私とナツミは二人についていく。


「良かったねナツミ」

「うん!」


 ***



「おみくじ一回お願いします!」

「五百円お納めください」


 ホタル部長が黒い筒をガラガラと振って出てきた細い棒を巫女さんに見せる。

 しかしホタル部長はもらったおみくじの中身を見ず、隣でおみくじを引こうとするココ先輩に何か言ってこちらに戻ってきた。


「おみくじどうでした?」


 私はホタル部長に聞いた。


「いや、まだ見てない。みんなで一斉にみようと思って」

「なるほど!」


 そういうことか。


「というわけで二人もおみくじ引いておいで」


 ホタル部長に背中を押され(文字通り)、私たちはおみくじを引きに行った。



 数分後……



「引いてきましたよー」

「ナツミもー!」


 ホタル部長の元に戻ると、先輩たち二人が既に私たちを待っていた。


「おー!じゃあこっち来て!」


 ホタル部長は私たちを手招きする。

 四人で人の往来の邪魔にならないような場所に移動した。


「みんなおみくじちゃんと持ってる?」


 移動した先でホタル部長が私たちに聞いた。


「ありますよー」


 私は二つ折りにしたおみくじを見せた。

 ナツミもココ先輩もちゃんと持っている。


「よし!じゃあみんなせーので見ようか。準備はいい?せーの!」


 私はおみくじを開いた。


『末吉』


 うーん……反応しにくい!すごく微妙!


「やったー!ナツミ大吉ー!」


 ナツミは私たちに文字が見えるようにおみくじを見せてくる。良いなー……大吉。


「ココはどうだったの?」


 ホタル部長が隣にいるココ先輩のおみくじを覗き込もうとしている。


「ん?わたしは凶だったよ。残念」


 ココ先輩はホタル部長におみくじを見せながら答えた。


「なんかあまり残念そうじゃないですね?」


 私から見るとココ先輩は、なんだか言葉の割にはそれほど悲しんでいるようには見えなかった。


「わたし、こういうおみくじとか占いが悪くてもあんまり気にしないのよね。良いと嬉しいけど」

「あー悪いと気にしないんですね」


 なんか良いなそれ。


「マイちゃんはどうだったの?」


 ホタル部長は私のおみくじも見ようとして、真向かいから背伸びして覗き込もうとする。


「私は末吉でした……なんか反応しづらいです」

「え?!」


 ホタル部長がびっくりしたような声を上げた。


「どうしたんですか?」

「アタシも同じ!」


 ホタル部長のおみくじにも『末吉』の文字があった。


「おぉ!お揃いですね!」

「末吉だけどマイちゃんとお揃いだからアタシ嬉しいよ!」


 多分日本で一番末吉で喜んでるな私たち。


「じゃあそろそろおみくじ結んで帰る?」


 ココ先輩が聞いた。


「そうだね。そろそろ帰るとしますか」


 ホタル部長はそう言って歩き出した。

 私はホタル部長の隣を歩く。

 私は歩きながらホタル部長に一つ聞いた。


「ホタル部長は何をお祈りしたんですか?」

「え、聞きたい?」

「はい」

「じゃあ耳貸して」


 私はホタル部長に近づくと、ホタル部長は私に小声で囁いた。


「マイちゃんともっと仲良くなれますように!」


 ホタルの方を見ると、少し顔が赤くなっていた。

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