第27話 クリスマス

 ホタルお姉ちゃん……じゃないや。ホタル部長が玄関の扉を開けると、ココ先輩とナツミが立っていた。


「ようこそ!寒かったでしょ?入って!」


 ホタル部長は扉を開けた手と反対の手で二人を引っ張った。


「「お邪魔しまーす」」


 二人は靴を揃えて家に上がった。

 四人でホタル部長の部屋まで歩く。


「マイちゃん先来てたんだ。来るの早いね」


 後ろを歩くココ先輩が言った。


「ちょっと張り切り過ぎちゃいました」


 迷子にならなかったらもう少し早かったんだけどね。


「ほら、入って?」


 ホタル部長が部屋のドアを開けた。


 本日二回目のホタル部長の部屋だ。


 部屋に入って、みんなで机を囲んだ。


 時計回りにホタル部長、ナツミ、私、ココ先輩で座っている。私とホタル部長が向かい合わせで、ココ先輩とナツミが向かい合わせだ。


「なんかこうやって座ると部活みたい」


 ナツミはクッションを抱きしめながらそう言った。クッションの上には座らないんだ……。


「そうだ、今日クリスマスだからってママがアタシたちみんなの分のケーキを買ってくれたんだった!持ってくるからちょっと待ってて!」


 思い出したかのように言うと、ホタル部長は部屋の外へ出て行ってしまった。


「出て行っちゃったね」


 ナツミはドアの方を見て言った。


「そうだね」


 なんだかホタル部長らしい。


「そういえば二人は来るの遅かったね?どうしたの?」


 暇だし今のうちに聞いておこう。


「ナツミはマイが早いだけだと思うんだけど」

「そうかな?」


 そりゃあ張り切って早めに家出たけど別にそれほど遅かった事ないと思うんだけど……。


「でもナツミが迷ったのもあるかも……」


 ナツミが少し恥ずかしそうに言った。


「迷った?」


 私が聞くと、ココ先輩が説明してくれた。


「わたしが電車に乗ってたらナツミちゃんからメッセージがきてたの。『部長の家がわからないー!何故か商店街に来てしまったー!』って」

「あー……」


 私と似たような状況だな……。


「だって前に人について行ったら良いって思うじゃん!」

「確かにーわからないことはないね……」


 ホントに私と状況が似てるなぁ。


「わたしはホタルの家に何回か行ってるから、ナツミちゃんを見つけて一緒にきたんだ。だからちょっと遅くなったのかも。それにしてもマイちゃんは早いと思うけどね」

「そうですか……?」


 ホタル部長に会いたい気持ちが強過ぎたのかな……?


 そんな事を考えていると、部屋の扉が開いて、ホタル部長が帰ってきた。


「ただいまー!」


 ホタル部長はトレイの上に、四人分のケーキと紅茶をのせている。


「ちょっとごめんねー?」


 ホタル部長はそう言いながら私たちの前にケーキと紅茶を置いていく。


 ケーキはイチゴが一つのったショートケーキだ。内側にもたくさんイチゴが入っている。美味しそう……。


「あ、紅茶に砂糖がいる人は言ってね!」


 ホタル部長が砂糖の入った容器を持って言った。


「私は無しで」


 砂糖が入ってるのはあんまり好きじゃないんだよなー。


「ナツミは砂糖欲しい!」

「お、じゃあアタシが入れあげるよ」


 ホタル部長はナツミのティーカップに砂糖を入れた後、ホタル部長自身の紅茶にも砂糖を入れた。


「わたしは要らないかな」


 ココ先輩は私と同じで砂糖が要らないらしい。


「よし、じゃあ食べよう!」


 やったー!

 みんなが食べ始めたのを見て、私も食べ始める

 いただきまーす……。

 パクッ


「んー!美味しいー!」


 甘くてとろけるー……。


 コンコン……


 ケーキの美味しさに浸っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「お邪魔するわよー?」


 扉を開けて入ってきたのは……誰?


「ちょっと、ママ!なんできたの!」


 ママ?


「ちょっと女子会の様子を見るくらい良いじゃない。我が子の様子が心配なのよ」

「もう、過保護だよ!」

「そうかしら……ってあら、ごめんなさい。邪魔だったかしら?」


 邪魔かと聞かれても……


「あなたは?」


 私がそう聞くと、ハッと驚いたような顔をした。


「あら、ごめんなさいアタシとした事が……どうもーホタルのママですー」

「あ、失礼しました……あの、お邪魔してます」


 ホタル部長のお母さんだった……。


「大丈夫よ、家が賑やかになるのはアタシも嬉しいからね。あなたがマイちゃんね。はじめまして。ホタルから話は聞いてるよ。ゆっくりくつろいでいってね。なんなら泊まっていっても良いのよ?」


 ホタル部長の家でお泊まり……?!。


「ちょっと、マイちゃんが困ってるでしょ?」


 ホタル部長が私を守るように抱きついた。


「あら、それはごめんなさいね。あ、あなたがナツミちゃんね。あなたも初めまして。ホタルたちと仲良くしてね?」

「ナツミちゃんなら良いって訳じゃないから!」


 今度はナツミを守るように抱きついた。


「あ、ココちゃんもいるじゃん!元気してた?久しぶりね。これからもホタルと仲良くしてあげてね?」

「ちょっとココもだよ!


 ホタル部長はここにも抱きついた。


「もう、独占欲が強い子なんだから……」


 ホタル部長のお母さんは少し困り顔を見せた。


「まぁ良いわ、こうやってホタルの友達の楽しそうな顔が見れたからね。それじゃあアタシはこの辺で帰るわ」


 そう言うと、ホタル部長のお母さんは我が子に抱きついた。


「ホタルはみんなに迷惑かけないでねー?」

「もう!今ケーキ食べてるの!アタシに抱きつかないでよママ!」


 ホタル部長はフォークを持ったままジタバタ動いた。


「反抗期かー?まぁいいや。じゃあアタシは出ていくよ。じゃあみんなごゆっくりー!」


 そう言うと、ホタル部長のお母さんは部屋から出ていった。


「ふぅ、やっとどっか行った……はぁ」


 ホタル部長は床にゴロンと寝転がった。

 ココ先輩はそんなホタル部長の姿を見て優しく声をかける。


「疲れた?」

「うん。なんか変な体力使ったよ……」

「このまま寝ちゃう?」

「寝ちゃうかも……」


 ホタル部長は少し目を閉じた。


「じゃあ残ったホタルのケーキ食べても……?」

「それはダメ!」


 ホタル部長は勢いよく起き上がった。

 そして、お皿とフォークをガッチリ掴んだ。


「これはアタシの!」



 ***



 みんなケーキを食べ終わり、しばらくお喋りをしてたら、ホタル部長が突然思い出したかのように言った。


「あ、そういえば……近くの大きな公園に背が高いクリスマスツリーがあるってママが言ってたな……」


 そんなのあるんだ。初めて聞いた。


「ナツミはクリスマスツリー見に行きたい!」

「お?乗り気だねーここから歩いてもそんな遠くないけどどうする?みんな行く?」

「私はホタル部長が行くって言うなら行きますよ?」


 ホタル部長に会いにきたんだから。


「ココ先輩も来るよね?ね?」


 ナツミがココ先輩の手を取って連れて行こうとする。


「もう、そんな引っ張らなくて大丈夫よ。もちろんわたしも行くから」

「やったー!」


 ナツミは両手をあげて喜んだ。


「じゃあみんな外に行く準備して!」



 ***



 日も暮れかけてきた頃、大きな公園に行くために四人は一緒に歩いていた。前にナツミとココ先輩、後ろに私とホタル部長並んで歩いている。


「うぅ……寒い……」


 ナツミは歩きながら自分の体をさすって震えている。

 そんなナツミの姿を見て、ココ先輩が横について歩いた。


「大丈夫?」

「寒いだけだから……」


 そう言いながらもナツミの身体は震えている。


「手袋とかもってきてないの?」

「うん……」

「もう……」


 そう言うと、ココ先輩は手袋を外してナツミの手をにぎった。


「ほら、これであったかくなった」

「あったかい……」

「そりゃさっきまで手袋つけてたからね」


 そんな二人の姿を見ていたホタル部長がボソッと呟いた。


「……いいなぁ」


 そしてホタル部長は手袋を外すと、私に手のひらを見せた。


「アタシたちも……ね?」


 私も手袋を取って手を繋いだ。


「手袋してる時よりあったかいかもしれませんね」


 本当はそんなことはないはずなんだけど、私には温かく感じた。


「カイロよりあったかいかもよ?」


 ホタル部長も冗談めかして言った。



***



 こうして二人で仲良く歩いていると、前の方からナツミの声が聞こえた。


「わー!キレイ!」


 いつの間にか歩道の街路樹に電飾が施されていた。綺麗なイルミネーションだ。

 気づくと周りには仲良さそうに歩く家族や、手を繋いで歩くカップルの姿が増えた。

 なんだか少し恥ずかしくなってきたような……。


 何かいつもと違うことに気づいたのか、ホタル部長は私の方を見た。


「どうしたの?そんなソワソワして」

「いやー……なんていうか、その……クリスマスの雰囲気っていうんですか?私そういうのに慣れてなくって」


 そう言うと、ホタル部長は私の前に回り込んで、私の両手をホタル部長の両手で包み込んだ。


「そんな心配しなくて大丈夫だよ?みんな自分たちの世界に入り込んでるから。アタシたちもアタシたちの世界に……ね?」


 ホタル部長はそのまま私を引っ張るように前に出た。


「ほら、早くクリスマスツリー見に行こ?前の二人にはぐれてもいけないからね」

「わわっ!そんな強く引っ張らないでください!コケちゃいますから!」



 ***



 公園に着くと、日は暮れて空は真っ暗になっていた。

 公園に中を少し進むと大きな広場に出た。


「うわー!大きいなー!」


 ホタル部長が大きな声を上げた。

 広場の中心に大きなクリスマスツリーがあったからだ。

 見上げると首が痛くなるほど高い。木には様々な色の電飾が取り付けられているだけでなく、サンタクロースやトナカイの人形もくっついていた。一番上には黄色い星が付いていて、不規則に電気が光っていた。


「予想よりも大きいです!」

「アタシもこれをみるのは初めてだよ。去年までこんなのなかったんだから」


「あ、いたいたー」


 二人で上を見上げていると、前からナツミの声が聞こえた。

 前の方を見ると、ナツミとココ先輩が手を繋いで歩いてきていた。


「ごめんね?二人を置いて先に行っちゃって」

「大丈夫だよココ、アタシたちはアタシたちで楽しんでたから」


 ホタル部長は親指を立てた。


「ねぇねぇ、せっかくだから写真撮ろう?」


 ココ先輩はスマートフォンを持って言った。


「良いですね!でもどうします?クリスマスツリーは高すぎて上から下まで全部写すのは難しいんじゃないですか?」


 クリスマスツリーだけを写すのも難しい。


 すると、ナツミが何かに気づいた。


「ねぇ!これ可愛くない?」


 そう言って指さしたのはサンタクロースとトナカイの飾りだった。

 確かに二つ並んでいてちょっと可愛く見える。


「うん、良いね。じゃあみんな集まって?」


 サンタクロースとトナカイを挟むようにして、それを挟むようにナツミとココ先輩、私とホタル部長と分かれた。


「うーん、ナツミちゃんもうちょっと近くに来て欲しいな」


 ココ先輩はナツミの腕を引き寄せる。


「こんなに近くて良いの?」


 ナツミは少し困惑している。


「もちろん」


 そう言ってナツミの頭を撫でた。


「じゃあアタシもマイちゃんに引っ付いちゃお!」

「わぁっ!」


 ホタル部長は私の後ろから腰に手を回した。


「マイちゃんあったかーい!」


 ホタル部長の腕の感触がちょっとくすぐったかった。


「よし、じゃあ撮るよ?」


 ココ先輩がスマホを持った腕を伸ばした。


「はい、チーズ!」



 ***



「ホタル幸せそうな顔してるね」

「そう?ココなんて今まで見たことないような顔してるけど?」

「どういう事よ」

「いや、別に悪い意味じゃないよ?」


 ココ先輩とホタル部長がスマホの画面を覗き込んでいてどんな写真が撮れたかわからない。


「ねぇねぇーナツミたちにも見せてよー」

「そうですよー!」


 ジャンプしても見えない。回り込もうとしたらクリスマスツリーが邪魔してくる。


「あぁ、ごめんごめん。ちょっと自分の顔見てたら恥ずかしくなっちゃったから後ででも良い?」


 街灯とイルミネーションに照らされたココ先輩の顔は少し赤くなっていた。


「しょうがないなー……後で写真送ってね?」


 ナツミがココ先輩の腕を揺らしながら言った。


「わかったよ」


 ココ先輩はまたナツミの頭を撫でた。


 なんだかいつにの間にか二人がとても仲良くなってるような……?今までこんな感じだったっけ?


「よし!じゃあこんな時間だしみんな帰ろうか!」


 ホタル部長が言った。もう空は真っ暗だ。

 そしてホタル部長はこう続けた。


「みんなもう夜も遅いからせめて駅まででも送って行くよ。危ないでしょ?」

「いやいや、そんな大丈夫ですよ」


 今日一日結構お世話になったし。これ以上手を煩わせるのは流石に申し訳ない。


「でも一人じゃ危なくない?」

「私たちを駅まで送った後ホタルが一人になっちゃうんじゃないですか?むしろ私たちがみんなでホタル部長の家に行った方が安全ですよ?」

「そうよ、わたしたちはホタルを送った後にみんなで駅に行くから」


 ココ先輩も同じ事を思ってくれている。


「えー……でもみんなに申し訳ないし……」

「よーし!ホタル部長の家にレッツゴーー!」


 ナツミが強引にホタル部長の背中を押した。


「わぁっ!押さないで!危ないから!」



 ***



 結局ホタル部長の家まで来た。


「最終的にアタシの家まで来てもらっちゃったね……ごめんねー?」

「この方が安全ですから!」


 本当はみんなと一緒に居たいってのもあるけど。


「家の前でずっと話してると迷惑になるし、わたしたちはみんなで帰るよ」


 ココ先輩がそう言って手を振った。


「わかった。気をつけてね」


 ホタル部長も手を振る。


「あ、そうだ!マイちゃん!」


 私が振り返って駅へ向かおうとした時、ホタル部長が何かを思い出したかのように私を呼んだ。


「何ですか?」


 私はホタル部長の元へ近づく。

 ホタル部長は耳打ちで私にこう言った。


「また家に遊びに来てよ。今度はお泊まりとかどうかな?」

「本当ですか?!」


 私もつられてつい小声になる。


「うん。だから、その時はまた私の可愛い妹になってね?」

「はい!また呼んでください!」

「うん!」


 そしてホタル部長は耳打ちをやめると、さらに続けた。


「じゃあ気をつけて帰ってね!」

「はい!」


 そして私はホタル部長の家を離れた。

 ココ先輩とナツミに合流すると、すぐさまナツミが私に聞いてきた。


「ねぇねぇさっき何話してたの?」

「えー?秘密!」

「別に教えてくれたって良いじゃん」

「これは私たちの秘密なの!」


 そう言って私は二人より一歩先に出た。

 後ろから二人の話し声が聞こえる。


「マイどうしちゃったんだろ……」

「さぁ、わたしにはマイちゃんに何があったかなんて分かりそうにもないよ。でも……」

「でも?」

「なんだかマイちゃんには何が良いことがあったんだと思うよ?」

「なんでわかるの?」

「うーん、表情かな」

「どういうこと?」

「もう少ししたらナツミちゃんにもわかるんじゃない?」

「えー?」

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