第25話 雪の中
「すごい!雪ですよ!」
内庭に出ると、至る所に雪が積もっていた。
「マイちゃんテンション高いね」
ホタル部長は私の後ろを歩きながら言った。
「本物の雪ですよ?それもこんなに!」
ついつい早足にになってしまう。あっちに行ってもこっちに行っても雪の中。雪の日がこんなに楽しいだなんて……!
***
ナツミはマイに聞こえない所でココと話していた。
「なんだかマイがワンちゃんみたい」
ナツミはマイを見ながら呟いた。
「どういう事?」
ココはイマイチよくわからないと言った様子だ。
「ほら、『犬はよろこび庭駆け回り』ってあるから」
「あー……」
内定の中を歩き回るマイの姿と雪の中を走り回る犬の姿が、ココの頭の中で重なって納得した。
「あ、そうだ!」
ナツミは何か悪巧みをしたようだ。
「雪を集めて丸めてどうしたの?」
ココにもナツミが何をするかなんとなく理解できたが、敢えて聞いてみた。
「もちろんする事は一つ!」
ナツミは雪玉を片手に持つと、大声でマイを呼んだ。
「おーい!マイー!!」
***
「おーい!マイー!!」
少し遠くの方でナツミの声が聞こえた。私を呼んでるの?
「どうしたのー?」
私はナツミの方に近づく。
「あ、あぶなーい!」
ナツミはわざとらしくそう叫ぶと、ボールを投げるような姿勢で大きく振りかぶった。
「え?!」
気づいた時にはもう遅い。ナツミは大きく振りかぶったその姿勢から雪玉を思い切り投げた。
「ちょっと!」
私は慌てて反対を向く。雪玉から逃げないと。しかし、ナツミの放った雪玉をは私の背中に思い切り当たった。
「ひゃあ!」
やられた……まさかナツミがこんなことしてくるなんて。
「やっぱり雪といえば雪合戦!」
そういうナツミの手には新たな雪玉が握られていた。
「え!続くの?!」
「もちろん!じゃあいくよー?」
「わぁ!」
ナツミは私に容赦なく雪玉を投げてくる。私は雪玉をかろうじて避けながら、ベンチの後ろに隠れた。
少しでも体を出すと容赦なく雪玉が投げられる。
あれ雪玉いくつあるんだ?
「雪合戦なんだからマイも投げてよ!」
向こうの方からナツミが大声で話しかけてくる。
投げてよって言われても……。
私はベンチの上に積もった雪を集めて雪玉を作った。
そして思い切ってベンチの後ろから飛び出た。
向こうの方にはナツミが見える。
あの距離なら届くかな?
「えい!」
私は振りかぶってナツミに向けて雪玉を投げた。
雪玉はナツミの方へ向かって放物線を描き……ナツミには当たらず、すぐ横にポトッと落ちた。
「まだまだだねマイは!雪玉はこうやって投げるんだよ!」
ナツミは振りかぶると、私に向かって雪玉を投げた。
雪玉はものすごいスピードで私に向かって飛んできて……私の頬をかすめて、すぐ後ろの柱に当たって砕けた。
……え?何今の。
私はハッと我に帰ると、すぐさまさっきのベンチの後ろに隠れた。
「うーん、外したかー」
外したかーじゃないんだよな。あんなの当たったらやばいよ、後ろに倒れちゃうよ。頭打つよ。
ナツミってあんなに運動神経良かったっけ……?
「ん?マイちゃんそんな所でしゃがみ込んで何してるの?」
たまたまホタル部長が後ろを通りかかった。
「雪合戦ですね」
「誰と?」
「ナツミとです」
「二人で?」
「はい、二人です」
「マジか」
私たち以外いないからね……。ってホタル部長ー助けてー……。
そんな事を思っていると、ホタル部長の足元に膝くらいまで大きくなった雪玉があることに気づいた。
もしかして……?
「雪だるま作ってるんですか?」
「あ、やっぱりわかる?」
ホタル部長はしゃがんで雪玉の形を整え始めた。
「それより小さいやつをもう一個作るんですか?
「いや?」
あれ?
「あ、ナツミここにいたんだ。マイちゃんもいるじゃん」
するとそこにホタル部長のよりさらに大きい雪玉を転がしてココ先輩がやってきた。
「え、いつに間にそんな大きいのが?!」
「二人で頑張って作ろうって。ね?ホタル」
「うん!」
短時間でこんなに大きいのを作るなんて……。
「じゃあ上下を組み合わせようか」
ココ先輩が一度手袋についた雪を払いながら言った。
じゃあ私はこの間にナツミを呼ぼうかな。
「ナツミー!ってうわぁ!」
ナツミがものすごいスピードの雪玉を投げてくる。
「ようやく戦う気になったんだね!」
違うよ!
「ちょっと!わぁ!一回!ひぃ!待って!」
喋ってる間にも投げてくるなんて夏ナツミ容赦なさすぎるよ。
「え?どうしたの?」
ようやく雪玉が止まった。
あ、一応は聞いてたんだ。
「ちょっとこっち来てー」
「なになに?」
ナツミはテクテクとこちらへ歩いてくる、
「ほら、こっちこっち」
私は手招きした。
「ん?おおー!雪だるまだ!」
そこには真っ白な雪だるまがバランスよく立っていた。
「お、ナツミちゃん!どう?アタシたちの雪だるま!アタシとココの二人で作ったんだ!」
「とってもキレイ!」
ナツミは雪だるまをあらゆる角度から眺めて言った。
「なんだか作るだけじゃもったいないですね。最後には溶けちゃうわけですし」
雪が止んだらきっと溶けるんだろうな……。
「確かに……じゃあみんなで写真でも撮ろう!みんなの思い出!溶けても安心だよ!」
ホタル部長がスマホのカメラを起動する。
「みんな近寄って!カメラに入らないよ!」
私はホタル部長に腕を引っ張られる。ナツミも「こっちおいで」とココ先輩に引っ張られていた。
四人で雪だるまを囲むように並んでみる。
ホタル部長が手を伸ばして、スマホのインカメラで私たちを撮ろうとした。
ちょうどみんなでしゃがむといい感じに画角に収まった。
しかし、ホタル部長はなんだか納得していないようだ。
「んー……なんか違うなー」
「何かありました?」
私はスマホの画面を見ようと少しホタル部長に近づいた。
「それだ!」
「え?わぁ!」
私はさっきの一瞬でホタル部長に抱き寄せられていた。
ホタル部長は私の腰に手を回して、私とはホタル部長の距離はゼロになった。私とホタル部長のほっぺがくっついている。
「うん!これがいい!マイちゃんもちもちであったかーい!」
私にもホタル部長の体温が伝わってくる。雪の中にいるのになんだか身体がとっても暖かくなっている気がした。
「こんな感じかな?」
ココ先輩もナツミと一緒に私たちと同じような感じになった。
なんだかナツミが嬉しそうな顔をしているように見えた。
「うん!良いね!じゃあ撮るよー?とびきりの笑顔で!はい、チーズ!」
パシャ
写真を撮ってホタル部長が出来を確認する。
「どれどれ……?うん、いい感じ!」
ホタル部長は満足そうな笑顔になった。
もう少しあのままでいたかったような……。
私の頬はまだホタル部長の体温が残っているような感覚があった。
「よし!じゃあ風邪ひかないうちに一回部室に戻ろう!」
『はーい!』
私たちは校舎の中へと入っていった。
部室に戻る途中、廊下を歩いている間、私はホタル部長とくっついていた頬をさすっていた。なんだかホタル部長の体温が逃げてしまいそうで、なんとかとどめておきたかった。
ホタル部長はそんな私の様子を見たのか、私の横を歩きながら言った。
「そうしたのそんな顔して?
「いや、その、なんというか……」
もう少しあのままででいたかったなんて口に出すのは少し恥ずかしい。
「んー、よくわかんないけど元気出して?マイちゃん可愛いのにそんな顔してたら台無しだよ?ほら、部屋に戻ったら髪梳かしてあげるから。ね?」
そう言って私に優しくハグをした。
ホタル部長がに余計な心配かけさせてしまった……。
「私は大丈夫ですよ?いつでも元気です!」
「そう?じゃあ髪は梳かさなくても……?」
「それはダメですよー!してくれるって言ったじゃないですかー!」
「冗談だってば。さ、早く部屋に戻ろ?」
「はい!」
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