第24話 とても寒い日

 二学期もついに終わり、冬休みに入った。

 最近はいつもよりさらに冷え込んでいる。冬休みも部活のために学校に来るが、カイロに手袋、ニット帽にマフラーとフル装備で学校に来るほどだ。

 今日はあいにくの曇り空で太陽が出ていないのでさらに寒い。

 校舎の中に入れば風は入らないので少しは寒さはマシになったが、それでも寒かった。

 ゆるふわ部に部室の前も相変わらず寒かったが、中から少し暖かさが出てきているような感じがした。


 ガラガラ……


「こんにちはー」

「お、いらっしゃい」


 ホタル部長がコタツの中はでみかんを食べながら、こっちこっちと手を振っている。

 ココ先輩とナツミもコタツで暖まっていた。

 私は空いているホタル部長の隣に座った。


「寒かったでしょ?」


 ココ先輩が気を使って聞いてくれた。


「とっても寒かったです……カイロがなかったら今頃私道の真ん中で凍えていたかも……」

「わかるよその気持ちー」


 ホタル部長がうなづく。


 それにしても今日は部屋が暖かいな……。

 私が部屋の中を見渡すと、夏に使っていたあの羽の無い扇風機が首を回していた。


「あれ?あの扇風機……」


 私が扇風機を指差してあれが何か聞くと、ホタル部長が答えてくれた。


「あぁ、あれ?いやさ、顧問の大森先生に『暖房が欲しい!』って言ったら、「夏に君たちに渡した扇風機に暖房がある』って言われてさ。嘘だと思ったらホントにあったよ。もっとはやく気づけたら寒い思いせずに済んだんだけどねー」

「いやこの寒い日に暖房があるだけで全然違いますよ」


 流石最新鋭の扇風機……、


「マイちゃんいつまでそんなもこもこなの?」


 ホタル部長がマフラーを触りながら聞いた。


 そういえば防寒具つけっぱなしだった。


 私はマフラーや帽子を取った。


 パチパチ……。


「マイちゃん静電気すごいね」

「え?」


 ココ先輩が手鏡を見せてくれた。私の髪が静電気で広がってしまっていた。


「あ……やば」


 慣れないニット帽なんて被らなければ良かった……


「よし、アタシがなんとかしてあげるよ!マイちゃん、こっちおいで」


 ホタル部長がコタツから出てこっちにおいでと手で動かしている。

 私がホタル部長目の前に腰を下ろした。ー


「じゃあアタシに背中向けて?」


 私はくるっと回った。


「んー、正座してたら高いなぁ……。脚崩してくれる?」

「こうですか?」

「ん、いいね」


 ホタル部長がそう言うと、後ろからかちゃかちゃと何か探す音が聞こえた。


「あ、あった。よし、じゃあ始めるよ。じっとしててね?」


 何が始めるんだろう。


 すると、突然髪に何かが当てられたような気がした。


「はわぁ……」

「そんな声出してどうしたのマイちゃん。髪を梳かしてるだけだよ?」

「なんだかくすぐったいような……気持ちいいような……」


 髪にあたる櫛やホタル部長の暖かい手の感触がなんとも言えない感触だ。


「ちょっとの間だから我慢してねー……」

「はい……」


 なんだかやめて欲しくないなぁ……ずっとこうやってしていて欲しい。

 しばらくされるがままでいると、ホタル部長が私の耳に顔を近づけた。


「なんだか妹ができたみたい。私にもこんな可愛い妹がいたらなぁ……」


 ホタル部長は私だけに聞こえるように耳元で囁いた。吐息が少しくすぐったい。

 ナツミとココ先輩は私の目の前でみかんを食べてながら話しているから聞かれていないとは思うけど、もし聞かれてたらと思うととても恥ずかしいな……。


 しばらくリラックスしていると、ホタル部長の手が止まった。


「よし!これで可愛くなった!」

「おぉ!ありがとうございます!」


 鏡を見ると、静電気で広がっていた髪が綺麗に元に戻っていた。


「これくらい任せてよ!」


 ホタル部長は自慢げに言った。


 なんだかもう少しくらいして欲しかったな……。キレイにしてくれたのは嬉しいけど。

 私は自分の髪を手でいじりながらさっきの感触を思い出していた。


 ナツミが突然窓を開けた。外から冷たい風が吹き込む。


「ちょっとナツミ!いきなり窓開けないでよ!寒いじゃん!」

「でも雪降ってるよ?」


 ナツミの後ろではたくさんの雪が降っていた。


「わぁ!雪だ!」


 私は久しぶりに見る雪に思わず大きな声をあげてしまった。


「なんだ、マイも雪が好きなんだ」


 ナツミは私と肩を組んでくる。


「あ、いや……そういう……感じ……だけど……」


 うーん、否定できない……。


「引越す前は雪なんて五年に一度くらいだったし……」


 中学生の頃までは大阪に居たし……。


「じゃあ今から外に出る?」


 ココ先輩が私に手袋を渡してくれた。


「雪遊びしよ!きっと雪も積もってるよ!」


 ホタル部長が私の手を引っ張った。


「外寒くないですか?こんな手袋だけで大丈夫ですか?」

「そうやって帽子かぶったらもう一回アタシに髪を梳かしてもらえるって思ってるんでしょ?」

「あ……」


 バレてた……。


「もう、マイちゃんの考えることがわかっちゃったよ。まぁ何回でもしてあげるけどね」


 やったー!


 私はニット帽をかぶった。


「じゃあ雪遊びしに行きましょう!」


雪遊びなんて久しぶりだなぁ……。



続く……

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