第21話 やりたい事③
ココ先輩がカウンターの方からチケットを4枚持ってこっちにやってきた。
「はい、これみんなのチケットね」
ココ先輩がみんなに一枚づつ配った。
「おー!サンキュー!ごめんね?一人で買いに行かせて」
ホタル部長が両手を合わせて言った。
「いやいや別にこれくらいの事はするよ。それに四人で並んだら列が長くなって他の人に迷惑がかかるでしょ?さ、こんな所で話してないで中に入ろう?」
「かっこいいな……」
ナツミの言葉を背にココ先輩はそう言って建物な中に入っていった。
「アタシたちも入ろう?」
そうして三人も水族館の中に入っていった。
建物の中に入ると、上に向かう長いエスカレーターがあった。順路はこっちらしい。
エスカレーターに乗ると、右側がガラス張りになっていて、外の景色がよく見えた。
「ねぇ!ナツミあれ乗りたい!」
ナツミは外にある大きな観覧車を指差した。
「え……アレに乗るの……?」
ホタル部長はイヤそうだ。
「ホタルは高い所苦手だもんね」
「そ、そんな事ないし!勝手な事言わないでよ!」
「あはは、ごめんごめん。じゃあ観覧車乗れるよね?」
「えっとー……」
ホタル部長はココ先輩に痛い所を突かれたようだった。
「まぁまぁ、全部回って時間が余ったら乗りましょう?」
「そうだね!さすがマイちゃんナイスアイデア!」
会話が終わったあたりでちょうどエスカレーターも終わりに辿り着いた。
「お?ここが始まりかな?」
ホタル部長がとってもワクワクしているように見えた。
そこから角を曲がると、トンネル型の水槽が現れた。
「わあ!」
ビックリした突然こんな水槽が出てくるなんて。
「え……?これ全部サメじゃん!」
先に中に入っていたホタル部長が驚いた声を上げた。
「すごいサメの量だね。うん、みんなかわいい」
「かわいい……?」
ココ先輩のかわいいという言葉にナツミが驚いた。
「え?かわいいじゃん、目とか」
「怖く無いんですか?」
私はココ先輩の方をみた。
「ガラスの向こう側にいるから怖く無いよ」
ココ先輩はガラスに向こうで優雅に泳ぐサメを眺めながら答えた。
「おーい!そろそろ次に行こうよ!」
ホタル部長がトンネルの出口で待っていた。
「私先行ってますね」
「わたしもすぐ行くよ」
そう言ってサメの写真を撮るココ先輩を置いて私はトンネルの出口へ向かった。
「アレ?ココは?」
一人できたのでホタル部長がココ先輩の心配をしていた。
「向こうでサメの写真を撮ってますね」
「あー……。確かにココはサメ好きだったな」
「私全然知りませんでした」
「そう?実はココの通学カバンに小さいサメのキーホルダーがついてるからまた確認してみると良いよ」
初めて聴いた……。
「アレ?ナツミは?」
周りを見渡してもナツミが居ない。
「ん?ナツミちゃんなら『あっちにペンギンがいる!』って言って先に進んじゃったよ」
あの子ホントに自由だなぁ……。
「まぁここで留まってても仕方ないし、アタシたちも先に進もうか」
「ココ先輩は……?」
「ココは……大丈夫でしょ。それにもし何かあっても連絡は取れるし」
「まぁそうですね」
私とホタル部長で先に進むことにした。
トンネルを抜けると結構薄暗い道が続いていた。その分水槽の中の様子が分かりやすい。
床から天井まで、壁の部分がまるまるガラスになっていて、水槽の中の様子がとても分かりやすくなっている。
道は所々下り道になっていた。どうやら最初にエスカレーターで上がって、出口に向かってゆっくりと降りていくようだ。
少し進むと、ナツミの姿が見えた。
「まさかナツミがこんな先まで進んでるなんて」
「ナツミちゃんはよっぽどペンギンが好きなんだろうね」
二人はそういう時ナツミの隣に立った。。
「ん……?うわっ!びっくりした!」
ナツミはなぜか私から後ずさった。
「なんでそんなびっくりするのさ。私たちに何かやましいことでもあるの?」
「いや、こんな薄暗い所で隣にいきなり現れたらびっくりするよ」
「そうかな?」
別にそんなびっくりするでも無いと思うんだけど。
「それでナツミちゃんは何見てたの?」
ホタル部長が優しく聞いた。
「ほら、アレ見て!ペンギン!」
ナツミの指差す方を見ると、白い床の上をよちよち歩くペンギンがたくさんいた。
「おおっ!かわいい!」
ホタル部長はそう言いながらスマホで写真を撮っている。
ペンギンたちは飼育員の近くで魚をもらったり、水に中に潜って泳いだりしている。
「ねぇねぇマイ」
ナツミの隣でペンギンを眺めていたら、ナツミが話しかけてきた。
「どうしたの?」
「ペンギンって中腰なんだよ」
「……ん?」
いきなり言われたものだから言われたことが全く理解できなかった。
「あの体毛に覆われてて外からはわからないけど、実はペンギンは常に中腰なんだよ」
「え……しんどそう……」
ずっと中腰とか私には無理だ……。やるなペンギン。
「よし、そろそろ次に行こう」
私の後ろの方からホタル部長の声が聞こえた。
「えーナツミまだペンギン見ていたよー」
自由だなぁ……。
「じゃあ私は先に行ってるからね。満足したら私たちのところに来るんだよ?どこにいるか分からなくなったら連絡してね」
私はそう言ってナツミの元を離れた。
ホタル部長は何もない通路の壁にもたれかかってスマホを見ていた。
「お待たせしましたー」
「お、きたきた……ってあれ?ナツミちゃんは?」
「もう少しペンギンを見ていたいらしくて……」
「ナツミちゃんも一人行動か……しょうがない。よし、アタシたちだけで先に行こう」
そう言うとホタル部長が私の右手をつかんだ。
「二人だと迷子になるかもだから……ね?」
「えっと……そうですね」
そうして二人で手を繋いで先へ進むことにした。
他の人に見られるのは少し恥ずかしい気もするけど、薄暗いのでまだ大丈夫かな。
隣を歩くホタル部長の手はとても温かく、私の心も少し温かくなった気がした。
手を繋いで水族館の通路をさらに進んでいくと、何か高速で移動するものが私に視界の端に見えた。
私はそちらの方を見ると、水槽の中のをものすごい速さで泳ぐイルカが何頭もいた。
「あ!イルカ!」
「ん?マイちゃんイルカ好きなの?」
「はい!」
「じゃあもうちょっとしっかり見ようか」
私たちはイルカの水槽に近づいて水の中を見るようにしゃがみ込んだ。
イルカは私たちの前を一瞬で通り過ぎていく。近づいてきたと思っても、私にじっくりとイルカを眺める時間など与えずに、すぐ向こうのほうに行ってしまった。
「速いですね……」
「これじゃあ写真も撮れなさそうだね……」
ホタル部長はそう言いながら誰もいない水槽にスマホのカメラを向けていた。
「しょうがない、このかわいい姿を見れただけでも来た甲斐がありますよ。さぁ先に進みましょう?」
私は諦めて立ち上がった。その時、繋いでいた手が離れてたが、私は気づいていなかった。
「え?いいの?そんなに好きならもう少し見ていってもいいんだよ?」
ホタル部長がしゃがみ込んだまま、下から上目遣いで私を見ていた。
「大丈夫ですよ、私は十分見たのでl
「ホント?」
「もちろん」
私がそう言うとホタル部長は立ち上がって、もう一度私の手をつかんだ。
「じゃあ行こっか!」
私たちはまた進み始めた。ある程度進むと、『この水族館のガラスはすごい!』とか、『環境の変化』など、いろいろ展示してあるゾーンが目に入った。
「正直海の生き物を見に来ている私たちみたいな人には難しいゾーンですね」
目に入る日本語一つ一つがなんだか難しく見える。
「そうだねー。大人になったらこういう所も楽しめるようになるのかな?」
そう言うホタル部長の歩くスピードは全く変わっていない。きっと部長も興味ないんだろうな。
「楽しめるくらい賢くなってたらいいですよね」
「そうだね」
そう言いながら書いている事が難しいゾーンを抜けると、今までの狭い通路から一変し、大きく広い部屋に出た。
円形の大きな部屋で真ん中に大きな円筒形の水槽が配置されている。通路はその水槽を囲んで螺旋状に三周ほどして降りていくように伸びていた。
「おぉ!」
私はあまりの迫力に驚いた。下の方にある床から高い天井まで一本の水槽になっているのだ。
「これはすごいな……」
ホタル部長も言葉が出ないようだった。
大きな水槽の中には、イワシの大群がみんな同じ向きに泳いでいた。
「こんなすごいものもあるんですね!」
「アタシ何回か来たことあるけど、アタシがもっと小さい頃はこんなの無かったような……」
「最近出来たんですか?」
「多分そうだと思うよ」
良いタイミングで来れたのかな?ラッキーじゃん。
二人で螺旋の通路を降りていると、突然軽快な音楽が大音量で流れ始めた。
「なにか始まるんでしょうか?」
私の声が聞こえないのか、ホタル部長は耳に手を当てている。隣にいるのに声が聞こえないとか音楽の音量大きすぎでしょ。耳おかしくなるよ。
私が困惑していると、突然何かが始まったのだろうか、イワシの動きが突然変わった。
さっきまでゆったり泳いでいたイワシたちが何かに突き動かされたかのように勢いよく動いている。
右に、左に、すべてのイワシが一つの方向に向かって全速力で進んでいく。
銀色の体が光に照らされてきらめいていて、私はこのきれいな光景にしばらく見入っていた。
音楽が止まり、イワシの動きも元に戻った。今のがなんだったのかよく分からなかったけど、凄かったなぁ。
「すごかったね、来たタイミングがよかったのかな?」
ホタル部長が興奮気味に言った。
「ラッキーでしたねー」
結局物珍しさで初めから終わりまで見ていた。
「あれ、ホタルだ」
「マイもいるじゃん!」
一人行動をしていた二人が一緒にやってきた。
「二人で手繋いで本当にカワイイね」
「ちょっ!やめてよココ!これははぐれないようにするためなんだから!」
「もう、顔まで赤くしちゃって」
「ちょっとー!」
ホタル部長はココ先輩をグーで優しくポカポカ叩いた。
「さぁ、先に行きましょ?そろそろ出口が近づいてるんじゃないかな?」
ココ先輩はそう言って先に進み始めた。
私もその後ろをついていく。
長い螺旋を降りると一本の真っ直ぐな細い道が伸びていた。道幅は広くないので、私たちは一列になって歩く。
この道をまっすぐ進むと、おそらくこの水族館で一番大きいであろう部屋に着いた。
「なにこれ!」
私はこの部屋の規模に驚いた。端から端まで歩くのもしんどくなりそうな程の横幅、近くまで行くと真上を見上げないといけないほどの高さの部屋に、大きな一枚のガラスがはめ込まれておる。
ガラスからこちら側は映画館のように階段状になっていて、あちこちに椅子が置いてある。多分座ってゆっくり見れるのだろう。
ガラスの向こうは水で満たされていて、中には大小様々な海の生き物がたくさん入っていた。
「すげぇー!大きいなー!」
ホタル部長はこの巨大水槽の中をゆったりと泳ぐジンベイザメを指さして言った。
四人はガラスのすぐ近くまで近づいた。
「大迫力ですねー!」
水槽はものすごく大きいのに、このジンベイザメを見ると、もしかして窮屈に感じてるのでは?と考えてしまう。それほどジンベイザメは大きかった。
ジンベイザメは、水槽の中をゆっくり壁沿いにぐるっと一周すると、私たちのすぐ目の前まで来た。
「わー!近づいてきた!すごい!近いよ!」
ホタル部長は興奮気味に言った。
近くに来るとさらに迫力が増したように感じる。
「こんなに近くに来てくれるとサービス精神みたいなのを感じてかわいく見えるな」
ホタル部長は私たちの前をゆっくり通り過ぎるジンベイザメを見ながら言った。
ホタル部長はガラスに手をつけて、目を輝かせ、ジンベイザメに釘付けになっていた。
こんなにはしゃいでいる部長初めて見たかもしれない…。
***
「ごめんね?ちょっとはしゃぎすぎた……」
ホタル部長はあの後三十分くらい他の魚に目もくれず、ジンベイザメを眺めていた。
「いやいや、別にいいんですよ?」
ちょっと子供っぽくて可愛かったし……。
「ねぇねぇ、マイはお土産買わないの?」
ナツミに腕を引っ張られた。
「わかったわかった、買うからそんな引っ張らないで」
引っ張られてたどり着いた先には、キーホルダーやマグカップ、ぬいぐるみなどが大量に置かれたお土産屋があった。
そこには私の好きなイルカのぬいぐるみがあった。
ぬいぐるみになってもイルカは可愛いなぁ……。
「マイちゃんどうしたの?」
後ろから遅れてやってきたホタル部長が声をかけてきた。
「ぬいぐるみ可愛いなって」
「ふわふわでかわいいねこれ。マイちゃんこれ買うの?」
私は値札を見た。
「うーん……高すぎて買えないですね……」
「あー……それは残念」
「大丈夫ですよ!何か違うものを買うので!」
「そう?じゃあアタシも何かお土産見てくるよ」
どうしよう……何を買おうかな?
***
「うー……なんで乗ったんだろう……」
「結構上まで来たのに今更後悔しないでよホタル」
四人は帰る前に観覧車に乗ることにした。
「そんな事言わないでよココー。大丈夫だと思ったんだもん。
ホタル部長は向かいのココ先輩にそう言いながら、目を瞑って隣の私にしがみついている。
「ホタル部長!景色キレイだよ!」
ナツミは窓の外を指差す。
「アタシ今そんな余裕ないよー!」
私にしがみつく強さがさらに強くなった。
そうして色々言っている間にほぼ頂上まで来た。
「ホタル部長頂上ですよー、せっかく観覧車に乗ったんですよ?せっかくなんで頂上からの景色くらい見てみません?」
「マイちゃんがそう言うなら……」
ホタル部長はゆっくりと目を開けたあ。
「わぁ……!」
ちょうど夕陽が沈む時間で、頂上からは水平線に沈み太陽がとてもキレイに見えた。
「来て良かった……」
ホタル部長はそう呟いた。そしてみんなに向かってこう言った。
「今日はみんなのおかげでやりたい事ができたよ!ありがとう!またみんなで遊ぼうね!」
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