第20話 やりたい事②
いろいろあって今日はゆるふわ部のみんなで水族館に行くことに!というわけで、学校近くの駅前に集合してみんなで電車に乗って行くことにした。
ホタル部長に言われた集合時間は昼前の十一時。
しかし、ただ今十五分前、私はもう駅前に着いてしまった。
「来るの早かった……」
うん、確かに楽しみにしてた。めっちゃ楽しみにしてた。でもまさか十五分前に着いてしまうとは。早かったかな?
とりあえず集合場所で待っていよう。駅前に噴水があるからそこで待っていようと言われてたし。
「おーい!」
向こうの方から誰かが私のことを大声で呼んでいた。
ジャンプしながら右手を大きく振っている。ジャンプするたびに明るい茶色のポニーテールが揺れて……ってあれホタル部長じゃない?
「おーい!マイちゃーん!」
この声……やっぱりホタル部長!
「今行きまーす!」
私ホタル部長の方へ小走りで近づいた。
「おはよう、早かったねマイちゃん」
「楽しみにしすぎて家出るの早すぎました……えへへ」
「アタシと同じじゃん!良かったー私だけじゃ無かったんだ」
二人は近くのベンチに座った。
「いやー、昨日の夜なかなか寝付けなくてねーふぁぁ……ちょっと寝不足なんだよね」
ホタル部長は眠たそうに目を擦っている。
「私もです、四人でお出かけできるの嬉しくて!」
「うーん!マイちゃんは良い子だなー!」
ホタル部長は私を優しくハグした。
「ちょっと……!ここ外ですよ!」
「大丈夫だって。身長差あるから姉妹みたいなものだから。何も不思議な事じゃないよ」
ホントかなぁ……?
その時一人の影が近づいて来た。
「ちょっとなにこんな所でラブラブしてるの?」
見上げるとそこにはココ先輩が立っていた。
「お!ココじゃん!」
「ココ先輩!」
ココ先輩は私と反対側のホタル部長の隣に座った。
「結構早く着いちゃったと思ったけど、まさか二人はもっと早いだなんて。まぁ、二人より遅く着いたおかげで二人のラブラブな姿が見れたし……」
「ココはアタシ達の事そんなふうに見てたのー?」
「いや、いつもじゃないけどね。でもあんなに仲良い姿見せられたら……ねぇ?」
「もう仕方ないなぁ」
ホタル部長はそういうと、ホタル部長に優しくハグした。
「ちょっと!ホタル!」
「これが欲しかったんでしょ?」
「もう……」
あー、こう見えてたんだ……。
「あれ、ナツミちゃんはまだなの?」
ココ先輩が服の裾を正しながら話題を変えた。
「そういえばまだですね」
辺りをざっと見てみても、ナツミの姿は見えなかった。
「アタシ達が早すぎるだけでまだ時間じゃないからね」
そう言ってホタル部長が見せてくれた腕時計はまだ十二を指す前だった。
「あぁ、まだ時間になってなかったんですね」
気長に待とう。
私はベンチに座ったまま空を見上げた。雲一つない青空だ。絶好のお出かけ日和だなぁ。
ずっと上を見ていたら吸い込まれそうな青だ。
「何してるの?」
「わぁ!」
突然私の視界にナツミが入って来た。
「もう、ビックリさせないでよ!」
「ごめんごめん、なんかマイが上向いてぼーっとしてるからつい」
「もう、ビックリしたぁ……」
ここでホタル部長がパンと手を鳴らした。やばい、今の私なら些細な事でビックリしちゃう。
「よし!時間までにみんな揃った事だし、早速出発しようか!」
みんなは駅の方へ歩き始めた。
***
長い間電車に揺られて、ようやく水族館のある駅に着いた。
「すごい人の量ですね!」
右も左の前も後ろも、周囲を人に囲まれる状況に私はびっくりした。
「日曜日だからね。みんなはぐれないでよ?」
前を歩いていたホタル部長が振り向いて、冗談めかして言った。
ここは遠くの島に行くフェリーや大型客船なども泊まる港の近くにある商業施設で、水族館のほかに観覧車や博物館などもある老若男女に人気のスポット……らしい。昨日スマホで調べた情報だけど。
人気スポットだからか、今日が日曜日だからか分からないけど、とにかく人が多い。お父さんに肩車されている小さな男の子や、仲睦まじく手を繋ぐカップルなど、様々な人がいる。
「うー、ナツミおなかすいたよー……」
スマホを見ると、お昼前だった。
「ちょっと早いかもだけど、お昼ご飯にしようか」
ホタル部長はそういうと、人の流れから外れた。
私たちが進むにつれ、周りの人たちがどんどん少なくなっていく。
「どこに行くんですか?」
私が聞いた時には、周りには私たち以外誰もいなかった。
「アタシの友達がおすすめのお店を教えてくれたの。せっかくだからそこに行こうかなって。どんなお店かは着いてからのお楽しみって事で!」
そう言ってさらに人のいなさそうな方に進んでいった。
ちょうど海が左に見えていて、右には大きな建物がそびえ立っている。私たちは海に落ちないように設置されている柵と、その建物の間を歩いていた。大丈夫?ここ一般人が歩いて良い場所なの?
私の心配をよそにホタル部長は進んでいく。すると、少し歩いたところで開けた場所に出た。
水族館近く程ではないが、人はちらほら見える。
「ほらアレ!」
ホタル部長が指差す先を見ると、緑とベージュを基調にした小さなキッチンカーがあった。近くに登りを立てていて、潮風に靡いて読みづらいが、『手作りパン』と書いてある。
「手作りパン!」
お腹を空かしたまま連れ回されたナツミが声を上げた。
近づくにつれ、良い匂いがしてきた。あぁ、私もお腹空いてきた。
「いらっしゃいませ!」
キッチンカーに乗った店員の男の人が、人当たりの良い笑顔で私たちのことを呼んでいる。
私たちは匂いと声につられるように店の前に歩いていった。
「いらっしゃいませ!ご注文は何になさいますか?」
チョークで黒板に書かれたメニューが壁にかかっていた。すごい、いろんなのがあるぁ。
「どうします?」
種類が多すぎて迷うので、一応聞いてみた。
「ナツミはピザパン!」
ナツミはもう何にするか決めていた。ホントにお腹空いてるんだなぁ……。
「わたしはクロワッサンかな」
「アタシはメロンパン!」
先輩達も続々と決めていく。
私はどうしようかな……。
メニューを上から下まで眺めていると、一番下に『シャキシャキレタスのサンドウィッチ』を見つけた。
「わぁ……美味しそう……」
「マイちゃん、心の声漏れてるよ」
ホタル部長が私を肘でつついた。
「あっ、え、えっと、このサンドウィッチください」
「はいサンドウィッチですね!」
店員は笑顔で答えると、下を向いて何かゴソゴソし始めた。サンドウィッチを作っているのだろうか。
やがて、レタスを切るザクッという音が聞こえた。
「お待たせ致しました!」
茶色い紙の包みに包まれたサンドウィッチが出てきた。食パン一つ分の大きさのものを切って、二つになっている。
「わぁ……!」
「マイちゃん、あっちにテーブルがあるからそこで食べよ?」
そう言ってホタル部長に引っ張られるように歩いていった。
離れる時、後ろから「ありがとうございました!」という店員の声が聞こえた。
***
「あ、やっと来た!こっちこっち!」
ナツミが手招きして私を呼んでいる。私の注文の間に席を取っておいてくれたのかな。
丸いテーブルにイスが四つ、ちょうどテーブルを取り囲むように配置されている。
「ごめんなさい遅くなりましたー……」
「いやこっちこそ置いて行っちゃってごめんね?」
ココ先輩がそう言いながらイスを引いてくれた。
私が座ると、右にココ先輩、左にホタル部長、真向かいにナツミが座っている感じになった。
「じゃあ食べよっか?みんな手を合わせて?」
みんなで両手を合わせる。なんだか一学期にみんなでお弁当を食べた時のことを思い出すなぁ。
「いただきます!」
『いただきます!』
私はサンドウィッチを一口食べた。
「んー!おいしい!」
シャキシャキのレタスにハムとチーズが合わさってとってもおいしい!
私がサンドウィッチを楽しんでいると、ホタル部長が私に上目遣いで聞いてきた。
「ねぇねぇマイちゃん。そのサンドウィッチ、一口ちょうだい?」
「もちろん、良いですよ?」
私はホタル部長の口元にサンドウィッチを近づけた。
ホタル部長は小さな口を開けてサンドウィッチをパクッと食べた。
「ホントに仲良いねー」
私たちの様子を見ていたココ先輩がクロワッサンを食べながら言った。
「ココ先輩も食べます?」
私のサンドウィッチを持ち上げて聞いた。
「いや、マイちゃんの分を取っちゃうのは申し訳ないから遠慮しておくよ」
ココ先輩は首を横に振った。
「なんかアタシがマイちゃんの分取っちゃったみたいになっちゃった……」
「そんな悲しそうな顔しないでくださいよ。うーん……じゃあ、ホタル部長のメロンパン一口ください。これで平等ですから」
私がそう言うと、ホタル部長はすぐさまメロンパンを私の口元に近づけた。
「マイちゃんが食べてくれないと私がドロボウになっちゃう……!」
そう少し焦りながら言うホタル部長のメロンパンを一口食べた。
チョコチップが甘くてふわふわだ。でも皮の部分はサクサクしている。
「うーん!おいしい!」
私はホタル部長に笑顔を見せた。
「でしょ?」
ホタル部長は「アタシが選んだんだから当然!」と言いたげな顔をしていた。
その後、四人でおしゃべりしながらゆっくりと昼ご飯を楽しんだ。
しばらくして、ホタル部長がパンと手を叩いた。
「さぁ、食べ終わったら水族館に入ろう!あ、そんなに急いで食べなくて良いからね?」
四人でまわる水族館楽しみだな!
③へ続く……
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