第17話 ハロウィン
ガラガラ……
私はゆるふわ部の扉を開けた。
「こんにちはー……」
「ハッピーハロウィーン!!」
扉の前には黒い三角帽子をかぶって、黒く、裏地がオレンジ色のマントを羽織ったホタル部長が立っていた。
「ハロウィーン……?」
あ、もうそんな日なのか。
「トリックオアトリート!お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞー?」
……カワイイ。
魔女っ子ホタル部長は「お菓子ちょうだい!」と言わんばかりに目をキラキラさせている。
いや、いつも食べてるじゃないですか部長……。
……お菓子あるかなぁ?
私はカバンの中を探った。
ゴソゴソ……あ、あった。
「はい、アメちゃんしかないですけど。今日のところは許してください。また何か買ってくるので一緒に食べましょう?」
そう言ってロリポップをホタル部長の手に置いた。
ホタル部長はつつみを開けてアメを口に入れた。
「まーキューダイテンってところかな」
キューダイテン?あ、及第点か。
なんとかアメで許してもらえたらしい。
「
「何言いたいかは分かりますけど、口に入れたまま喋ったらあぶないですよホタル部長?」
「むぅ、確かに……」
喉つまらせたら危ないもんね。
私は部屋を見渡した。
「あれ?私が二番目ですか?」
「いや?二人は『適当に飲み物買ってくるー』とか言って仲良さそうにどっか行ったよ」
ガラガラ……
「ただいまー……ってマイ来てるじゃん」
「遅かったねマイちゃん」
噂をすればなんとやら……ちょうど二人が帰ってきた。
「急いではいるんですけど……って、二人はホタル部長に『トリックオアトリート!』ってされたんですか?」
「うん、可愛かったよね?」
「可愛かったですね」
ココ先輩とホタル部長は顔を見合わせながら言った。
「もー!二人とも可愛いい可愛いって!ハロウィンなんだからもっと怖がってよ!」
「いやー、それで怖がらせるのは無理だよ」
ココ先輩、私もそう思います。
「マイちゃんは怖いって思ったよね?」
「えっ?!あー、そうですね。はい」
「声が上擦ってない?本当に思ってる?」
「思ってますよ!」
「だよね!さすがアタシ!」
ホタル部長は腰に手を当てて胸を張っている。
「そういえばホタル部長は二人からお菓子もらったんですか?」
まさか私しかあげてないなんて事は……。
「二人とも私の事全く怖がってないから何もくれなかったよ……。『今お菓子ないです』って言われるし……」
私しかあげてなかった。
「もうそんなに落ち込まないでよホタル」
「そうですよ。ナツミ達買いに行ったんですから。」
そう言ってナツミはビニール袋からポテトチップスを取り出した。
「はい、これナツミ達二人からのお菓子です!なんかチョコがかかってるらしいです!後でみんなで食べましょ?」
「おお!これ新しいやつ!」
ホタル部長が元気になった。
あれ?みんなで食べるんだったらいつも通りだしハロウィンとか関係ないような……。
いや、言わないでおこう。
「あと貰ってないのは一人か……」
ホタル部長が呟いた。
「一人?」
あれ?まだ居たっけ?
「顧問の大森先生!」
ホタル部長が大声で言った。
……
「え?先生から貰うんですか?」
「当たり前だよ!」
ホタル部長は親指を立てた。
えっ?いいの?
「大森先生ってどこにいるの?職員室なら他の先生もいるよね」
確かにココ先輩の言う通り!
「大丈夫、今日は職員会議で大森先生以外の先生はみんな会議室にいるから」
大森先生何があったんだ……。
「なら、ナツミ達は早く行かないと会議終わりの先生と鉢合わせに?」
「そういう事。ナツミちゃん察し良いねという訳で早く行こう!」
行かないという選択肢は無いんだ……。
***
ガラガラ……
ホタル部長が職員室の引き戸を開けて中に入る。
どうやら職員室には大森先生以外本当に居ないようだ。
三人はホタル部長の後ろを一列になって入っていく。
四人はしゃがみながら足音を立てないように気をつけて進む。
そしてついに大森先生の真後ろまで来た。
大森先生はパソコンとにらめっこしてこちらに全く気づいてない。よっぽど集中しているのだろう。
ホタル部長がスっと立ち上がった。両手を肩の近くまで持っていき……
「わっ!」
「うわぁぁぉ!!!」
肩に触れられたと同時に大声を出された顧問の大森先生は、驚いて大声を出した後、そのまま椅子から転げ落ちた。まぁなんと愉快な姿だこと……。
「いってぇ……誰ぇ……ってお前らかよ。何しに来たんだ……」
『トリックオアトリート!!!』
「……はぁ?」
大森先生は四人の声を聞きながら、腰を擦って椅子に座り直した。
「いや、だからお菓子ちょうだい?」
「おかしいだろそれは」
ホタル部長の言葉につっこんだ。
「『トリックオアトリート』って『お菓子くれなきゃイタズラするぞ』って意味だぞ?お前らもうイタズラしてんじゃん。お菓子貰う前にイタズラすんなよ」
ごもっともすぎる。
「そんな難しい事はどうでもいいんだ!とにかくお菓子ちょうだい!」
ホタル部長は強引にお菓子を貰おうとする。
「いやだよ。だいたいなんだよその仮装は。校則違反だぞ。指導対象だぞ」
校則を盾にして逃げる大森先生。
「そんな校則知らない!お菓子をよこせー!」
指導にも怯まないホタル部長。
「だから無いって」
両手を広げて何も無いアピールをする大森先生。
「あとついでにエアコンよこせ!」
ついにお菓子じゃなくなった。
「冬はストーブとコタツ持ってくからそれで我慢しろ」
コタツいいなぁ……。
「だいたいナツミちゃんの入部届け早くどうにかしてよ!いつまで経っても仮入部扱いなんだぞ!」
そうだそうだー。
「それはすまん。どうにかする」
あれ、なんかいつの間にかすごい脱線してる……。
「とにかくお菓子ちょうだい?貰ったら帰るから」
話が元に戻った。
「しゃーねーな」
そう言いながら大森先生は財布を開けて。千円札をホタル部長に握らせた。
「これで好きなもん買いな」
一年に一回会うかどうかレベルの親戚のおじさんみたいな事するじゃん。
「いや、違うんだよなー。ハロウィンってそうじゃないんだよなー」
ホタル部長は納得いかないようだ。
「はぁ、しょうがない。これやるよ」
そう言って机の下から袋を取り出した。
「はいこれ、新発売のポテチ。チョコがかかってるやつ。本当は家に帰って食べるつもりだったけど、みんなで食え」
あれ、これって……。
「これはもうあるんだよ……!」
ホタル部長の悲しそうな声が職員室に響いた。
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