第16話 文化祭
「文化祭、すごい賑わいだね」
ナツミは周りをキョロキョロと見回しながら言った。
今日は高校生になってはじめての文化祭だ。
中学生の時にした文化祭とはと違って、とても活気に溢れている。流石高校って感じだ。
「なんだか知らない制服の人も見えるね。他の高校の人もいるからとても賑わってるのかも」
セーラー服を着ている女の子も居る。セーラーを着ていた中学生時代が懐かしい。
本当はゆるふわ部の四人で回りたかったんだけど、先輩達は店番があって一緒に回れないらしい。残念……。
だから今日はナツミと二人で回ることにした。私達のクラスは他の子が劇をやってるから、私達はやることが無い。
「人が多すぎてはぐれそうだね」
「そうだね、でもだからって私の服の袖を掴むのやめない?そんな事しなくてもはぐれないよ」
ナツミは私の服の袖をしっかりと掴んでいた。
「掴んでる方が安心できるんだけど……」
「私が動きにくくなるからやめて欲しいな」
「なら仕方ない……」
ナツミは素直に離してくれた。
「もう、そんな悲しそうな顔しないでよ……。ナツミの行きたいところ行こう?一緒に付いて行くから」
***
「え、ナツミ、ここに入るの?」
ナツミは『1-5 お化け屋敷』と書かれた看板の前に立ち止まった。
窓はダンボールで隠されていて、廊下から中の様子を見る事はできない。
「大丈夫なのナツミ?私怖いの苦手なんだけど……」
「多分大丈夫」
ナツミは親指を立て、ドヤ顔で言った。
いや多分じゃ安心できないんだよなぁ。でも付いて行くって言っちゃったし……。
「わかった……、じゃあいこっか」
ナツミを先頭二人はお化け屋敷と化した部屋の中に入っていった。
中はナツミの表情が確認できないほど薄暗く、絶えず不気味な雰囲気を醸し出す音質の悪い音楽が流れている。机を二段に重ねてその上から黒い布をかける事で通路の壁を再現しているようだった。
「ナツミは怖くないの?」
「まだ大丈夫」
そう言ってナツミはゆっくりと歩き出した。
天井から怖い顔をしたお面が吊り下がっていたり、床に血のような色をした絵具が塗られていた。掃除大変そう……。
「きゃぁ!」
「なに?!」
前で歩いているナツミがいきなり大声を上げて、連鎖的に私もビックリした。
「霧吹きみたいなので水かけられた……びっくりした……」
「そうだったんだ……」
ただ歩くだけじゃなくてちゃんと仕掛けもあるらしい。うー、進みたくない。まだ前にナツミがいるから良いけど、一人では絶対に入りたくないな。
キャー!!!
「「きゃー!」」
どこからともなく響いてきた悲鳴に驚かされた。
「今の何?」
ナツミの声が震えて聞こえる。
「多分スピーカーからずっと流れてる音楽に悲鳴が入ってたんじゃない?」
突然悲鳴が聞こえたら流石に怖いよ……。
「早く出よう?もう十分だよ」
ホラーが嫌いな私にはもうお腹いっぱいだ。
二人はもう一度ゆっくりと進み始めた。さっきの悲鳴のせいでちょっとした物音でも怖い。
歩いてきた感じ、結構終わりの方まで来ただろう。多分あれが最後の曲がり角だ。すると、ナツミが突然立ち止まった。
「ねぇマイ……」
ナツミがゆっくりと私の方へ振り向いた。
「どうしたの?」
「こわい」
「なんで今なの?!」
大丈夫って言ってたじゃん……。
よく見るとナツミは少し震えていた。
「もう!この曲がり角が多分最後だから!」
「ここ曲がったら絶対何かあるよ……」
「進まないと分からないでしょ?」
「えぇ……」
「あぁもう!」
ナツミが足踏みばかりして全く進まないのが少しもどかしくて私はナツミの背中を押してしまった。
「わぁ!ちょっと!何するの?!」
「何かあった?」
私はナツミが怒っているのを無視して向こう側の状況を聞いた。
「いや特には……」
じゃあ大丈夫じゃん。
「じゃあ早く進もう」
私もナツミに隠れながら外に出る。
曲がり角を曲がると一直線の道の先に出口が見えた。
「あれ出口じゃない?」
「マテェ……」
何か声がしたと思って二人は後ろを振り向いた。すると、そこには顔が隠れるほどの長い髪をした白い服の何かがナイフを持って立っていたのだ。
「「キャー!!」」
二人は出口に向かって走り出した。ナツミは出口の扉を思い切り開けて、二人は廊下へと飛び出した。
まさかあんなのがいるなんて……
私達の様子を見た店番のある女子生徒が、私達に話しかけてきた。
「大丈夫?ここの肝試しそんなに怖かった?そんなに怖くしたつもりは無かったんだけど……」
「あぁ、大声出してごめんね?私達怖いの苦手で……。」
「ナツミはホラー苦手じゃないよ?」
「あんなに怖がってたのに得意とは言わせないからね?それにしても最後のところ凄かったね。髪に長い女の人が出てきて……」
私がそう言ったあたりで店番の子の顔がみるみる青ざめていった。
「そんなのウチのクラスは用意してないよ?」
「「え?」」
ここやばいわ……早く離れよう……。
***
マイ達はお化け屋敷を離れて違うフロアを歩いていた。
「私達の後ろにいたのはなんだったんだろうね……?」
「よく分からないけどナツミ達無事で良かったよ」
「あれ、マイちゃんとナツミちゃん!」
ココ先輩が向こうから手を振って呼んでいた。
私は知っている人に会えて少しテンションが上がった。
「ココ先輩じゃないですか!こんなところでどうしたんですか?」
「店番の時間が終わったから、ちょっと他の店がどんな感じか見て回ろうと思ってね。マイちゃんとナツミちゃんは店番とか無いの?」
「私達のクラスは劇をやるんですけど私は出ないので」
「ナツミもー」
「じゃあマイちゃんもナツミちゃんも今は暇なんだね?せっかくだからちょっとついてきよ」
ココ先輩は私たちに向かって手招きしている。
何があるか分からないが、特に行くところも決めてなかったので私達はついて行くことにした。
私達はココ先輩の後ろを二人並んでついて行く。
「そろそろ会いたくならない?」
ココ先輩は後ろにいる私達にそう言った。会いたいと言うと……?
「着いたよ」
そういうと、ココ先輩は教室のドアを開けた。
「ほら、入って!」
ココ先輩に背中を押されて教室に入った。
「いらっしゃいませー……ってえっ?!マイちゃん?!ナツミちゃんも居るじゃん?!」
そこにはメイド服姿のホタル部長がいた。
「ホタルー、あとは任せたよ」
そう言うとココ先輩はどこかに行ってしまった。
「ホタル部長!ここにいたんですね!あのー、ここは一体?」
ホタル部長の他にもメイド服姿の女子が数人いる。
「少しは気付いてるかもしれないけれど、メイド喫茶みたいな感じだね。別にご主人様ーとか言うつもりないけど」
そう言うと、ホタル部長はメニューを片手に抱えたまま「どう?」と、その場でくるっと一回転した。遠心力でスカートの部分がふわっと広がる。
「とっても似合ってて可愛いです!」
「ありがとーマイちゃんー!クラスのみんなで頑張って作った甲斐があるよー!」
ホタル部長は私をギューっと抱きしめた。
「これ買ったやつじゃないんだ……作るの大変そう……」
ナツミがホタル部長の服を触りながら呟いた。
「クラスのみんなで分担して作ったんだよ。すごいでしょ!」
「ホタルは『難しい!』って言ってあんまり手伝って無かったでしょー?」
教室の奥の方からホタル部長のクラスメイトらしき人の声が聞こえた。
「あーちょっと!せっかく後輩にいい顔してたのに邪魔しないでよー!」
「でもメイド服を可愛く着こなしてるホタル部長もすごいですよ?」
「マイちゃんいいこと言うねー!流石アタシの可愛い後輩!」
ホタル部長はもう一度私をギューっと抱きしめてくれた。
「よし!アタシはとっても気分が良いから二人の分のお金出してあげる!」
「ホントですか?!」
「え?ナツミも?」
「うん二人とも好きなの選んで良いよ!」
ホタル部長はそう言うと私達の前にメニューを広げた。
「えっとー……ミックスジュースで!」
「えと、えと、ナツミも!」
***
文化祭が終わった帰り、ゆるふわ部の四人はみんなで一緒に歩いていた。
「今日は二人ともありがとね。学年も違うのに色々手伝ってくれて助かったよ」
ホタル部長が私達の頭を優しく撫でながら言った。
「いえいえー、先輩達の役に立てて良かったです」
私とナツミは、あの後小さな看板を持って学校中を歩き回って宣伝していた。
「ナツミ達結構楽しんでたよね。歩いてたら途中でまたココ先輩に会って……」
「わたし達三人で宣伝してたねー」
ナツミとココ先輩は楽しそうに話している。
部活動の延長みたいで楽しかったな。
「来年はマイちゃんがメイド服着るんだよね?」
「え?」
ホタル部長、いきなりすごい事言いますね。
「いや、あれはホタル部長だから似合うのであって……」
「ナツミもマイのメイド服見たい!」
「え?!」
私なんかが着ても似合わないでしょ……。
「ホタルならメイド服貸してくれるんじゃない?」
あわわ……ココ先輩まで……。
「アタシのならいつでも貸してあげられるよ?」
「いや、でもサイズとか……」
「大丈夫!大きめに作ってあるから!」
逃げ道がい無いな……?
「えーっと……前向きに検討しておきます……」
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