第15話 新入部員
放課後、マイは部室へ向かうため廊下を歩いていた。
校舎を歩き回ったけど、ナツミ見つけられなかったな……。ナツミの行きそうなところは全部探したはずなんだけど……もしかして先に帰っちゃったのかな?
昨日部室を物凄い勢いで飛び出して行ったからなぁ。ちょっとゆるふわ部には行きづらいって思う部分もあるのかな?だからって何も話さず帰らなくても良いのに。話くらいは聞くんだけどな。
そんな事を考えているうちに部室の前まで来た。
ここに来るまでにナツミに会えたら良かったんだけど……やっぱり帰ったのか……。
私は少し寂しく思いながら部室の引き戸を開けた。
部室にはいつものメンバーがいた。楽しそうに話すホタル部長とココ先輩、そしてナツミ……。
「ナツミ?!」
「あ、やっと来た。遅いじゃん」
「ナツミが来るの早いんだと思うんだけど」
ナツミを探すために校舎を歩き回ったあの時間を返してほしい。
とりあえず私はナツミの隣に座った。部室の机は向かい合わせになっていて、私の正面にホタル部長、左にナツミ、そして左向かいにココ先輩が座っている。
「それにしても来てくれたんだね、ナツミ」
「だってマイが居るから」
「二人は仲が良いね」
ココ先輩が言った。
「高校に入ってすぐにできた友達なんです!始業式の日にナツミから話しかけてくれて……」
「すぐ仲良くなったよね。曲の好みとか好きな食べ物とかマイと結構似てて、なんだか気が合うんだよねー」
「ねー!」
「本当に二人とも仲が良いね見てて微笑ましいよ」
私たちのやりとりを見たココ先輩が優しい笑顔でそう言った。
「なんだかアタシとココみたいだね」
「確かにそうだね」
「というと?」
ホタル部長とココ先輩の会話にナツミが反応した。
「わたしはホタルを追いかけてこの部活に入ったんだ」
「じゃあナツミはココ先輩と同じですね!」
「うん、そうだね」
そう言ってココ先輩はナツミに微笑みかけた。
「あれ?そういえばナツミって正式な部員なんですか?」
昨日来たばっかりだけど。
「いや、まだ仮入部みたいな感じだよ。大森先生に書類とかを出してないし」
「ホタル部長、その名前を口に出したら来ちゃいますよ」
「そんなわけないでしょ?」
ガラガラ……
「呼んだ?」
どこからともなく現れた大人の男性が、扉を少しだけ開けて顔を覗かせていた。
「本当に来た……」
「だから言ったでしょ?」
私の勘が「先生が来る」って囁いてた。
「あのひとは……?」
扉を少しだけ出して顔を出してる大人が不審じゃない訳ない。ナツミは私の耳元で不安そうに聞いた。
「あれは顧問の大森先生。イマイチ私もどういう人か分かってないけど、悪い先生じゃないと思うよ。よく分かってないけど」
「二回も言うんだ」
「だって本当によく分からないんだもん」
話題にしただけで飛んでくるのは恐ろしすぎる。
「あのー……」
大森先生が私たちに聞こえるかどうかくらいの小さな声で私たちに呼びかけた。
「あー……呼んでないです」
ホタル部長は静かに言った。
「あっ、はい」
大森先生はゆっくりと下がっていき、そっと扉を閉めてどこかに行ってしまった。
扉の向こうから「あんな子居たっけな……?」という声が聞こえた気がした。
「なんだか大森先生元気無かったですね」
初対面の時はあんなに暑苦しくてうるさかったのに。
「疲れてるんじゃない?最近忙しそうだし早歩きで廊下を渡ってる姿をよく見るよ」
ホタル部長は半ば他人事のように言った。
「それで何の話でしたっけ……あ、ナツミの入部の話か」
大森先生が来るから話題を完全に忘れてしまった。
「ナツミちゃんは本当にアタシ達の部活に入るの?」
「もちろん!マイともっと遊びたいので!」
ホタル部長の問いにナツミはそう返した。なんだか私が一番得してない?
「あー、今までマイちゃんと遊んでた時間がこれからちょっと減るのかなー?」
ホタル部長は少しいじわるそうに私を見てきた。
「えっ?え?」
あれ?実は得してないのかも。
「マイはナツミと友達だよね?」
ナツミは私の左腕を抱えてグイッと引っ張った。痛い。
「アタシとも仲良いよね?」
ホタル部長が机から身を乗り出して私の右手を引っ張った。だから痛いですって。
「ナツミ、ホタルさんやココさんよりもマイと長く一緒に居ますから!」
ナツミがさらに左腕を引っ張ってくる。
「アタシはナツミちゃんよりも早い入学式の日に日にマイちゃんと出会ってるから!」
ホタル部長も負けじと引っ張ってくる。
「修羅場だねー」
ココ先輩は頬杖をつきながら楽しそうに私たちを眺めていた。
この光景昨日も見たな……。
「ってそれどころじゃない!助けてください!私が真っ二つに割れちゃいます!」
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