第14話︎︎ㅤ仲良しお友達
「みんな気ぃつけて帰れよー。はいさよならー」
先生の言葉で座っていた教室のみんなが一斉に動き出す。
ああ、ようやく解放された。今日も長かった。
教室には遊びの約束をしてる子もいれば、座ったまま話している子もいるし、カバンを持ってすぐに教室を出ようとしている子もいる。
私もはやく出よう。部室で先輩達が待っている。
「ねぇねぇ、マイ」
私の友達の
「どうしたのナツミ?」
「あの人たちがマイの事呼んでたよ」
ナツミが指差す先を見ると、ホタル部長とココ先輩が扉の前で私の方を見ていた。
「ああ!ありがとうナツミ!」
ナツミにそう言って、私は先輩達の方へ小走りに近づいた。
「あれ、どうしたんですか先輩?わざわざ私のクラスに来るなんて珍しいですね」
いつもみんな部室に直行するので、教室前で会う事なんて普通はまず無い。
「いや実は今から別の用事が入っちゃって……」
ココ先輩が申し訳なさそうに言った。
「別の用事?」
「友達の委員会の仕事手伝うことになっちゃってさー。ごめんね?今日はちょっと部活行けなさそうなんだ」
ホタル部長が両手を合わせて上目遣いに言った。
「あー……、わかりました!また明日ですね!」
私はできるだけ声色を明るくして応えた。先輩達には、あまり申し訳ない気持ちにはなって欲しくない。
「迷惑かけちゃってごめんね?」
「いえいえ、別に迷惑なんて――」
かけてないですよ。と、言おうとしたその時、ホタル部長が私に思い切りハグした。
「これは今日のお詫び!じゃあまた明日!」
「あっ……また明日……」
先輩達は手を振りながら教室を後にした。
まさか突然クラスのみんなの前でハグされるなんて。嬉しい気持ちもあるけどちょっと恥ずかしい……。男子も見てるかもしれないのに……。
先輩達が去った後、ナツミが近づいてきた。
「マイ、さっきの人って誰?ナツミ見たことないんだけど。同じ学年の人?」
ナツミが不思議そうに聞いてきた。
「いや、一つ上の先輩だよ」
「へぇ、意外」
「何で?」
「他のクラスの子とも全然話さないマイが先輩と話してるんだもん」
「あー……」
確かに。先輩達がいるから私って他のクラスの子と話そうともしなかったな。
「あの人達とはどこで仲良くなったの?」
ナツミは先輩との関係についてさらに聞いてきた。
「んー……部活……かな?」
「あー部活か。マイはよく部活やってるもんね。……ところでさ、マイって部活で何してるの?ナツミ達結構いっぱい話してるのにマイの部活の話全然聞かないんだけど」
「えっ?あー……」
部活の内容ね……、どうやって説明しようかな。すっごい説明しにくい。
「まぁいろいろわいわい楽しんでるよ」
嘘は言ってない。
「具体的には?」
具体的に?うーん、説明しづらい。別に何かするものは決まってないし、なんなら何もしてない日も方が多い。ただただ楽しんでいる。
「ちょっと説明は難しいかな……」
初めて部室に来た時に、ホタル部長がこの部活の説明に困っていた理由が今ならわかる気がする。
「えー?」
ナツミはジト目でとても不満そうな顔をしている。
「まぁ、別にナツミが私たちの部活に入るわけじゃないしなんでもいいじゃん」
「怪しいことでもしてるの?なんかカルト宗教じみた事とか……」
「そんなわけないじゃん。ほら、今日は一緒に帰ろう?」
「はぐらかされた……」
***
次の日、私とホタル部長とココ先輩の三人は、放課後、いつものゆるふわ部の部室にいた。
「昨日は本当にしんどかったよー……」
ホタル部長がソファーに横たわって言った。
「生徒会の段ボールとか書類とかを運ぶだけの単調でしんどい手伝いだったね」
ココ先輩の顔にも少し疲労が見えた。
「マイちゃーん、来てー」
ホタル部長がソファーの空いているスペースをトントンと叩いた。
「はーい、なんですか?」
私はホタル部長の隣に座った。相変わらずよく沈むソファーだ。
「ぎゅー。充電タイムー……」
ホタル部長は座った状態で隣にいる私をギュッとハグした。
「あはは、相当疲れてたんですね」
流石にこうやって部室の中でこうやってハグされるのはだいぶ慣れた。今まで何回もハグされてきたしね。
「ホタル部長?まだ抱きついてるんですか?もう良いような……」
五分くらい経った気がする
「もう少しだけー」
ガタンッ!
「たのもー!」
「え?!」
突然扉が開いたかと思えば、そこには一人の女の子がいた。
「あれ?ナツミじゃん!」
その子は私の友達、ナツミだった。
「マイ!……って誰よその女!」
ナツミはホタル部長を指差して言った。
「え?えっと……」
「君こそ誰なのさ!」
私が返す言葉に困っている間に、ホタル部長が私に抱きついたまま言葉を返した。
二人はそのまま一言も発さずに睨み合ってしまった。
「わぁ……一瞬にして修羅場になったね」
「ちょっ!ココ先輩!見てないで助けてください!」
***
二人にはなんとか落ち着いてもらって、ナツミには空いている私の横の席に座ってもらった。
「えっと……とりあえず君の名前は?」
ホタル部長がいつもの席ではなく、ナツミと向かい合う席に座って、名前を聞いた。
「
「いやいや、アタシもちょっと取り乱しちゃってごめんね?ちなみにさ、ナツミちゃんはなんでここに来たの?」
「マイを追ってきました」
「えっ?私?!」
全く身構えてなかったのでびっくりした。
私を追ってきたってどういう事?
「昨日の放課後、マイと教室で話してた時に、部活で何やってるか聞いたんですけど教えてくれなかったんです。でもどうしても知りたかったのでマイの後をバレないようについてきました」
「おぉ……」
ホタル部長はなんだか少し引いているように見えた。ナツミのやってる事って見方によってはストーカーだもんね……。
まずナツミってそんな行動力あったんだ……。
「結局この部活って何やってるんですか?」
「それはとっても難しい質問だね」
ナツミの問いにココ先輩が答えた。
「あー、やっぱり答えられないんですね。ってことはやっぱりナツミの予想通り怪しい部活なんじゃないですか?」
「いや別に怪しくないよ?!ちょっと説明しづらいだけだから!」
ホタル部長が必死に反対した。
「別に聞きますよ。ナツミはマイが怪しい部活に入ってないか心配ですから」
「そんなに気になる?別に説明するけど」
コホン、と咳払いをして、ホタル部長が話し始めた。
「この部活、ゆるふわ部って言うんだけど――」
「ゆるふわ部?」
「まぁ名前は突っ込まないで。アタシ達は気に入ってるから」
「あっ、はい」
「それでゆるふわ部なんだけど、特に活動内容とかは決まってないんだよね」
「えっ……?」
ナツミは相当驚いているようだった。そりゃそうだ。
「何をするかとか、部活の目標が決まってないから、ホントに毎日おしゃべりしたり、お菓子食べたりしかしてないよ」
「え?でもそれって部活として成り立ってるんですか?」
「成り立ってなかったら今頃この部活は消えてるよ」
ホタル部長は胸を張って言った。
「確かに……。ちなみにマイはこの部活楽しんでるの?おしゃべりしたりとかお菓子食べたりするだけなのに」
「楽しいよ!」
「先輩達とは楽しんでるんだね。なんかカルト宗教的なやばい部活だったらどうしようと思ったけど大丈夫っぽくて良かったよ」
「昨日も怪しくないって言ったでしょ?ようやく分かってくれたんだね」
私とナツミの会話を聞いたホタル部長はようやく安心出来たようだった。声色が少し柔らかくなったように聞こえる。
「ねぇねぇ、ホタル」
ココ先輩がホタル部長の肩をトントンとした。
「どうしたのココ?」
ココ先輩はホタル部長に何か耳打ちをした。
「おお、それいいね!」
そう言うとホタル部長は椅子から立ち上がってさらに続けた。
「よし!ナツミちゃん!今日から君もゆるふわ部の部員だよ!」
「え、そんないきなり?!」
「嫌かな?ナツミちゃん可愛いから大歓迎なんだけど……」
「えっ……はわ……かわ……可愛いなんて……やめてください……」
突然ナツミは顔を赤らめてうろたえた。
「え?なんでさ。可愛いじゃん。アタシ達の部活にきてくれないかなー?」
ホタル部長はナツミの目を真っ直ぐ見て言った。
「はわわ……その……可愛いとか……そんな……」
「来てくれないかなー、可愛いナツミちゃん?」
「あわわ!あのっ、あのっ、失礼しましたー!」
部室を飛び出すナツミの背中にホタル部長はこう言った。
「明日からも来て良いからねー!」
ナツミがどこかに行ってしまい、部室の中には三人が残った。
「どっか行っちゃったね」
ココ先輩が開け放たれたままの扉を見ながら言った。
「たくさん可愛いって言われてましたからね。さすがにくすぐったかったんじゃないですか?」
ナツミの新たな一面というか、弱点を見た気がした。
「ちょっとやりすぎたかもね……!明日も来てくれると良いんだけど」
ホタル部長は少し不安そうだった。
「来てくれたら友達としても嬉しいです」
とりあえずナツミには明日クラスで声かけておこう。
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