第9話 扇風機
最近、突然暑くなった。日差しが強くなり、湿度も高くなってきている。なんだか空気が重く、息がしづらくなったようだ。まぁ、夏だから当然と言われればそうなのだけど。
「ホタル部長ー、暑いですよー……。なんでこの部屋には冷房の一つも無いんですかぁ!」
「そんな無茶言わないでよマイちゃん。ここって元はただの物置だよ?そんな物置に冷房つける人なんていないでしょ」
「でも今は部室ですよ?冷房くらいつけてくれても良いじゃないですか」
「顧問が頑張ってくれないとダメだねー。」
「あぁ……」
舞のテンションが一瞬で落ちた。苦手な人に頼みにいくのはイヤだなぁ。
部室は陽当たりがよく、春はポカポカして、ウトウト昼寝をしてしまうくらいの暖かさだ。しかし、夏になるとここまで暑くなるとは、マイは全く想像もしていなかった。
「でも、ここまで暑いと苦手な顧問にも頼りたくなってくるなぁ」
マイがポッと独り言をこぼしたとき、廊下の方からドタバタと誰かが走ってくる音がした。その音は次第に大きくなり、ついに部室の前で止まった。
そしてドアが勢いよく開かれる。
「呼んだ?」
「呼んでないです!」
マイはキッパリと否定した。
部室に来たのは元気モリモリ(自称)大森先生。ゆるふわ部の顧問だ。
「いや今絶対呼んだでしょー!呼んだって!」
「そういう発言をしてウザがられないのは世界でもオフ◯スキーだけだよ?」
「なんか最近になって
「気のせいだと思うよ?それよりなんで来たの?」
「なんかその言葉にもトゲがあるように聞こえるな……まあいい。ちょっと待ってて」
大森先生はそういうと廊下に何かを取りに行った。
「こんなのを持ってきたぞ!」
そう言って戻ってきた大森先生は、少し古そうな扇風機を持ってきた。なんだか少し色褪せているように見える。
「それどうしたの?」
ここでちょうどココ先輩がやってきた。
「おぉ、朝日。職員室の奥の方にこの扇風機が置いてあったからな、みんなの為に持ってきたんだよ」
「あら、ありがとうございます!最近暑いから助かります」
「朝日は誰にでも優しいな……」
「えっ?どうしたんですか先生?あ、もしかしてあなた達何かしました?」
あっ、やべ。ココ先輩こっち見てる。なぜか敬語だし。なんかこわっ。目逸らしとこ……。
「まぁ良いけど……」
助かった……。
「それにしても扇風機ありがとうございます!また何かあったらよろしくお願いしますね」
「おう!任せな!」
そう言うと、大森先生は満足げに帰っていった。
ココ先輩は大森先生が帰ったのを見てから、私達を咎めるような口調でこう言った。
「もう……大森先生はわたしたたちの部活の顧問なんだから、優しく丁寧に扱わないとダメだよ?」
「「はーい」」
怒られてしまった。
あれ、ココ先輩、大森先生をもののように思ってない?ま、いいか。
「さて……」と、ホタル部長が口を開いた。
「ウチの顧問から扇風機を貰ったわけだけど……とりあえずつけるか」
そう言うとテキパキとコンセントをさして、スイッチに手をかけた。
「この暑い部屋を変えてくれー!スイッチオン!」
ポチッ……
ブオーン……
おおーめっちゃ涼しいじゃん。見た目はとても良いとは言えないけど、仕事できるな。やるやん。
「おー、ー。結構、涼しい、ねー。あー、ー、ー。」
ホタル部長が扇風機の目の前で話すものだから、声が途切れ途切れになっていた。
「とりあえずそこに扇風機置いて私達は
座りませんか?扇風機の前に3人も居たら、結局暑くて本末転倒ですし」
私は提案した。正直ずっと立ちっぱなしで疲れた。
「確かにそうだねー、座ろっか」
ホタル部長がそう言ったので、みんな座った。
勝手に座ればいいんだろうけど、みんな座ってないのに後輩である自分だけ座るのもなんだか気が引ける。
とりあえずみんな座り、それからいつものように思い思いにくつろぐ。本を読んだり、スマホを見たり。放課後の楽しみ……
「え?!なんか暑くない?!」
ホタル部長が突然立ち上がって言った。
確かに暑い。扇風機をつけたと言うのに何がいけないんだ?
気になって私が扇風機をふと見た時に気付いた。
「この扇風機、首まわってませんね」
「「あ」」
まさかのこの扇風機、虚空に向かって永遠に風を送り続けていたのだ。
「まさか首が回らないなんて事は無いよね?」
ホタル部長はそう言いながら扇風機をいじっている。
そして一通り確認して一言。
「あの顧問、使えない扇風機寄越してきたぞ!」
結局、扇風機の首は回らなかった。
普通そんな扇風機無いでしょ……。なんでそんな物買ったんだ。
「仕方ないから帰りましょう。こんな状態だと熱中症で倒れちゃうよ?」
ココ先輩が言った。確かにこの暑さは人を殺せそうだ。
「えー?もう帰るの?もっとみんなと一緒に居たいよ」
ホタル部長が駄々をこねる。かわいい。
「もう……帰り道に近くのお店でアイスでも買お?それでみんなで食べようよ」
「おー!ココってば天才!そうと決まれば早く行こう!」
「もう……気が早いなー。落ち着けないのー?」
なんだか微笑ましい光景だった。なんだか仲良し姉妹みたいだ。小型犬と飼い主の方が正しいかな?
「マイちゃん!」
ホタル部長に腕をがしっと握られた。
「何ボーッとしてるの?早くアイス食べにいくよ!」
「あー!待ってください!今行きますから!」
今日のゆるふわ部はまだ終わらなさそうだ。
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