第6話 お昼ご飯
昨日のゆるふわ部、もうそろそろ帰ろうかという時間に、ココ先輩が私に質問してきた。
「ねぇ、マイちゃんはいつもお昼ご飯どうしてる?」
「お昼ご飯ですか?いつもお母さんにお弁当を作ってもらってますね」
毎日私のお母さんが早起きして作ってくれている。給食と違い、お母さんは私の好き嫌いを知っているので、嫌いな食べ物が入っていないから好きだ。
「でもいきなりどうしたんですか?」
部活の終わりかけの頃にいきなりお昼の話をされてもなんのことかよく分からない。
「いや、いつもは食堂で食べてるんだけど、久しぶりにお弁当を作ってこようかなって思ってね、せっかくだからマイちゃんの分も作ろうかなって……迷惑だったらやめるよ?」
「え?!全然迷惑じゃないです!めっちゃ食べたいです!」
ココ先輩が私の為にお弁当を作ってくれるとか嬉しすぎる。
「え?!私も食べたい!作ってよ!」
噂を聞きつけたホタル部長も参戦してきた。
「いいよ、最初からそのつもりだったし」
「やったー!」
ホタル部長は手をあげて喜んでいた。突然子供っぽくなるなぁ。
「じゃあ明日の昼休み、教室で待っててね」
「アタシ達が教室に乗り込みに行くから!」
ココ先輩とホタル部長にそう言われて昨日は終わった。
そして今日……。
私はワクワクドキドキしながら自分の席で座って待っていた。ココ先輩、どんな弁当作ってくるんだろう。そもそも放課後以外に先輩に会うことが無いから新鮮だ。
「おーい、マイちゃんいるー?」
後ろからホタル部長の聞き慣れた声が聞こえた。振り向くと、ドアの前にホタル部長とココ先輩がいた。
「はーい!ここにいますよー!」
私は、2人に向かって手を振りながら言った。
先輩達は私に気づくと、ゆっくりと教室に入ってきた。
「やっと見つけたね……。ごめんねホタル。昨日の間にマイちゃんのクラス聞いておけばよかったんだけど、忘れてたよ」
「いや、いいよ。ちょっとした運動になるからね」
あ、昨日自分のクラス言ってなかった。もう少し気配りしとけばよかった……。
「ま、だいたい過ぎた事を色々言っても仕方ないんだから。早くご飯食べよ?」
ホタル部長は急かすように言った。お腹すいてるのかな。
ココ先輩は「そうだね」というと、大きめのお弁当箱をカバンから出した。
「あれ?ここで食べるんですか?部室には行かない感じですか?」
私はそのつもりでいたんだけど。
「今から行くのも面倒だし、大体、あっちで食べるならここを集合場所にはしないよ」
ココ先輩が言った。
「あと、たまにはこういう真新しいこともしてみたいじゃん?」
ホタル部長も答えてくれた。
なるほどー。教室でっていうところがいいのかもしれない。確かにこういう日があってもいい気がする。私も楽しいし、嬉しいし。
私がそんな事を考えている間に、2人はいつも間にか椅子を用意し、お弁当箱を出して、私の机を囲むように座いた。手際いいなー。ていうかお弁当箱2段じゃん。私達のために頑張ってくれたのかな。嬉しいな。
「よし!じゃあ食べよ!ココ弁当箱開けちゃって!」
「じゃあ開けるよー?じゃーん!」
ホタル部長の合図でお弁当が開けられた。
「おー!すごいですねココ先輩!」
上の段には色とりどりのおかずや野菜、下の段には、綺麗に形の整ったおにぎりが並べられていた。どれも美味しそうだ。
「どれでも好きなものをとっていいからね?」
「あ、はい!じゃあさっそく……。え?」
ココ先輩にとっていいと言われたので、気になるものを取ろうとしたら、ホタル部長に腕を掴まれた。
「いただきますした?」
「あー……してないですね」
確かにいただきますとごちそうさま大事だよね。
「はいじゃあみんな手を合わせて?」
どうしたんですかホタル部長?小学校の頃の給食みたいなノリみたいになってますけど。
「マイちゃん早く手を合わせて?」
「えっ?あっはい」
困惑してたら怒られた。
気づけばココ先輩も手を合わせていた。なんか周りからの視線を感じるんだけど。
「いただきます!」
「「いただきます!」」
ホタル部長が言うから小学校の感じでやっちゃったけど、これ恥ずかしくない?なんかもっと注目集めてる気がするんだけど。
「……?マイちゃんどうしたの?そんなボーッとして」
気づくとホタル部長が私の目の前で手を振っていた。
「あぁ、すみません恥ずかしさで動く事を忘れてました」
すると、ココ先輩が優しく心配してくれた
「食べないの?早く食べないと無くなっちゃうよ?」
「あっ、それはダメです!」
私がそう言うと、ホタル部長が唐揚げを掴んだままの箸を私に向けた。
「ほら、口開けて?食べさせてあげるから。」
「え?!ここでですか?!」
周りの視線もあってめっちゃ恥ずかしいんだけどー!部室でなら大歓迎なんだけどなー。
「もちろん!さぁ口を開けて?1回食べてしまえばこっちのものだから!」
こっちのものってそれはどういうことですかホタル部長。
もうこうなったら周りの目なんて気にしてられない。なるようになれっ!
「はい、あーん」
「あーん」
パクッ
「お口に合えばいいんだけど……」
ココ先輩が心配そうに見つめてくる。
「うーん!これ美味しいです!」
ジューシーでかたいところがまったく無い美味しい唐揚げだった。家で食べるやつ食べるたまにかたいからなー。
「そう?よかった!美味しく無いって言われたらどうしようかと……」
ココ先輩の顔には安堵の色が見えた。
「じゃあこれも食べてくれない?」
ココ先輩は箸で卵焼きをつかんでいた。え、またあーんってする感じ?
ココ先輩の箸は私の思いなど意にも介さない様子で、いつのまにか卵焼きが私の口元にやってきていた。
「はい、あーんして?」
「あーん」
パクッ
「おぉ、これも美味しい!私の家の卵焼きと違って甘いですね。でもこれはこれで好きです!」
すると、ココ先輩は顔をパァっと輝かせた。
「そう?良かった!いっぱい作ったからたくさん食べてね!」
その後、3人で残りを全て食べた。食べている間、ゆるふわ部にいる時と同じようにおしゃべりをした。あと、これも食べてあれも美味しいアタシもあーんしたいと、いっぱい食べさせられた。
「いやー、いっぱい食べたね!」
ホタル部長は、空になった弁当箱を見ながら言った。
「あー、もうお腹いっぱい?デザートに果物切ってきたんだけど……」
そう言うココ先輩は新たな箱を出してきた。ココ先輩が箱を開けると、中にはウサギの形に整えられてリンゴが入っていた。
「デザートは別腹だよ!」
ホタル部長が元気になった。
「すごーい!ウサギだ!」
私はあまりこういうものに、見慣れてないから少しテンションが上がっていた。
「喜んでくれてよかった。こんなに嬉しそうだと作った甲斐があるよ」
ココ先輩は嬉しそうに私たち2人を眺めていた。
いつのまにかリンゴも全てなくなり、楽しい昼休みも終わりが近づいていた。
「そろそろ昼休みも終わりますね……」
「マイちゃん、大切な事を忘れているよ」
私が名残惜しそうにしていたら、ホタル部長が真剣な顔をして言ってきた。
「大事なことってなんですか?」
「ごちそうさまをしていない」
「……なるほど」
そんなにシリアスない空気醸し出さなくてもいいのに……。確かにいただきますとごちそうさまは大切だけどね。
「はい!じゃあ手を合わせて?ごちそうさまでした!」
「「ごちそうさまでした」」
するとホタル部長が突然立ち上がった。
「そろそろ時間も危ないし教室に戻るよ。遅れたら怒られちゃうしね。ココ、行こっか」
「うん、そうだね。楽しかったよ、また来るね、マイちゃん」
そう言うと、ホタル部長とココ先輩は教室を去って行った。
「あ、そうだ!」
ココ先輩の声が聞こえたので私は後ろを向いた。
「またお弁当作ってくるから楽しみにしててね!」
ココ先輩はそう言うと私に手を振ってから、小走りに帰っていった。
すごく楽しい時間だったな。次が楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます