第5話 ハグ

 ある日の放課後、私はゆるふわ部の部活でボーッとしていた。


「マイちゃーん。こっち来てー」


 すると、ソファーに座っているホタル部長が私を呼んだ。なんだか声が疲れているような……?

 とりあえず私は呼ばれたので、そっとホタル部長の隣に座った。


「どうしたんですか?ホタル部長?」


 私が聞くと、ホタル部長は突然、私を力強くハグした。


「突然どうしたんですか?」

「疲れたのー……ちょっと充電させてー……」


 いつもは頼りがいのある部長がよわよわになっていた。こういう感じの部長も可愛いなー。

 ホタル部長はしばらくのあいだ、私の腰に手を回し、私の胸に顔を埋め、じっとしていた。ホタル部長からはシャンプーの甘い香りがした。

 私はそんなホタル部長がとても可愛らしく見えて、私もホタル部長を抱きしめずにはいられなかった。幸せな時間が流れる。ずっとこうしていたい気待ちになる。

 初めてハグされた時の事を思い出した。戸惑って何もできず、ただされるがままの状態だった。けど、今では慣れた。むしろこの時間が大好きになった。ホタル部長のあたたかさを感じられる大切な時間だ。


 やがて、ホタル部長は顔を上げた。なんだか顔色が良くなったような……?


「マイちゃん成分で充電かんりょー!元気になったよ!」


 ホタル部長はとても笑顔になった。私から何か吸い取られたのかな?


「私もホタル部長ぎゅーってして元気でましたよ!」


 むしろ私も元気になった気がする。


「そういえばなんであんなに疲れてたんですか?なんか珍しい気がするんですけど」


 私はさっきの部長の様子が気になって聞いてみた。


「あー、あれはただ単に模試があったからっていうだけだよ。本当に何もわからないと心がしんどくなっちゃうよ。ホント難しすぎ、加減というものを知って欲しいね」


 なるほど。確かに模試は疲れるな。


「それにしてもさっきはいきなり抱きついちゃってごめんね?」


 ホタル部長は申し訳なさそうに両手を合わせている。


「あー、全然大丈夫ですよ?むしろ私はあの時間めっちゃ大好きですから。なんなら毎日されても大丈夫ですよ」


 本当はずっとあの状態でもいける。


「そう?つい私の癖でああいう事しちゃうんだけど……嫌じゃないなら良かった!」


 ホタル部長は嬉しそうだった。


 ……ハグが癖なの?他の女子にもしてるのかな?


「ハグがホタル部長の癖なんですか?ちょっと気になります!」


 私が食いつくと、ホタル部長は驚いた顔をした。


「あ?気になっちゃう?!まさかそこ突っ込まれるとは思ってなかったから……。癖と言ってもいろんな女子に対して無差別にしてるわけじゃないよ?ハグしてるのはマイちゃんとココくらいだし」


 良かった……。


 あれ、なんでこんなに安心してるんだろう。


 ホタル部長は私の心の変化などつゆ知らず、話を続けた。


「アタシのお母さんはね、何かあるたびに私をハグしてくれる人なの。嬉しい時も悲しい時も、お母さんはハグしてくれたの。そのたびにアタシは心が満たされるような気分になったの。だから私が誰かにハグをするのは十中八九お母さんの影響だね」


 ホタル部長のお母さんありがとう……。おかげで私は幸せです。


 ホタル部長の話はまだ続く。


「最近は流石にアタシが成長しすぎたのかハグもしてくれなくなったんだけど、私はあの心の満たされるあの感覚がほしくて、こうやって抱きついちゃうんだ。迷惑だったらやめてたんだけど、大丈夫ならこれからもいっぱいハグさせてもらうね!覚悟しててよ?」

「むしろ私がホタル部長のお母さんの分までいっぱいハグしますよ!」


 正直ハグしたいだけだけど。


「お?言ったな?じゃあさっそくハグしてよ!」

「いいですよ!」


 ぎゅー。


 何回やっても幸せだ。これなら高校生活ストレスフリーで生きていけるんじゃないか?私はハグしたままそんな事を思った。


 ハグは10分後に遅れてやってきたココ先輩がやってくるまで続いた。

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